エピローグ
「おい、お前のせいだぞ優輝」
「なんでだよ・・・康平が弱いのが悪いじゃん」
小学校4年になった優輝と康平は、2人揃ってリビングの壁に向かって正座をさせられていた。
10分前まで、2人はスーパーファミコンのストリートファイターⅡをやっていた。優輝はストⅡがかなり強く、康平は3対7の割合で負けてばかりであったが、今日は7連敗したところで頭にきて優輝とリアルファイトに発展したのである。
「ふざけんなよ、お前ばっかり勝ちやがって!」
そう言って康平はコントローラーを優輝に投げつけた。
「痛ってー!何すんだ!」
優輝もたまらず応戦したが、いかんせん体格差はどうにもならず、すぐに押さえ込まれてしまった。
「うるせぇぞ、お前ら!!」
大声で喧嘩をする2人に、十三は2人分以上の怒鳴り声を上げた。
「全く、ゲーム如きで喧嘩しやがって!俺がいいって言うまで壁向いて正座してろっ!!あと、向こう一週間ゲーム禁止だ!!」
優輝と康平は「そんなぁ〜!」と言う顔をしていたが、後の祭りであった。
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優輝と康平の正座自体は、幸いにも10分ほどで終わった。
理容室に行っていた祖母のみどりが、帰宅するなり正座をさせられている2人を見つけ、「何を偉そうに父親ぶって正座させてるんだ、このドラ息子ッ!!!」と言って、台所にある空のヤカンで十三を殴りつけようとしたのだ。
「おいおい、68になってそりゃねぇだろ!!」
母親にそう抵抗する十三に、みどりは「口答えすなー!!」とヤカンをブンと振り回した。
傍で新聞を読んでいた辰馬は「やめとけ、お前じゃ勝てねぇ」と呆れ気味である。
「ダ〜〜!!悪かった、悪かったよ!!おまえら、もう正座やめていいぞ!」
優輝と康平は少しばかりニヤッとしながらその場を離れた。康平に至っては「いいぞ、もっとやれ」と言わんばかりの顔をして、父親と祖母のやり取りを遠巻きにチラリと見て自室に帰って行った。
「よかったな、ばあちゃん帰ってきて」
「そうだね」
部屋の扉の前まで避難してきたところで、2人はそう呟いた。廊下の向こうからは、みどりの怒鳴り声がまだ続いている。
優輝はさらに続けた。
「康平、もう殴り合いは無しにしてよ」
「さあなぁ〜、約束はしかねるなぁ〜」
両手を頭の後ろに組み、ニヤッとしながらうそぶく康平に「そりゃないよー!」と優輝は返した。
2人が一年生の時の夏休み、一度だけ優輝が夜泣きをした事があった。
同じ部屋で寝ていた康平は、泣き声で気が付いた。
「おい、ゆうき。だいじょうぶか?」
康平は必死で優輝を宥めた事を覚えている。泣いていた理由はよく分からないが、昔のことでも思い出したのかもしれないと、子供心にそう感じた。20分ほどして落ち着いた優輝は、程なくして再び眠りについたが、当時の康平には1時間にも2時間にも感じられた。
翌朝になって、夜中に優輝が泣いていた事を両親に報告すると、2人は顔を真っ青にして優輝に駆け寄り、「気付いてあげれなくてすまなかった」と抱きしめた。
珠紀は、報告した康平も「よく教えてくれたわね。ありがとう」と労った。理由は自分でも分からないが、康平はうっすらと涙が出そうになっていた。
あの時から比較すれば、こうして優輝と兄弟喧嘩までしているのは不思議な感覚だった。
2人が自室に入ると、窓からは西陽が差し込んでいた。
「まぶしっ」
そう言って康平は窓のカーテンを閉めた。後ろでは優輝がドラゴンボールの単行本を4冊も抱えていた。
「あっ!俺、17巻途中まで読んでたんだった!貸して!」
「はい」
康平の頼みに、17巻をスッと差し出す優輝。完全に閉め切られていないカーテンからは、西陽が一筋差し込んでいたが、2人はお構い無しである。
夕飯までのひと時、先ほどまでの喧騒は何処へやら、子供部屋には一時の静寂が流れていた...。
〜完〜




