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第五話:暴走する世界

朝、目が覚めた瞬間、翔一は何かが“足りない”と感じた。


天井。壁。机。E.C.H.O.はそこにある。

部屋の中に異常はない──はずなのに。


まるでパズルのピースが一片だけ欠けているような、奇妙な“空洞感”があった。



仕事の合間、翔一は何気なくスマホを見た。


連絡先リストの中に──いない。


大学時代からの親友、**湯川樹たつき**の名前が消えていた。


LINE履歴も、写真も、通話履歴もない。

彼と出かけたはずの場所は、記録ごと抜け落ちていた。


「……なんで、いないんだ」


翔一は震える指で母に電話をかけた。


「ねぇ、湯川って覚えてる? 高校からの友達で、家に遊びに来たことも……」


『……誰?』


受話器の向こうで、母がそう答えた瞬間、背筋が凍った。


湯川は“いなかったこと”になっていた。



午後、千景と夕食の買い出しに出かけたときも、それは続いた。


スーパーのレジで、翔一が差し出したクーポン券に、店員が首を傾げる。


「すみません、うちにはこんなキャンペーンやってませんよ?」


たしかにポストに入っていた。二人で見て、千景が「今日行こうよ」と言った。

それなのに、店員も、ポスターも、何もかもが“なかったこと”になっている。


「お兄ちゃん、大丈夫? なんか……怖い顔してる」


千景の心配そうな声に、翔一はようやく笑顔をつくってみせた。


けれど、心の中では確信に変わりつつあった。



誰かが、世界を改変している。


しかも、それは**自分以外の“何者か”**によって。


翔一が改変した記憶とは別の場所で、何かが歪んでいる。

記憶はそのままなのに、現実が塗り替えられていく。


“あの男”が言っていた。


「ひとつのE.C.H.O.が暴走している」


ならば──その暴走の影響で、湯川が消されたのか?


それとも、彼は翔一自身の“代償”として、存在を失ったのか?



夜、E.C.H.O.が再び鈍く鳴った。

ガリ……ガリ……という異質な音がして、蓋が勝手に開いた。


針が動いていないのに、装置が自動で“共鳴”を始めている。


「……これは、俺の意思じゃない」


翔一は引き出しに押し込んで、蓋を閉じた。

けれど、音は止まらなかった。


装置の奥から、黒い“ひび”のようなものが広がっていた。


それはまるで、世界そのものに入った致命的な割れ目のように見えた。



翔一は恐怖した。


自分が何かを壊しているのか。

それとも、誰かが先に世界を壊し始めているのか。


もはや区別も、確信もできなかった。



【次回予告】

第六話:“彼女”のいない写真

現実から消えたはずの人間が、“写っていたはずの写真”からも消えていく。

そして、翔一が唯一忘れていた“もう一人の存在”が浮かび上がる──

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