第3章 失敗(前半)
生徒会室の空気は、いつもより静かだった。
人数が減ったわけでも、話題が重いわけでもない。
ただ、誰もが資料を見ている時間が、少し長い。
「じゃあ、確認するね」
九条紗季は、机の中央に置いた紙を指先で揃えた。
今回の議題は、行事担当の再編成だった。
文化祭に向けて、仕事量の偏りを是正する。
誰が見ても、必要な調整だった。
「この形が、一番公平だと思う」
声は落ち着いていて、断定しすぎない。
数字も、根拠も、資料に書かれている。
透は、配られた表に目を落とした。
名前が一つ、別の列に移っている。
理由は、すぐに分かった。
その生徒は、部活の都合で参加時間が短い。
「作業量を考えると、こちらの方が無理がない」
九条は淡々と続けた。
誰も反論しない。
反論できる余地がなかった。
「あの……」
小さく手が挙がった。
二年生の女子だった。
普段はあまり発言しない。
「その人、前の係、結構好きだったって聞いてて……」
言い切らない。
意見というより、補足に近い。
九条は、その言葉を遮らなかった。
一度、資料から視線を上げる。
「そうなんだ。でも、本人にも確認した」
短く、しかし丁寧に。
「無理はしたくないって」
それで、話は終わった。
好きかどうかより、無理をしない方がいい。
判断としては、正しい。
「あ、そっか」
女子はそれ以上、何も言わなかった。
誰かが咳払いをして、別のページがめくられる。
会議は、次に進む。
透は、その間、何も言わなかった。
言うべき言葉が、見つからなかった。
正しい判断だった。
誰も間違っていない。
それでも、さっきの女子の視線が、机の上に落ちたままだったことが、気になった。




