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正しくなくても、君のそば  作者: カティオ


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第4章 人事トラブル(前半)

生徒会室のホワイトボードには、新しい表が貼られていた。

文化祭当日の配置図と、担当者の一覧。

前よりも線が増え、注意書きも多い。


「今年は人が少ないから」

九条紗季は、全体を見渡して言った。

「当日の判断を早くする必要がある」


誰も否定しない。

去年より人手が足りないのは、確かに事実だった。


「だから、責任者を一本化する」

ホワイトボードの中央に、丸で囲まれた役職名がある。

いくつかの業務がそこに集約される。


透は、その配置を見ていた。

合理的で、無駄がない。

指示系統は明確で、判断の遅れを避けられる。


「この役割、負担大きくない?」

誰かが言う。


「そう。でも、分散すると判断が遅れる」

九条は、言葉を探すことなく答える。

「去年、それで混乱があったから」


過去の事例が出ると、空気は固まる。

反論はしづらい。


「じゃあ、誰がやる?」

問いは自然にそこへ向かう。


九条は一覧に視線を落とした。

一瞬だけ、指が止まる。


「……私がやる」


その場に、わずかな間が落ちた。

驚きではない。

納得に近い沈黙だった。


「まあ、九条なら」

副会長が言う。


「他に適任いないし」

誰かが続ける。


九条は頷いた。

「判断は私がするけど、作業は分担する。無理はしない」


無理をしない、という言葉は、これまでにも何度か聞いた。

誰も反対しなかった。


「じゃあ、決まりで」

誰かがまとめる。


会議は進み、別の細かい確認に移る。

透は、九条の横顔を見ていた。


表情は落ち着いている。

責任を引き受けた人の顔というより、

必要な役割を処理した人の顔だった。


会議が終わり、片付けが始まる。

椅子を戻し、資料をまとめる音が重なる。


「九条、大丈夫?」

声をかけたのは、さっき負担を指摘した生徒だった。


「大丈夫」

即答だった。


「何かあったら言って」

その言葉も、正しい。


「ありがとう」

九条は笑った。


その笑顔を見て、誰もそれ以上、何も言わない。

言えなくなる。


透は、資料を抱えたまま立っていた。

正しさは維持され、誰も間違ってはいない。

でも、静かに一人分の重さが、中心に集まり始めていることを、透は知っていた。

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