第6章 告白(前半)
放課後の教室には、わずかな残照が差し込んでいた。
机は整えられ、黒板も消されている。
外からの風がカーテンを揺らし、静かな音だけが部屋に残った。
透は教室の奥に立っていた。
ノートもペンも開かず、ただ窓の外を眺める。
考えているわけでも、言葉を探しているわけでもない。
ただ、ここにいる理由を確かめるように、動かないでいる。
九条は窓際の席に座り、鞄の紐を指で整えていた。
目線は外に向けられ、教室の中の空気には触れない。
透は、ゆっくり歩み寄る。
足音は静かで、教室の空気を乱さない。
距離は近いが、まだ触れない。心理的な距離も、絶妙に保たれている。
「九条はさ、ひとつ勘違いしてると思う」
声は低く、静かに奥から届く。
九条はゆっくり顔を上げ、透の視線を受け止めた。
言葉より先に、沈黙と視線が交わる。
透はそれ以上何も言わない。
説明も、理由も、求めない。
ただ、声を出すだけで十分だった。
九条は視線を少し下げ、言葉を選ぶ。
顔の向きは変わらず、呼吸だけがわずかに揺れる。
夕陽が教室に差し込み、二人の影を長く伸ばす。
時間の流れも、光の角度も、沈黙を際立たせる。
透の体は、ほんのわずかに九条に傾いている。
距離を縮めるでもなく、ただ存在を確認するように。
「正しくしなくていいから、俺のそばにいろよ」
短く、軽い言葉。
押し付けでも、強く求めるでもない。
でも、九条の耳に届き、心の奥に届く。
九条はすぐに答えない。
視線を落とし、机の端に指を置く。
動作だけで、言葉に出せない返答を示す。
沈黙の中、二人の間に微細な変化が生まれる。
光と影、呼吸と視線が、それを物語る。




