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殿下のとんでもない事情  作者: 木の葉
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バークマン伯爵令嬢の保護

 バークマン伯爵は見かけほどの怪我ではなかった。今は騎士訓練所で保護している。バークマン伯爵令嬢は重要な証拠になる人物でもあるので殿下が内々に保護をしている状態だ。バークマン伯爵令嬢自身も気付いていないようだが、彼女は妊娠していた。まだ初期の段階で安定していないから安静にして貰っている。


「殿下、襲撃者がアーリー様と名乗っていた人物に心当たりはありますか?」


 私が聞くと殿下は頷き言った。


「ガルライ公爵の身内だと思うが、確信はない。伯爵が回復したら魔道具を使い顔を見てみるよ」


「はい、お願いします」


「裁きは10日後だ。両陛下には既に報告してある」


「はい、お父様にも話してあります。我が家は商人としての人脈を持っていますから、それなりの証拠もバッチリ掴んでおります」


 伯爵も回復に向かい、魔道具を使いアーリーと言う人物もはっきりとした。アーリーとは公爵の実の息子だった。ただし、母親は闇商人の娘だからあまり表立っては現れない人物だった。


 裁きの日がやってきた。ガルライ公爵は裁く側の立場として列席している。


 壇上に上がったのはバークマン伯爵令嬢だ。今の彼女は震えておらず、しっかりと自身の足で立っている。


「私はドヴァーグ侯爵令嬢が窮地に立たされるのを望んでいました。でも彼女は私が何をしても動じませんでした。だから彼女の大事な友人に薬を飲ませてドヴァーグ侯爵令嬢の仕業に見せたかったのです。でもその薬はお腹を壊すぐらいのものです。まさか死に追いやる毒だなんて思いもしませんでした。少し悪い噂が流れて、友情が壊れればいいと思っただけです」


 彼女が真実を言っていることは魔道具と判定人が証明している。


「侯爵令嬢を貶めようとした罪は重い。奴隷として娼館に送るのがいいだろう」


 発言したのはガルライ公爵だが、誰一人として意見には賛同しなかった。


「娘に罪をきせようと計ったことに対しては罪を償ってもらわねばならない。だが彼女に嘘をついて毒を売った者がいるはずだ。それを見過ごす訳にはいかぬ」


 私の父であるドヴァーグ侯爵の発言には多くの者が賛同した。


「侯爵の意見には皆も賛同のようだ。私とてそのような悪人をほっておくわけにはいかん」


 陛下がそう言うと、ガルライ公爵は舌打ちをして怒鳴り出した。


「何をいうのですか、陛下。今日はその者の裁判ではないのですか?」


「ことの真相をあばくのが裁判です」


 宰相が珍しく口を挟んだ。


 次に現れたのはバークマン伯爵だった。


「まだ歩くことが出来ませんので、車椅子を使わせてもらいます。娘のしたことについては私からも謝ります。申し訳ありませんでした。ですが娘は誰かに誑かされたのも事実です。その証拠に私の屋敷は襲撃され、娘を殺しにきたのですから。幸いにも娘を逃すことは叶いましたので娘は無傷です。ですが私はこのようにかなりの傷を負いました」


 ざわざわと皆が話し出した。


「騎士団が到着した際に、襲撃者はアーリー様、お逃げ下さいと叫んでおりました。私は2回ほどアーリー様をパーティーで見かけたことがあります。襲撃の時とは随分お姿は違いますが、間違いなくガルライ公爵の息子さんでした」


「何を馬鹿げたことを申すのだ。話にならん。不愉快だ。わしは失礼するよ」


 ガルライ公爵が大声で叫び、席を立ったと同時に私の作った魔道具が動き出した。


 その時に天井に映し出された音声と映像に皆が騒ぎ出した。


 ーーーーーー


「こちらは対した毒ではございません。お腹を多少壊すぐらいでしょう」


「お前の娘はどこだ?どこにいる?」


「娘ですか?娘でしたら王宮に向かいましたが何の御用ですか?」


「ふん、お前を連れ帰ったところで意味はないしな、殺せ」


 ドス、ドス


「アーリー様、騎士団が向かって来ます。お逃げ下さい」


「クソッ、行くぞ、撤退だ」

 

ーーーーー


「な、何だこれは、こんなのはわしは知らんぞ」


「これは言い逃れが出来ませんな」


「酷いな」


 魔道具での映像は証拠にならないが皆の脳裏には鮮明に残ったはずだ。魔道具がなくとも既に多くの証拠もあるし、証人もいる。幾ら公爵でも言い逃れは出来ないだろう。


 10日後、正式に王家から今回の件について発表された。


 公爵家からは今回のこと以外にも多くの犯罪が立証された。

 殺人、人身売買、闇商売、金融操作、王太子殿下への殺人未遂、数えればキリがないほどだ。公爵家の取り潰し、砂漠への追放、鉱山奴隷など多くの者に罪状が下った。


 そしてバークマン伯爵令嬢には伯爵籍からの離籍を言われ、平民となった。

 バークマン伯爵にはイザベルや侍女への賠償金が言い渡された。

 




 


 

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