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猪突猛進な闘牛ショー

作者の志野野しのやです。




週1程度の頻度で投稿していきます!

 カサカサと音が聞こえる。

 防壁の中じゃない、外か。なら安心、安心。

 にしても食べすぎだし、飲みすぎだな。便意が半端ない。

 

 久しぶりの飯は格別だった。ただでさえ空腹というスパイスが効いているのに、鳥の丸焼きやらステーキやらうまいものばかりが並ぶのだから、手が止まらなかった。

 ここの村の人たちも気のいいケモナーばかりで、ついつい盛り上がっちまった。

 

 防壁に沿いながら、教えてもらったトイレに行く。

 見張台のすぐそばか。ちょうどいい、トイレに行ったらカサカサ言ってる正体を探してみよう。

 案の定、板に穴が開いただけの簡易トイレに抵抗を感じつつも用を足す。

 見張台の上に上り、防壁の周囲を見渡した。


「おいおいなんじゃこりゃ」


 村の周囲にはウサギや鹿、イノシシなんかが集まっていた。

 困惑している間にも森の奥から次々と集まってくる。


「夜はこうなることが当たり前なのか?」


 しかし、どうにもおびえているように見える。

 ここはひとつ、もと冒険者のフィンに聞いてみよう。


 広場に戻って、フィンを起こして見張台に連れていく。

 ノリのいい好青年なフィンも酒盛りの後の深夜に起こされたとあっては、眠そうだ。

 まだ寝ていたいと目をこするフィンに周りを確認してもらう。


「おい健司、この動物たちはいつから集まっていたんだ」


 眠気が吹き飛び、目を見開いたフィンが聞いてきた。


「さっき俺が起きたときにはすでに集まってたぞ」


「まずいな…」


 フィンは深刻な顔をして、焦り始めた。


「おーい、みんな起きてくれ!緊急事態だ!」


 フィンは見張台に設置されていた鐘を鳴らした。

 村人たちがぞろぞろと見張台近くに集まってくる。


「何事だ」


 村長のバムじいが尋ねる。


「周囲に動物たちが集まっています。おそらく、北西の方向に強力な動物あるいは魔獣が近づいている可能性があります」


 だからおびえていたのか。


「わかった。戦闘員は北西の防壁付近に、そのほかの者はこの見張台付近で待機。いつでも非難する準備をしておけ」


 村長の指示で村人たちは一斉に動き出した。


「すごいな、みんな眠いだろうにあんなにキビキビと」


「この村は森の結構深くにあって、強力な動物やガネーシア個体もよく出没する。それでも存続できてるのは、俺たち戦闘員が強いのと、この連携のおかげなんだぜ」


 フィンは自慢げに言ってきた。

 そういえば、結構名の知れた冒険者とか騎士がいるって言ってたっけ。

 そうかそれなら安心。俺もこの見張台付近で待機させてもらおう。


「何突っ立ってるのよ。あんだけご馳走になったんだから、私達も行くわよ」


「ちょっと待て、俺は戦闘系じゃない!ただの一般市民だー!」


 アルフォースに乗ったエマに襟首をつかまれ、北西に連れていかれる。

 もう一つの見張台に着くと、フィンたち冒険者が下を睨んでいた。


「異常の原因は見つかった?」


「エマ様⁉それにアルフォース様!いえ、まだ現れておりません」


 鬱蒼(うっそう)とした森の中からは草食系の動物ばかりが逃げ出てくる。


「この森の中では何が危険とされているんだ?」


 フィンに聞いてみる。


「健司もきたのか⁉そうだな……俺たちが捕捉している限りだとフェンリルとか、ギガントオーガとかかな。変わったやつだと熊のガネーシア個体もいたはず」


 あの時バレなくてほんとによかった。

 横を見ると、エマも震えていた。


「ワオォォォォォン」


 見つめる先、森の方から遠吠えが聞こえてきた。


「ファンキードッグか。今回は楽勝だね」


 フィンは勝利を確信したように笑った。

 草木をかき分けて現れたのは白黒の縞模様に、金色の長い眉毛を持った変な犬だった。


 ファンシー、なのか?

