第2話 おい坊っちゃま、乗馬のお時間ですよ。
前回のあらすじ
姫様に似合う男を目指してがんばるスーパーはしたないボーイ
「おいテメエ坊っちゃまテメエ」
「テメエ坊っちゃまテメエ!?」
「リンセ姫に釣り合う男になるため、具体的に何をするのです?」
「う、うーん、そうだなぁ……男らしい趣味や特技が一個か二個あれば少しは……」
「ガールスカウトとかですか」
「ボーイスカウトではなく!? 言葉の響き的にただの誘拐犯みたいに聞こえる!! なんていうかな、こう……スタイリッシュな感じの……」
「落馬とかですか」
「落馬ッ!! なんで乗る方じゃなくて落ちる方をわざわざチョイスするん…………あっ、そうだ乗馬だ! 乗馬なら貴族っぽいし、充分に自慢できるカッコいい特技だよ!」
「白馬の王子さま気取りですか。馬酔いすればいいのにな」
「馬酔い!? 馬に乗ってたら見映えも良いし、ボクのちょっとだけ低めの身長も誤魔化せるかもしれな」
「ということで私の知り合いが所有する牧場にやって参りました」
「なんか喋ってる間に着いたんだけど怖いな!! テレポート持ちの異能メイド!?」
「まずはこの一番小さい茶色の馬で練習しましょう」
「ポニポニィ~!」
「ポニーか……へえ~、ポニーってこうやって鳴くんだぁ! かわいいなぁ!」
「これに突っ込まないだと……実は天然なのか……!? と、とりあえず仲良くなるために名前をつけてあげましょう」
「名前ないのこの子? そっか、何にしようかな……」
「タテガミがチンピラみたいでイカしてますね。『チンピラみたいなポニー』ですか……であればこれはもうチン──」
「やめろや!!『であればこれはもうチン──』じゃないよ、うら若きメイドが! 可哀想だからもっとちゃんと考えてあげようよ……」
「では茶色くてチョコンとして可愛いので『チョコ』にしましょう」
「キミの急に来る常識人モード何なの? ちょうど人格の当番が交替の時間帯?」
「ではまず私がお手本をお見せしましょう。そこでせいぜい足の指をくわえて眺めていなさい」
「最寄りの指をくわえさせてほしい……足は何かと不便……」
「馬には怖がらずに一気に乗るのが大事なんです。どっこいセンチメンタルフランケン」
「ポニポニ~?」
「ちょ、ちょっとイキシア……メイド服でそんな足広げて乗ったら……」
「────っ!! す、すみませっ…………あ、いえっ……ゴホン! な、なかなか乗り心地の良いポニー、ですなぁ……」
「う……うん、チョコも大人しい子みたいだし、これならボクにも乗れそうかも」
「じゃあさっそく少し進んでみますか……ハイヤー!!」
「ポニィィッッ!!」
「いやそんなムチ打ちながら進むタイプの馬じゃないよそれ!! チョコが痛がってるじゃないか!!」
「何を言っているのです坊っちゃま……ポニーだろうがホースだろうが馬は馬なんです。ではもう一度ムチを……ハイ」
「クタバレブルルルルルンッッッ!!」
「ぬばああああああああああああああ!!!」
「イキシアァァァァァァァァァァァァ!!!」
「う、うーん…………はっ、ここはどこ? 我は絶世の美女である」
「自己評価が高い上に偉そう!! チョコにイジワルするから投げ飛ばされたんだよ! あと聞き間違いでなければ『クタバレ』って言われてた」
「ふむ、失敗したままでは終われませんね……リベンジといきましょう」
「ガルルルルル…………」
「あんなに可愛かったチョコが、今や番犬みたいな顔面と唸り声でイキシアを……」
「あら、どうやらようやく心が通じ合えたようですね」
「キミは視力が負の値なのかい?」
「乗る前に少し頭を撫でてあげましょう……よしよし」
「ポニポニィ~!」
「チョコが恐ろしくチョロい!! たった二回のポンポンで天使のような笑みを!!」
「今こそチャンスです。今度はムチは打たず、のんびりトコトコ行きましょう。よっこらセクシャルヴァンパイア」
「ポニポニ~?」
「良かった、今度はちゃんと前を隠しながら乗ってくれて」
「いっ……いちいち言わなくていいですからそういうの……さ、さあ気を取り直して、れっつらゴールデンサイクロプス」
「ポニポニ~?」
「何なのその掛け声に変な化け物を組み合わせるシリーズ? チョコもずっと首傾げてるよ」
「んはっ……ふぐっ……」
「ど、どしたのイキシア?」
「いえ……チョコのイカしたチンピラタテガミが鼻に……ふぁ……ふぁ…………」
「ちょ……イキシアそれはマズ」
「ぶえええええっくしょいバカ野郎この野郎クソ野郎がああああああ!!!」
「クタバレブルルルルルンッッッ!!」
「ぬばああああああああああああああ!!!」
「イキシアァァァァァァァァァァァァ!!!」