アニラバ村
作者の志野野しのやです。
週1程度の頻度で投稿していきます!
馬に揺られて森を移動すること数時間、ずいぶん深くまでやってきた。
「なぁ、この森は安全なのか?夜だと猛獣とか出てきそうだけど」
「私も本で見ただけだけど、この森にはそこまで恐ろしい動物とかはいないらしいわ」
確かに、ちょくちょく見かける動物も鹿やウサギとかで襲ってきそうな獣はいないな。
と思っていたら、森の方からガリガリと木を削る音がする。
ユニコーンも速度を緩め、ひっそりと歩き出した。
「おい、これ何の音だ?」
「わからないわ。けど聖獣様の反応から危険な奴がいるのは確かね」
ゆっくりと進んでいくと、右斜め前方に大きな影を見つけた。
よーく目を凝らしてみる。
「……⁉熊だ」
その大きな巨体を持ち上げて、爪とぎをしていた。
俺の知っている熊と少し違う。爪が異様に長く、二本足での立ち姿が様になっている。
「ガネーシヤ個体!」
エマが瞳を大きく見開いてつぶやいた。
エマ曰く、動物の中にはガネーシヤという神に選ばれた個体がおり、通常の個体よりも数倍手強いらしい。
俺たちは絶対に見つからないよう、息をひそめて通り過ぎていった。
それからも何匹か猛獣たちを見かけながら、進んでいった。
「この森にはそんなに強い動物はいないじゃなかったのか?」
「これは明らかに以上よ。あれぐらいの猛獣はいてもおかしくないけど、もっと森の深くにいるはず……何かもっと強い獣がいるのかも」
不穏な空気を感じつつ、さらに深くへ進んでいくと明かりが見えてきた。
明かり?
もしや火の魔法を使う魔物が暴れているんじゃないか。
ユニコーンが更にその明かりに近づいていくと、木でできた高い防壁が見えた。
こんな森の奥地に村でもあるのか?
防壁の前まで来るとユニコーンが止まった。
どうやらここが目的地らしい。
中からは何やら楽しそうな声が聞こえる。宴会でもしてるのか?
しかし、防壁の門はきっちり閉まっており、どうすることもできない。
「どうやって中に入るんだ?」
「さぁ?あの門を蹴破ってはいるとか?」
「お前、その脳筋思考はどうかと思うぞ」
「うるさいわね。じゃあ、どうやって入るの」
「それは……」
何かないかと防壁を眺めていると、突然野太い声が響いた。
「頼も――――――――う」
誰の声だと周りを見て愕然とした。
ユニコーンが声をあげていた。
「「しゃ、しゃべった~~~~~~⁉」」
エマと声がハモる。
「お前もこいつがしゃべるって知らなかったのか」
「知ってるわけないでしょ、そんな簡単に会えるお方じゃないのよ」
「そうなのか」
防壁の門が少し開き、中から門番が出てきた。
門番は俺たちを順番に見ていく。
「あっ、アルフォース様!お久しぶりです」
門番は恭しく頭を下げた。
「一月ぶりくらいだな、みんな元気にしてる?」
結構会ってるじゃねぇか。
「はい、それはもう。今日はちょうどこの村の設立記念で宴が開かれております」
「そうか、いい時に来たな」
そういってユニコーンは門番と世間話をしながら防壁の中に入っていく。
エマと顔を見合わせる。
「あっさり入れたな」
「そうね」
村の中に入ると、巨大な木が立っていて、枝の上や根の影などそかしこに家が設置されていた。まるで鳥の巣箱が密集した木のようになっていた。
村の中央には広い広場があり、大きなキャンプファイヤーを囲んでダンスをする集団が目に入った。
まさしく宴の真っ最中だな。
ユニコーンはどこに行ったのか。
座って待っていると、おじいさんと先ほどの門番を連れてユニコーンが戻ってきた。
「バムもなかなか尻に敷かれているな」
「ご冗談を。アル様こそ女神様の使い走りではありませんか」
めっちゃ仲いいな。結構きわどい冗談な気がするけど、お互い豪快に笑ってるし。
「そうそう、今日連れてきたこいつ。お前らと同類な」
ユニコーンが顎で俺を指す。
「ほう、アル様に連れてきてもらえるとは羨ましい限りですな。お主、何の動物に罪を犯した?」
おじいさんが俺の方を向いて聞いてきた。
同類、何の動物……この人もしかして俺と同じように動物に餌あげてここに追放されたのか?