 続々と村に走ってくる。


「健司、エマ様、よく見ていてください。あいつらを蹴散らすところを」


 フィンたちは見張台から手を突き出さし、技名を叫んだ。


「ファイヤーボ―ル!」


「ウィンドカッター!」


「ライトニング!」


 それぞれの手から火の玉やら稲妻やらが飛び出し、ファンシードッグを倒していく。

 それからも魔法を放ち続け、一掃した。


「スゲーなフィン。一瞬で終わったぞ」


「だから言ったろ、楽勝だって」


 初めて見た魔法らしい魔法。やっぱり異世界にはこういう魔法だよな。


「何よ」


「いーや、別に。フィンたちの魔法がすごいなって」


「私の召喚術が地味って言いたいの!」


 再び煽り合いが始まる。


「二人とも静かに、まだ何か来る!」


 フィンが真剣な表情で言ってくる。その緊張感が俺たちにも伝わってくる。

 現れたのは銀色の綺麗な毛並みを持つ、大きな狼だった。


「フェンリル⁉」


「しかも二体いるぞ!」


 冒険者たちが慌てふためく。

 なんて美しい動物なんだ。ぜひあの毛をモフりたい。

 待てよ、あいつ危険な動物の一つに入ってなかったか。やべーじゃん、二匹って。

 フィンたちがすぐさま魔法を放つも大して通じている様子はない。


「クッ、全然効かない。騎士の方々、戦闘の準備を!」


 見張台の下で待機している騎士に伝えると、フィンたちは魔法をやめて見張台を降りて行った。

 防壁が壊されたときに備えるのか。じゃあ、俺たちも下に。


「く、来る」


 エマが後ずさる。

 振り返ってフェンリルを見ると跳び上がる準備をしていた。


 マジで⁉防壁越えようとしてる!


「跳んで来るぞ!気を付けろ!」


 フィンたちに叫ぶと同時に、フェンリルが俺の頭を跳び越していった。

 続けて二匹目も跳び越していく。

 二匹が戦闘員たちと対峙する。


 これから熾烈な戦いが始まるのか!

 魔法がほとんど効かないフェンリルとどう戦うのだろうか。騎士たちの鋭い剣さばきが披露されるのかもしれない。これは熱くなってきた!


 フェンリルが跳びかかる体勢をとった。そして大きく跳び上がり……そのまま戦闘員たちを跳び越し、さらに南東、もう一つの見張台も跳び越していった。


 は?ただ通り過ぎていっただけ?


「よかったぁ」


 エマがその場に座り込む。

 フィンたちも被害が出ずに脅威が去ったことを喜んでいた。

 熾烈な戦闘を期待した自分もいたが、みんな無事ならそれが一番か。

 俺も緊張をほどいてその場に座り込む。


「これでようやく安心して寝られ……」


 ドーンと地響きが伝ってきて、遠くの大木が倒れた。

 それから何度も地響きが続き、何かが近づいてくる。


「なぁ、これ何の音だよ」


「わからないわ、こんな地響きギガントオークでも発生しないわ」


 次から次へと一体何が出てくるっていうんだ。

 地響きは徐々に大きくなり、木々が次々と倒されていく。

 森の中から土煙が湧き出してきて、思わず目を瞑る。


 土煙が止んで目をあけると、目の前に大木が倒れてきた。

 大木から視線をあげて、ゆっくり見上げると、そこには巨大なイノシシがいた。

 大きな牙は月明かりに照らされ、荒い鼻息で周囲の砂が巻き上げられている。


「魔獣ウロボロス⁉」


 エマが叫ぶ。

 イノシシにしてはかっこいい名前だな。確かにゆうに二十メートルは超える体高に、赤と黒の毛並みは破壊神っぽい名前が似合うな。

 下らないことを考えていると、ウロボロスがのしのしと歩いてきた。


 ヤバい!


 すぐさまアルフォースの背に乗り、見張台から飛び降りる。

 後ろを振り向くと、見張台のあった場所に前足があった。


 危機一髪だった。


「エマ、あいつは何なんだ!」


 ただ茫然とウロボロスを眺めるエマは淡々と答えた。


「あれは魔獣ウロボロス。邪教幹部にも匹敵する破壊力をもつ魔獣よ。たぶん本気で突進すれば山一つなくなるんじゃないかしら」


 ラスボス級のやつかよ!


 周りを見れば、戦闘員たちは完全に戦意を失っていた。

 当然だ。あいつから見たら俺たちは蟻同然だからな。

 つまり、俺の異世界人生は本当にここで終わりということか。

 絶望感が頭の中を支配していく。


 本当に終わりなのか?


 異世界に来て、家出して、大罪人になって、宴に参加してそれで終わりか?

 冗談じゃない!まだ冒険も、温泉巡りも、ハーレムづくりも何一つ達成してない。勝手な都合で召喚されて、何もできないまま死んでたまるか。何か、何か打開策を!


「エマ、どうにかあいつを倒す方法はないのか」


「あるならとっくにどうにかしてるわよ」


「でも何か」


「わからないの!あれは暴力の塊、理不尽の権化なの!何をしたって、どう足掻いたって私たちが助かるすべはないの!」


 エマが泣き叫ぶ。


「私だって死にたくないわよ。でもどうやったってあんなのには……」


 座り込んだエマは最後にと、祈りのポーズをとった。


「ああ、シーア様どうか来世は理不尽のないやさしい世界にしてください」


 祈り、召喚術……これだ!


