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殿下のとんでもない事情  作者: 木の葉
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 私は久しぶりに騎士訓練所へ赴き、メロンナとイザベルという女性騎士に会いに行った。殿下と婚姻後は二人が私専属の護衛となることは既に決定しているが、まだ公には発表されていない。

 

 メロンナは既に結婚しているが、2年間は王太子妃宮に共に住んでくれるそうだ。とは言っても、度々家族に会いに行けるように長い休みを取って貰おうと私は思っている。

 

 イザベルも王太子妃宮に住んでくれると言ってくれたので、私にとっては心強い。そんな二人に会いに行けば、私たち3人は話が盛り上がる。

 

「リンデル様、結婚式の衣装は決まったのですか?」

 

 メロンナに聞かれ、私は細かく衣装について説明をした。

 

「王家の婚礼衣装にはものすごく細かい決まりがあるのよ。丈の長さもそうなんだけど、胸の空き具合とか背中は出してはいけないとか、本当にうるさいぐらいあるのよ」

 

「そう言われれば、歴代の王妃様たちの婚礼の絵姿は同じような衣装ですね」

 

「そうでしょう。だから、私は全て王家のデザイナーにお任せしたのよ」

 

「まあ、そうなんですね。それは少し残念ですね」

 

「ええ、だからね、私はイザベルが結婚する時には色々と口出ししても良いかしら?」

 

「良いけど……、相手が……いない」

 

 いつものような小声でイザベルが照れながら返事をした。

 

「もう、本当に可愛いんだから、イザベルは」

 

 メロンナはまるで姉のようにイザベルを抱きしめた。

 

「本当に可愛いわ、イザベル、大好きよ」

 

 私もイザベルを抱きしめた。

 

 お堅い貴族令嬢たちと喋るよりも二人との会話をするのが私は大好きだった。

 

 私は二人に「また来るわね」と言って屋敷に戻った。

 

 数日後、騎士訓練所から早馬で手紙が届き、私は呆然と立ち尽くした。

 

『イザベル様、毒を盛られ重傷』。嘘? 毒って何? どういうこと?

 

 屋敷にいる殿下が駆けつけてきて、私を抱きしめた。

 

「どうした。リン、さっき騎士が尋ねてきただろう。何があったんだ?」

 

 呆然と立ち尽くす私の手から殿下は手紙を取り読むと、私を馬車に乗せた。

 

 どうしよう、どうしよう。何があったの? イザベル、イザベル……。

 

「リン、しっかりしろ。俺を見ろ、大丈夫だ。イザベルは騎士だ。大丈夫だ」

 

「ボーンズ、あとどれぐらいで到着する?」

 

「1時間は掛からないです」

 

 私は大きな涙を流した。「どうか、どうか神様、イザベルを助けて」

 

 殿下は私の肩を抱きしめ、手を握ってくれている。それでも落ち着けない。

 

 到着してすぐに駆け寄ると、真っ青な顔をしたイザベルが横たわっていた。

 

「イザベル、イザベル、どうしたの、何があったの?」

 

「リンデル様、落ち着いて下さい。イザベルは大丈夫です。さっきよりは顔色が良くなったものです。大丈夫です」

 

 メロンナが泣きながら言った。イザベルの顔は真っ青だわ。これで改善したと言うの? 本当に大丈夫なの?

 

「リン、医者に容態を聞いてきた。痙攣もようやく収まり少しは落ち着いたようだ。後は目が覚めるのを待つしかないそうだ」

 

「いつ、覚めるの? 薬で眠っているの?」

 

「かなり強力な毒で、目覚めるかどうかも分からないらしい」

 

「何があったの? イザベルはどうして毒なんか飲んだの?」

 

「それについては詳しく調べている最中だ」

 

 メロンナにイザベルが毒を飲んでからの様子を聞いた。口から泡を吹き、白目になり、何度も痙攣を起こして、もう駄目ではないかと誰もが思ったそうだ。

 

 この小さな身体でよく耐え抜いてくれたと私は思った。

 

 私は騎士訓練所に寝泊まりをさせてもらい、イザベルが目覚めるのを待った。

 

 3日後、イザベルが突然、目を覚ました。

 

「リン……さま、私」

 

「イザベル、良かった、もう大丈夫よ」

 

 医師の見立てでは毒が完全に外に出されるのは数か月掛かるらしい。もしかしたら痺れなどの後遺症が残るかもしれないが、今は様子を見るしかないと言う。

 

 イザベルのご両親もようやく王都に辿り着き、イザベルを抱きしめて泣いていた。

 

 良かった、本当に良かったわ。

 

「リン、ちょっと良いか」

 

「ええ、今行くわ」

 

 殿下の話によるとイザベルは、ある女から私が作ったよく効く傷薬と痛み止めだと言って薬をもらったそうだ。

 

「私は知らないわ。薬を作ることはたまにするけれど、それは自分用だし、効能も大したことないから、人に渡すなんてことはしないわ」

 

「それは俺も知っている。犯人はリンを貶めたかったんではないだろうか?」

 

「私を? でも毒を飲んだのはイザベルよ。私は何ともない……もしかして、私を犯人に仕立て上げるつもりだったってこと?」

 

「推測だが、間違っていないと思う」

 

「そんな事のために? イザベルは死んでいたっておかしくなかったのよ」

 

「多分だが、犯人はそこまで強い毒だと知らなかったのかもしれない」

 

「知らなかったことで済まされることではないわ」

 

「殿下、私としてもイザベルがこのようになり許せません」

 

 ボーンズがはっきりと言った。普段からイザベルを妹のように可愛がっているボーンズの取り乱し方を見ると、妹ではなく、大事な女性なのだろう。

 

「犯人はバークマン伯爵令嬢ですね」

 

 ボーンズが怒りをあらわにしながら確信を持って言った。

 

「間違いないだろう。騎士がバークマン伯爵令嬢を見掛けているし、イザベルに薬を渡したのは彼女の侍女だからな。既に侍女の取り調べは始まっているから直ぐに連絡が入るだろう」

 

 だが、その侍女は頑なに証言を拒み、牢屋で亡くなっているのが発見されたそうだ。

 

「許せない、私は絶対に許せない」

 

 私は強く思った。


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