とすると、俺が罪を犯した動物は……。
ユニコーンを無言で見つめる。
「ブフッ、まじか。お主、アル様を餌付けしたんか」
おじいさんはツボに入ったのか、腹を抱えて笑っている。
「ヒー、ヒー、あー腹いたい。おーい皆の衆、ここに勇者がおるぞー」
キャンプファイヤーの周りにいた人たちが集まってくる。
「よく聞け、こやつはなんとアル様に餌を与えたらしい」
集まった人たちの視線が一斉に俺に集まる。
「「「「勇者だ!」」」」
目を輝かせた村人たちに胴上げされ、そのままキャンプファイヤーの近くに運ばれた。
「お前スゲーよ、あのアルフォース様を相手にするなんて」
青年が横に座って話しかけてくる。
「俺はフィン、よろしくな」
手を差し出されたので快く握手する。
「俺なんてフウライチョウに餌をあげるだけでビビッてたのによ。なぁ、恐れ知らずな勇者の名前、教えてくれよ」
よくわかんないけどめっちゃ褒められて気持ちいい!
この世界に来てから散々罵倒されてたからな、ちょっと褒められただけで泣きそうだ。
ここはバシッと勇者っぽく決めよう。
「我が名は健司!ユニコーンを制覇し、いずれドラゴンに至るもの‼」
かっこよく決めポーズをとれば周りから歓声が上がった。
あぁ、心地良い。
「勇者健司よ、あなたがアルフォース様に食べ物を与えるまでの武勇伝、ぜひ聞かせてください!」
青年が跪く。
この人、すげぇノリいいな。どんだけふざけても拾ってくれそう。
「いいだろう、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ」
周りの聴衆もさらに一歩近づいて俺の話を聞き始めた。
「あれは、俺があそこにいるメイドから飯をもらうの待っているとき……」
俺はこの村にたどり着くまでの物語を語った。
話している間、宴が開かれているのもあってたくさんの料理をもらうことができた。
食べては語る、食べては語る。あ~、幸せ~。
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なんか胴上げして連れて行っちゃったんですけど。
あいつもあいつで嬉しそうだし、意味わかんない。
ああ、私これからどうなっちゃうんだろう。
「そちらのメイドさんは何者かね」
バムさんがあたしの方を見た。
「こいつは現巫女だ。そんでもってあいつの召喚主」
巫女……まだその肩書あったんだ。
巫女はこの世界でも重要な立ち位置の人間だ。アルフォース様が女神様の使いであるならば、巫女は女神様と現世をつなぐ人柱のようなものだ。女神様からの寵愛を受け、多大な恩恵を受ける。そしてその恩恵を世のため、人のために行使し、生活を豊かにする。それが巫女だ。
巫女の使命だと言って縛り付けてくる教会が嫌で逃げ出したのに、まだ付きまとってくるのか。
「また変わった人たちを連れてきたね、アルフォース」
いつの間にか近くに来ていたおばあさんが話しかけてきた。
この人どっかで見たことあるような。
「ようローザ、見ない間に老けちまって」
「黙りな。さもないとその自慢の角が私のアンチエイジングに使われるよ」
「角の恩恵をそんなことに使うな!」
ローザさんはアルフォース様を無視して私に向き直った。
「大きくなったねぇ、エマ。私のこと覚えているかい?」
やさしく微笑みかけられた顔を見て思い出した。
幼い頃、教会で何度も見かけたやさしい笑顔。同年代の子が誰もいなくて寂しかった時、遊び相手になってくれた人。
「ローザ様!巫女のローザ様ですか」
「元、巫女のね」
もう引退されたのか。それもそうか、もう六十代のはずだ。
でもなんで王国じゃなくて、こんな森の奥に住んでいるんだろう?
「どうしてローズ様がこんな森の奥に」
「もともと決めていたのさ、引退したらこの村の支援をしようって」
支援?どういうこと?
