表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正しくなくても、君のそば  作者: カティオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

第1章 日常と違和感(前半)

朝のホームルームは、いつもと同じ匂いがした。

窓際の席に差し込む光と、黒板に残った前の授業のチョークの跡。

誰かが消し忘れたそれを、誰も気にしないまま一日が始まる。


相沢透は、窓の外を見ていたわけでも、黒板を見ていたわけでもなかった。

ただ、教室全体をぼんやりと眺めているときに、九条紗季の声が聞こえた。


「今日の放課後、生徒会の集まりがあります。新年度の役割分担について、少しだけ話します」


担任が何も言わなくても、クラスの空気が自然と整う。

「了解」「はーい」という返事が、特に揃える必要もなく、同じ高さで返ってきた。


九条紗季は、正しい人だった。

その「正しい」は、点数や規則を守るといった単純な話だけではない。

必要なことを必要なタイミングで言い、余計なことを言わない。

誰かを責めないが、曖昧にも逃げない。


彼女が言うなら、そうなのだろう。

クラスの誰もが、そう思っている。


透も例外ではなかった。

少なくとも、反論しようと考えたことは一度もない。


昼休み、生徒会室に向かう途中で、透は九条の背中を見ていた。

生徒会長ではないが、実務の中心にいる。歩く速さは一定で、振り返らない。

話しかければ応じるが、必要がなければ、誰かを引き止めることもしない。


「今日の議題、確認してる?」

隣を歩いていた書記の一年生が、少し緊張した声で聞く。


「うん。資料も揃ってる」

九条は立ち止まらずに答えた。


それで十分だったらしく、後ろからついてくる足音が、少し軽くなる。

誰も不安に思っていない。段取りは決まっていて、結論も見えている。問題が起きる余地はない。


生徒会室では、窓が一つだけ開いていた。

風が入って、書類の端がめくれる。

誰かが押さえ、誰かが「ありがとう」と言う。

九条は議題を読み上げ、意見を整理し、全員が納得できる形でまとめていく。


「この分担が一番、負担が偏らないと思う」

その言い方には、余計な感情が含まれていなかった。


「異論ある人は?」

誰も手を挙げない。


沈黙は、了承だった。

九条はそれを確認すると、静かに頷いた。


透は、その沈黙を見ていた。

正確には、沈黙そのものではなく、その前後の、ほんのわずかな間を。


誰かが口を開きかけて、やめたようにも見えた。

けれど、気のせいだと言われれば、それまでの程度だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