第6章 告白(後半)
「正しくしなくていいから、俺のそばにいろよ」
短く、軽い声だった。
強く押し付けることも、感情を溢れさせることもない。
それでも、九条の耳に届き、胸の奥に届いた。
九条は視線を落とす。
机の端に指先を置き、わずかに力をかける。
目は床に向いたまま、答えは出さない。
でも、沈黙の中で伝わる距離の変化がある。
透はわずかに体を傾ける。
手は膝の横に落とし、触れずに距離を確認する。
言葉にせずとも、二人の間には何かが動き始めている。
窓の外、夕陽はゆっくりと傾き、光は長く伸びた影を教室の奥まで運ぶ。
カーテンが微かに揺れ、二人の影も、わずかに揺れる。
「……それ、ずるい」
九条の声は小さく、短い。
言葉以上の意味は沈黙が補っている。
答えを出す必要はない。
それでも、二人の距離は、確かに近づいた。
透は微かに頷く。
笑わず、言葉も足さない。
それで十分だった。
光が差し込む教室の中、二人の影は長く伸びて交わる。
沈黙の厚みが、わずかに軽くなったような気配。
答えを出さずとも、互いの存在が確かに響き合う。
夕陽の中で、二人はまだ、何も決めていなかった。
言葉ではなく、視線と沈黙が、二人の距離をそっと変えていく。
作者コメント
正しさを選び続けることが、誰かを遠ざけてしまう瞬間があります。
この物語は、その距離に立ち止まった二人の話です。