「気づいていると思うが、ここの村人は全員、シーア教だ。それも非常に熱心な」
村人全員が青いペンダントをしている時点でそれはわかっていた。けど国内じゃなくて少し離れたこの森に隠れ住んでいるということは…。
「ここは動物にエサをあげたことで罪人となった人々で構成された村だ」
やっぱりそうだったか。アルフォース様が同類といった時点でそうではないかと思っていた。
「かく言うわしも、世話をしていた王国騎士団の馬に餌をあげてしまってな、国外追放になったわけ」
バムさんは自虐ネタで笑っている。
この人もなかなかに重い罪をもってるな。
「笑い事じゃなかったんだぞ」
バムさんがローザ様にひっぱたかれる。
ごもっとも。
「さっきも言ったがここにいる連中は信仰心が強すぎてな。黙っていれば恩恵が弱くなるだけで済むものを、教会に自分で懺悔しに来ちまう。名の知れた冒険者や騎士なんかもいて、さすがに見逃すことはできないってことでこの村に私が来たわけ。食糧なんかの手配も兼ねてな」
ローザ様がやれやれと頭を振る。
管理は相当大変なんだろう。たぶん村長だと思われるバムさんがこの調子じゃね。
キャンプファイヤーの方を見ると、健司が身振り手振りで何かを話していた。
何してんだか。
「あの坊やを召喚したんだって?」
「え、えぇ、まぁ、はい、そうです」
「邪教を倒すための勇者か何かかい?」
「えーと……」
浮気された憂さ晴らしに召喚したなんて言えないし、なんて説明すれば。
頭の中で良い説明はないかと考えていたら、アルフォース様が笑いだした。
「クククッ…違う違う。エマはな、彼氏に浮気されたのが悔しくて最高の彼氏が欲しいってあいつを召喚したんだよ」
「なっ⁉アルフォース様、なぜそれを知って」
「なぜって、シーア様が言ってきたからだよ。エマが新しい彼氏を召喚するから見定めてやれって。召喚までの経緯もな」
シーア様、プライベートの侵害ですよ!
「ハッハッハ、あんたも変なことに特権を使うね」
「だってほんとに悔しかったから」
そう、あの時は本当に悔しかったのだ。このまま私だけ泣いて終わってやるかって、最高の彼氏作って見返してやるんだって。なのに召喚されたのは村人の前で腹踊りしてるような変態。なんで私の人生こうもうまくいかないんだろう。
そういえば、私は「強くてカッコよくて、私を一番に考えてくれる最高の彼氏との出会いを」ってお願いしたはずなのに、なんで彼氏本人が召喚されたんだろう。てっきり観光地のペアチケットか何かが出てくると思ったのに。
「ローザ様」
「ん?」
「私は『最高の彼氏との出会いを』ってお願いしたんです。なのに召喚されたのはあの変態本人で、しかも召喚するときにすごく光ったんです。これって何かやらかしちゃってたりします」
恐る恐る聞いてみると、ローザ様は真剣に考えだした。
「エマ、あんたは自分の特権をどんなふうに把握してる?」
「へ?魔法陣で供物と引き換えにそれとほぼ同価値の物を召喚する能力ですけど…」
なんでそんなこと聞くんだろう。
「それは間違っているよ。私がシーア様から授かった神託によれば、あんたの特権は『供物と引き換えにそれとほぼ同価値の願いを叶える能力』だよ」
願いを叶える能力……それってすごくない⁉
「知られたら教会があんたを手放さなかっただろうから『物を召喚する』って伝えたんだ」
確かに、一生あのつまらない部屋ですごしていただろう。
「だから、あんたが召喚したものにはいろんな付与がついてる。簡単な話、よく切れる包丁が欲しいって願ったら切れ味が良くなる効果が付与された包丁が召喚されるんだ。『最高の彼氏との出会いを』って願ったのなら、あの坊やにはあんたにとって最高の彼氏になる付与がされていて、まだ出会ってないってことじゃないか」
「なるほど」
ということは健司が私にとって最高の彼氏になったら、勝手に元の世界に送り返せるんじゃないか?
嫌だけど、試してみよう。
「シーア様、健司は私の最高の彼氏で――――す!」
「えっ、お前実は俺のことそんなに好きだったのかよ」
無言で乙女の鉄槌を下す。
「近寄るな変態!」
いつの間に戻ってきたんだ。
クソっ、絶対これからネタにされる。
「意味わかんねぇ」
「坊や、あんたも苦労するね」
「ばぁさん、知り合いならあいつのすぐ人を殴る癖直してくれよ」
「それは自分で頑張りな、尻に敷かれるか亭主関白になるかはあんた次第だよ」
「そんなぁ」
ローザ様まで何を言っているんだ。あいつと付き合うなんてまっぴらごめんよ。
あぁ、イライラする。私もやけ食いしに行こう。
たくさん料理が並ぶ宴の中心に向かって走り出した。
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