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お茶目な女神はお嫌いですか?

作者の志野野しのやです。


週1程度の頻度で投稿していきます!

 起き上がってさっきまでいた見張台を確認すると、何もなくなっていた。

 巻きあがった砂埃と崩れ去った残骸が落ちている。


「ハハ…当たらなくても風圧で死にそう」


 エマの方を見ると、すぐに召喚術を発動できそうな状態になっていた。

 これで何とか奇跡を起こせれば。


「健司、前だ!」


 フィンが大声で叫ぶ。

 前に向き直ると、すでに一歩目を踏み出しているウロボロスが見えた。

 風が少しだけ送られてきているけど、間に合わない。

 しくじった。最後の最後に気を抜いちまった。

 すべてがスローモーションに見える。

 

 頑張ったんだけどな。

 ウロボロスがゆっくりと目の前まで迫っている。

 エマたちが叫ぶ声が聞こえる。

 地面からは青い光が燃えている。

 

 青い光?

 

 下を見ると魔法陣が青い光を放っていて、俺の体は青い炎に包まれていた。

 どうゆうこと⁉

 俺の意識はそこで途切れた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 気が付くと、真っ暗な何もない場所に来ていた。

 光が全くないので何も見えず、動き回っていると、突然目の前に大きな映像が映し出された。その映像には村の様子が映し出されていた。


「まったく、エマも無茶を言ってくれるわ」


 映像を見ながらため息を吐く女性が豪奢な椅子に座っていた。

 いつの間に現れたんだ⁉

 青い髪に透明感のある肌、およそこの世のものとは思えないほどの美人だった。

 ただ、どことなくエマに似ているような。


「あんたいったい何者なんだ」


 女性はこっちを向いて静かにと指を立てたあと、映し出されている映像を指さした。

 今は映像を見ろってことか。


 映像にはエマがアップで映し出されていた。

 エマの前に戻ってきた魔法陣がより一層光を増し、召喚物を吐き出す。

 それは金色の装飾がされいかにも神秘的な光を放つ槍だった。


「あれはね、神槍グングニルというの」


 あんたがしゃべるにはいいんか。


「あの武器の所有者は全ステータスが大幅に上昇する、あなたのもと居た世界でいうチート級の武器よ」


 へぇ、確かに強そうだ。

 てかこの人、俺がもと居た世界の事知っているのか。

 何者なんだ?


 美人の怪しさが増したところで、映像から大きな音が鳴った。

 ウロボロスがエマと対峙していた。

 さっきの音はウロボロスが防壁を壊して戻ってきた音か。

 ウロボロスが地面を蹴り、突進の構えをとる。

 一方エマは、やり投げのような構えをとって目を瞑っている。


「あいつ何してんだ?」


「あれは増幅した魔力で身体強化を限界まで高めているのよ」


 怒られるかと思ったら答えてくれた。

 あいつ召喚術だけじゃなくて身体強化なんてのもできたのか。


「あの子の身体強化はすごいんだから!グングニルの強化なしでも、オークの頭を握りつぶすぐらいはできるのよ」


 頭の中でさっき見た豚頭がリンゴのように握りつぶされる絵を想像する。

 俺はいつ殺されてもおかしくなかったのか。

 今までの暴力の数々がただのじゃれあいだったことがわかり、脚が震える。

 この人、エマにご執心なのかな?

 映像の中でエマが目をあけた。

 それと同時にウロボロスも走り出す。

 エマが大きく振りかぶって投げ出した槍はウロボロスめがけてまっすぐ飛ぶ。

 そしてウロボロスとグングニルが衝突した瞬間、ウロボロスの胴体が消し飛んだ。


 え?


 地面に残っているのは、ウロボロスの足と牙の欠片だけだった。

 こんなあっさり、一瞬で⁉

 ウロボロスを貫いた槍は森を突き抜け、遠く見える山脈の一つに綺麗な覗き穴を作った。そこから朝日が顔を見せ、村に光が差した。

 村人たちもあまりのあっけなさにポカンとしていた。

 次第に村人たちは泣いて喜び始め、脅威を文字通り消し飛ばしたエマを胴上げし始めた。


 「よかったわ」


 女性がフーと息を吐いて力を抜いた。

 これで一見落着か。よかったよかった。


「で、いい加減ここがどこだか教えてくれないか?」


 女性は俺に向き直ると少し考えた。


「あなたはエマの魔法陣の炎に包まれてここに来たわよね」


「ああそうだ」


「ならもうわかるでしょ」


 女性は挑発的な笑みを浮かべた。

 エマの召喚術でここに来たってことか?