「エマ!地面に魔法陣を描け!」


「は?何を言って…」


「女神様に助けてもらうんだ。今ある俺たちのすべてを供物として!」


 エマははっとしたように目を見開いた。

 戦意を取り戻したエマは、すぐに木の棒で地面に魔法陣を描き始めた。

 あとは供物だ。


「みんな、聞いてくれ」


 あきらめかけていた戦闘員たちの顔が俺に向けられる。


「まだあきらめるには早い!お前たちが信仰してきた女神様を頼るんだ。そのためにエマが今から召喚術を使う。供物が必要なんだ。惜しいかもしれなけど、みんなの武器を使わせてくれ。頼む‼」


 必死に言葉を紡いで頭を下げる。

 今俺にできることはこれぐらいしか……。


「惜しむわけないだろ」


 顔をあげるとフィンが剣を渡してきた。


「助けてもらえるかもしれないのに拒否するやつがいるかよ。なぁ、みんな!」


 戦闘員たちがフィンに賛同の雄叫びをあげる。


「健司!魔法陣が描けたわよ!」


 エマの前には部屋で見た時よりも大きな魔法陣があった。


「みんな、ありがとう!あの魔法陣の中心に武器を集めてくれ」


 戦闘員たちは皆、自分の剣や弓、鎧などを集めていく。

 俺も何か供物になるものを…。

 ポケットをまさぐっているとスマホを見つけた。

 

 課金しまくったソシャゲのデータ、推し活で撮った写真、アマテラスのキーホルダー……すべて今、必要のないものだ。これで助かる可能性が上がるなら!

 俺はスマホを魔法陣の上に置いた。


「準備はいい?」


「ああ」


 エマが詠唱を始めた。

 その瞬間、それまで村の貯蔵庫を食い漁っていたウロボロスがこちらに意識を向けた。

 明らかにロックオンしてやがる。

 召喚術の発動にはまだ時間がかかりそうだ。どうすれば。


 そういえば、つい最近のニュースで『イノシシは動くものに敏感に反応する』って言っていたな……一か八かやるしかない。


「フィン!俺に強い風を当てて吹き飛ばすことはできるか?」


「できるが、何をする気なんだ」


「ちょっとした闘牛ショーだよ。俺が合図を出したら、横から強烈な風を送ってくれ」


「わかった」


 フィンに意図が伝わったのを確認すると、アルフォースに目を向ける。


「俺をあの見張台まで連れて行ってくれ」


「……連れて行くだけだからな」


 アルフォースは俺を乗せると一気に駆け出し、エマたちから離れた北西の見張台に上り、俺を置いて帰っていった。

 マジでおいて行くのかよ!

 まぁ、いいか。


「おーい、そこの食い意地張ったウリ坊!ここにうまい餌があるぜ」


 昨日の残りでもらった豚の串焼きを振って見せる。

 するとウロボロスが体の向きをこちらに変え、鼻をひくひくさせた。


 やっぱり鼻がいいみたいだな。

 共食いになるけど、うまけりゃなんでもいいのか。


 なおも串焼きで注意を引いていると、ウロボロスがげっぷをした。その際、丸い何かを吐き出した。その丸い何かは見張台のすぐ下まで飛んできた。


「ひっ」


 それは直径が俺の身長ほどもある豚鼻の頭だった。

 これギガントオークとか言ってたやつじゃね。

 俺はこんな奴に喧嘩を売るのか。

 命がいくつあっても足りないな。


 しかし、腹を括ろう。俺は今から英霊の仲間入りを果たすんだ!

 振っていた串を顔の前に持ってくると、勢いよくかぶりついた。

 おいしそうに、味わうように咀嚼する。


 ウロボロスを見ると、ありえないぐらい睨みを利かせていた。それはもう脚が震えるくらいに。

 串を食べ終え、地面に投げ捨てる。


「誰がお前にやるって言った?」


 ウロボロスが地面を蹴りだした。

 来た。突進の構え。

 あの挑発で釣れなかったら裸踊りでもするかと考えてたが、犠牲が串一本で良かった。


 引き付けろ。ギリギリまでここで耐えるんだ。

 注意がエマたちに向かないよう、さらに煽り散らかす。


「お前の母ちゃん、でーべそ。自慢の牙、くすんでるぞー」


 そこまで言ったところでウロボロスが地面を蹴るのをやめた。


 さぁ、一世一代の大勝負!


「フィン!」


 合図を送ると、強烈な突風が襲ってきた。

 俺はその風に身を任せ、引きずられるように地面に落下した。


ここまで読んでいただきありがとうございます!








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