証拠集め
私たちは言い逃れが出来ない証拠を集めることに没頭した。話が漏れないように細心の注意を払い、少人数で捜査をしたのだ。ことの真相が既に分かっているので、思いの外、簡単に集まった。
それでも相手は公爵家。どんな状況でも覆すほどの力を持っている。念には念を入れ、私は密かに魔道具を作成している。正直言って、どんな魔道具が出来上がるのか私にも分からない。
私はバークマン伯爵令嬢に会いに屋敷へ向かった。隣にはメロンナとボーンズが控えている。
「お久しぶりですわ。あら、あまりお顔の色がよくありませんわね」
「どのような御用でしょうか。あまり体調が良くありませんので手短にお願い致しますわ」
バークマン伯爵令嬢は小刻みに震えているようだ。それに本当に顔色が悪いわ。
「お待たせしました。ドヴァーグ侯爵令嬢」
呼んでもいないのに、彼女の父親であるバークマン伯爵が部屋に入ってきてソファーに座ってしまった。
「私の自信作である魔道具ですが、ご覧いただけますか?」
私はこの前、イザベルに使用した魔道具を持ち出し、机に置いた。
「ほう、これはどんな魔道具なのですか?」
「バークマン伯爵も魔力は多めですから見られると思いますわ」
「何が見えるのですか?」
「バークマン伯爵令嬢、ここに手をかざしていただけますか?」
「何が見えるのですか?答えて頂かなくてはかざせませんわ」
「真実です」
「真実?」
「ええ、そうです。まずは伯爵様にご覧いただきましょう」
「い、いやよ、そんな得体のしれない魔道具、怖くて使えませんわ」
「そうですか?イザベルは死ぬところだったのをご存知ですよね」
私の声は低く、彼女は逃れられないと悟ったようだ。震える手を何とか魔道具に落とした。
「では伯爵様は、魔力を込めるようにして手をかざしてください」
伯爵は嫌な汗をかき、恐る恐る手をかざした。
「伯爵様は、魔力酔いが現れたらすぐに手を離してください」
伯爵の顔はどんどん青ざめていく。魔力酔いではなく、愛する娘の本当の姿を見ているからだろう。
数分後、伯爵は私に土下座をしてきた。
「申し訳ありません。申し訳ありません。どうか、どうか、娘の命だけはお助けください。私で良ければ死罪でも何でも受けます。ですから、どうか、お願いします」
「伯爵様が娘を甘やかした責任もありますから、貴方にも当然罪は償ってもらいます」
「そうです。私の責任なのです。娘が産まれた時に妻は息を引き取りました。私は娘に申し訳なくて、不憫で、望むものは何でも与えてしまった。私にとって娘は生きがいなんです、お願いします」
「お父様、やめてください。だって殿下は私を好きだと言ってくれたわ、本当よ」
「それはお前の勘違いだ。相手は男爵令息だろう。勘違いなんだ。すまん。気づいてやれなくてすまん。母さんが生きていればお前の気持ちだってやわらいだだろうに。本当にすまん」
「お母様は私のせいで亡くなったの?」
「違う、私のせいだ。体調が悪いと言っていたのに私は妻の話をきちんと聞かずにいたんだ。あの時、きちんと聞いて医者に診せていたら助かったかもしれない。全て私の責任だ」
「バークマン伯爵令嬢、貴方は裁きを受けなければなりません」
「リン様、襲撃です。お隠れを――」
メロンナが凄まじい形相で部屋に入ってきた。
「こちらについてきてください」
伯爵が暖炉の奥の隠し扉を開けて私たちと娘であるバークマン伯爵令嬢を中に入れた。
中は想像以上に広い空間だった。
「どうしたのですか?あなた方はどなたですかな?」
伯爵の声が鮮明に聞こえてくる。
「お前の娘はどこだ?どこにいる?」
「娘ですか?娘でしたら王宮に向かいました。娘に何の御用ですか?」
「ふん、お前を連れ帰ったところで意味はないしな、殺せ」
私がその声を聞いて助けに出ようとすると、ボーンズとメロンナに止められた。バークマン伯爵令嬢は震えて声も出ない様子だ。
鈍い打撃音が聞こえてくる。そして伯爵の呻き声……。
「アーリー様、騎士団が向かってきます。お逃げください」
「クソッ、行くぞ、撤退だ」
辺りが静まり返り、騎士たちが侵入してきた。聞き覚えのある騎士の声が聞こえて私たちは外に出た。バークマン伯爵はかなり殴られてはいるが生きている。
メロンナがすぐに回復魔法をかける。
「誰か回復薬を持ってきて――」
私が叫ぶと、騎士の1人が差し出し、すぐに伯爵に飲ませた。
「お父様、お父様――」
ようやく声を出したバークマン伯爵令嬢は、その後、とめどなく泣き続けた。