 確かあいつの召喚術はささげた供物が青い炎に包まれて女神様にささげられるってことだった。

 そして俺も魔法陣の上で青い炎に包まれた。


「……!俺も供物として女神様にささげられたのか⁉」


「ピンポーン、正解。あなたは私にささげられた供物で~す」


 この人大人っぽい見た目して茶目っ気たっぷりだな。

 私にささげられたってことはこの人が女神様か⁉

 言われてみれば、人間離れした容姿に後ろから後光がさしてるわ。


「でもなんで俺まで供物にされたんだ?武器とか防具とかたくさんあったはずだろ」


「あのね、エマの召喚術はエマにとって価値のあるものが高価値な供物になるの。昨日今日で知り合った兵士の武器なんて、あの子の髪の毛一本にも満たないわ」


「だから俺が供物に」


 俺がエマにとって価値のあるものと引き換えに召喚されたからだろう。


「俺はどうやったら帰れるんだ?」


「通常の召喚なら、召喚物を供物にすることで返品できるわ」


「じゃあ俺はあの槍の代わりにここに来たから、もう一度あの槍を供物にすれば戻れるってことか」


「通常ならね。でも残念、それは無理」


 そういって女神様は上に手をかざすと、さっきまで映像の中にあった槍が手元に現れた。


「エマが願ったのは『ウロボロスを倒す手段を私にお与えください』であって、グングニルじゃない。これはあくまで私がウロボロスを倒す手段としてエマに貸しただけ。だから供物には使えない」


「そんな……」


 ショックで崩れ落ちる。

 そしたら俺は、この何もない空間で女神様と二人きりで暮らしていかないといけないのか。

 いや、待てよ。

 こんな美人な人とずっと同じ空間にいられるならそれも悪くないのでは?


「ねぇ、今変なこと考えてない?」


 女神様が自分の身を抱いて、訝しげにこちらを睨む。


「考えてないですって~」


 思わず目をそらしてしまう。


「言っておくけど、あなたは簡単な供物で戻れるわよ」


「え?」


 さっきもう戻れませんみたいな雰囲気出してたはずでは?


「あなたはまだエマとの契約の履行中なの。『強くてカッコよくて、私を一番に考えてくれる最高の彼氏との出会いをお恵みください!』って願いで召喚されたのがあなた。だから、エマにとって強くてかっこいい最高の彼氏になるまであの子の傍からは離れられないわ」


 初耳なんですけど。


 俺そんな幼稚な願いで呼び出されたの?

 しかもそれを叶えないと離れられないってどんな天罰ですか女神様!


「まぁ、エマの願いが叶ったら今日の分のツケは払ってもらうけどね」


「それ俺が払うのかよ」


「当然でしょ、強くてかっこいい彼氏くん」


 このクソ女神~~。


「今からローザを通してエマに伝えるからさっさと帰りなさい」


 女神様がしっしっと虫でも追い払うかのように手を振る。

 女神はスマホを取り出した。


「えーと、ローザは……最近話してないから下の方に……あった」


 女神様がスマホを耳に当てると着信音が鳴り始めた。

 えー、もっとなんかファンタジー要素ないのかよ。これじゃただ友達に電話かけてるだけのOLだよ。

 向こう側ではどうなっているのかと映像を見ると、ローザさんが祈りのポーズをとって目を瞑っていた。

 そういえばローズさんは『傾聴』とかいう特権を持っていて集中すれば女神様と会話できるとか言ってたっけ。

 元巫女だからできるんだとか、エマも現巫女だとかも聞いたけど、飯に集中しすぎていまいちよくわかんなかったんだよな。


「シーア様ですか?」


 電話が繋がったようで、スマホからローザの声が聞こえる。


「久しぶりね、ローザ。喜んでるところ悪いんだけど、供物に使われた少年を元の世界に返したいんだ。エマにどんな供物でもいいから使って少年を召喚してって伝えて」


「わかりました」


「それじゃあ、また暇なときにお話ししましょう」


「はい、ぜひ」


「バイバ―イ」


 そういってシーアは電話を切った。

 軽いなー、天啓ってもっと重要なことじゃないのかよ。


「最後に一つ、シーア教に入る気はない?」


 女神本人が勧誘してくるのか。


「エマにも言いましたが、俺の唯一神はアマテラスだ。他の神様に浮気する気はない」


「そう、惜しいわね。今ならかなりチート級の特権が手に入ったのに」


「どういうことだよ」


「エマは強くてかっこいい彼氏を願ったからね。強い彼氏になるためには強い特権が必要でしょ」


「そういうことか……なしだな。だってあいつの方が強いもん」


 オークの頭握りつぶせるぐらいだし。


「確かにそうね」


 納得すんのかよ。


「なら最後にもう一つ、精神的にどこか危ういあの子をよろしくね」


 シーアが微笑みかけてくれた時、地面が青く光った。

 再び俺は青い炎に包まれた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 目を覚ますと、大勢の村人が俺をのぞき込んでいた。

 起き上がると、涙をふくエマの顔があった。


「なんで泣いてんだ?」


「泣いてない!汗よ、汗!」


 よく見ると村人たちも涙ぐんでよかったと口ずさんでいる。


「みんな、お前がウロボロスに踏みつぶされたと思っていたんだよ」


 俺が不思議そうな顔をしていると、フィンが答えてくれた。

 そっか、死人が復活したみたいな状況になっているのか。

 それはお涙頂戴な展開かもしれないな。


「健司」


 エマが小さな声で俺を呼んだ。


「なんだよ」


「えっと……私が呪文を唱えているときにウロボロスを引き付けてくれてありがとう…た、助かったわ」


 エマが恥ずかしそうに感謝を伝えてきた。

 こ、これは!ついにエマのデレが発動した!

 思った以上に破壊力あるな。普段の暴力を忘れそう。


「頼りになるだろ、俺」


「うるさい、調子に乗らないで!」


 エマが普段の調子に戻ってしまったところで、村長から家で休むよう言われた。

 ようやく脅威を乗り切ったんだ。ゆっくり休もう。


ここまで読んでいただきありがとうございます!




「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!




皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!



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