殿下への想い バークマン伯爵令嬢
私は昔から美しい物が大好きでした。
殿下に初めてお会いしたのは貴族学校への入学式です。
「あれほど美しい人がいるなんて、神が作った素晴らしい傑作だわ」
私は歓喜の声をあげて興奮しました。あの方は私のものだわ。
それから父にお願いをして婚約者になろうとしたけれど、家柄が釣り合わないという理由で上手くいきませんでした。それならばと思い、殿下に媚薬を飲ませて関係を持とうとしたけれど、側近の男に阻止され失敗してしまいました。
でも個室に二人っきりだったのは事実ですわ。実際には関係がなくとも噂さえ流せばどうにかなると思ったけれど、これも上手くはいかなかったのです。
「お父様、どうして私では殿下の婚約者になれないのですか?」
「ドヴァーグ侯爵令嬢が現在の婚約者なのはお前も知っているだろう。ドヴァーグ侯爵家は我が家とは格が違う。諦めてはくれないか?」
「私は殿下と関係を持ったのです。殿下以外に嫁ぐことなど出来ませんわ」
「なんだと、それは本当なのか?本当に殿下とそういう関係なのか?」
「ええ、そうですわ。殿下は酔ってらしたので覚えていないかもしれませんが、私ははっきりと覚えております」
「そうか、そうか、分かった。王宮に行って陛下にお会いしてくるよ」
父はそう言って出かけましたが、どうなるのだろう。実際は私は殿下にキスさえされていません。もしも私の身体を調べられたら、私が誰とも関係していないことがバレてしまうわ。でも殿下以外の殿方とそういう関係になるわけにはいかないわ。
夜遅くに父が戻ってきて、私にこう言ってきました。
「近いうちに身体を確認するかもしれないそうだ」
「身体の確認ですか?」
「そうだ、おそらく処女かどうかの確認だろう。もし嫌なら拒否も出来るそうだ」
「そ、そうですの、私は嫌ですわ」
「そうだろうな、ではそう言っておこう」
「ええ、お願いしますわ」
困ったわ。でも調べられないのならば大丈夫よ。
だけど数日後には「確認が出来ないのであれば認められない」と王家は言ってきたのです。
私は焦りました。そこで仕方がないので幼馴染の二つ下の男爵令息と関係を持つことにしたのです。彼は小柄ですが顔は悪くありません。女性の身体に興味がある年頃ですから誘惑するとすぐに応じてきました。
思いのほか私の初めての経験は良いものでした。彼は私のことを姉様と呼びます。
「姉様、気持ちいいですか?姉様」
興奮しながら口ずさむ彼の言葉は私を快楽に導きました。
それ以来、私は彼と何度も体を重ねるようになりましたが、それでも私は殿下を忘れられませんでした。彼に抱かれながら私は殿下に抱かれているのを想像していたのです。私は抱かれながら殿下に抱かれている錯覚に陥るように次第になっていったのです。
殿下は私のものよ。誰にも渡さないわ。
ドヴァーグ侯爵令嬢がいなければいい。そうすれば殿下は私と結婚出来るのよ。そう思い、数々の嫌がらせをしましたが彼女に何をしても無駄でした。
殿下のご成婚の日取りも決まり、発表されました。
それなのに王宮からは私の身体の確認に来る者はいませんでした。
父に聞いたところ、「そんな辱めを受けるのは嫌だと断ったから安心しろ」と言われました。どうして、どうしてみんな私の邪魔をするのよ。殿下は私のものなのに、なぜ?どうしてなのよ。
ドヴァーグ侯爵令嬢が駄目なら他の者を苦しめてみようかしら?そうよ、それが良いわ。私は闇商人から毒を購入しました。
「こちらは大した毒ではございません。お腹を多少壊すぐらいでしょう」
商人はそう言ってほんの少量だけを私に安く売ってくれたのです。
それなのにまさか、毒で重体に陥るなんて、私は目の前が真っ暗になりました。侍女が捕まり、私は焦りました。侍女の妹は病気で、侍女が毎月かなりの金銭を送っているのを知っていましたので、私は侍女が捕まる直前に言ってやりました。
「あなたが黙ってさえいてくれれば、妹さんの面倒は私がこの先も見てあげるわ。でも、あなたが口を割ったら妹さんの命は尽きると思いなさい」
侍女は決して口を割らなかったそうです。それだけではなく獄中で死んだのです。
怖い、どうしよう。こんなはずではなかった。どうすればいいの?




