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優しさの襷

その年の年末。


優輝は年末年始から乾家で過ごすことになっていた。養子縁組の手続きなどはほとんど完了していて、小学校入学前を目安に正式に養子になる事がほぼ決まっていた。その前に家庭の雰囲気に慣れておいた方がいいだろうと、特別に早めに過ごす事が許可されていた。


「それじゃ優輝くん、乾さんの所できちんとやるんだよ。」


優輝の見送りには林と児童養護施設の所長、それと中学生の松原大輔が付き添った。


「うん。ありがとう」


優輝が3人に手を振って十三の車に乗り込んだ。大輔は感慨深げな顔でその様子を見ていた。そして、数日前の十三との会話を思い出していた。



「・・・松原くんだったな。優輝が随分と世話になってたみたいで」


その日、大輔は玄関ホールで十三にそう声をかけられた。十三は週末里親の段階から、優輝にしきりに大輔の話を聞かされていたらしい。これまでの面会からお互い顔見知り程度の関わりしかなかったが、面と向かって話をするのはこの時が初めてだった。


「いえ、俺は自分にできることをしてやってただけです」


そう謙遜する大輔を、十三はじっと見つめていた。


「だが、その自分に出来ることをしてくれてた事に、どれだけ救われたか。優輝がその・・・ここで少し浮いてた事を林さんに教えてくれたのも、君だと聞いたよ。感謝してる。それがなかったら、俺たちはあの子との養子縁組の決断がもっと遅れてたかもしれない」


大輔は少し照れるように目を下にやった。


「ハハハ・・・俺、下の子が辛そうにしてるの見ると、放って置けない性分なもんでして。昔の自分見てるみたいで」


「ほう...昔の大輔くんか?」


「はい・・・俺、小学生の時にここに来るまで、親に殴られたりとか、無視されたりとかしてたんです。かなりキツかったですよ・・・俺が泣きじゃくってる声を、アパートの隣の部屋に引っ越したばかりの大学生の兄ちゃんが通報してくれなかったら、今頃どうなってたか」


大輔は、幼少期の忌まわしい記憶をたどりながら、十三にぽつりと話しはじめた。


「……タバコの火を背中に押し付けられた時のことは、今でも夢に見ることがあります。」

大輔は、一瞬言葉を失い、俯いたまま拳を握りしめた。


「その後、その大学生の兄ちゃんが、保護された俺に一度面会に来てくれたんです。『今までよく頑張ったな』って言って、抱きしめてくれたのがすごく嬉しくて・・・だから、俺もこの兄ちゃんと同じ事を、辛そうにしてるの他の子にもしてあげようって、その時誓ったんです」


「そうか・・・君も大変な思いをして来たんだな」


大輔の話を聞いた十三は、そう言いながら額に手を当てた。閉じた瞼にうっすらと涙が滲み出ていた。


「そしたらその優しさの襷は、俺たちが責任を持ってしっかり繋いでいかなきゃな」


十三は大輔の目をまっすぐ見て、決意を新たにした。


大輔は安心したような表情で、「優輝の事、よろしくお願いします」と頭を下げた。


「それにしても、優しさの襷って表現、なんか洒落てますね。乾さん」


「そ、そうかぁ?少しキザなこと言ってみただけだが・・・なに、俺の従兄弟が昔、箱根駅伝に出た事があってだな・・・」


十三は少し恥じらいの表情を見せながら、頭をぽりぽりかいていた。

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