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ユニコーンは月に映える

作者の志野野しのやです。




週1程度の頻度で投稿していきます!

店内に戻るとすぐに店長に呼ばれた。


「エマ、今ちょっと混んできたからすぐに入れる?」


「はい、分かりました」


 配膳台に並べられた料理を手に取り、お客さんのいるテーブルに向かった。

 料理を運びながら、頭の中にはさっきの健司の土下座が残っていた。


 彼にも彼の生活があったはず。私が召喚したことで彼はこの世界に突然連れてこられた。勝手に家を抜け出すし、反抗ばかりする憎たらしいやつだけど、私にも責任がある。せめて彼が仕事を見つけるまでは面倒を見よう。


 夢中になって仕事をすること二時間、そろそろ客足も少なくなり、暇を持て余す時間になってきた。


「エマ、暇だったらこっちの仕込みを手伝ってくれないか」


「はい」


 店長に呼ばれて厨房に入る。

 そういえばアリサ先輩はどこへ行ったんだろう。あの人のことだからまたどこかで油を売っているのだろう。

 無心で玉ねぎを刻んでいるとちょうどアリサ先輩が裏口から戻ってきた。


「どこ行ってたんだアリサ、暇なら床掃除をしてなさい」


「はーい」


 間の抜けた返事をしてアリサ先輩は箒を取りに行った。

 戻ってきたアリサ先輩が近寄ってくる。


「健司君、お話してきたけどいい子だね。でもエマ、さすがに昨日から何も食事を挙げてないのはかわいそうだよ」


「わかってます…、いくら憎たらしいやつとはいえやりすぎたなって」


「勝手に家を出てきちゃったのは確かに悪いけど、せめて何か食べ物持って行ってあげたら?」


「そうですね、持っていきます」


 手を止めて、冷蔵庫に向かう。

 何をあげよう?レタス、トマト、玉ねぎ、にんじん、生肉は……だめだよね。

 冷蔵庫の前で悩んでいると店長がやってきた。


「ちょっといいか、えーとトマトは……あった。ん、何だこれ?」


 店長が手にしたのは青紫色をしたにんじんだった。


「なんですかそれ?」


「さぁね、どうせミーナあたりが物珍しさに買ってきたものだろう。見た感じ食べても問題なさそうだが、お客さんには出せないな」


 そういって店長はそのにんじんを置いて厨房に戻っていった。


 食べられるなら腹の足しにはなるよね。ミーナ先輩、また今度同じもの買ってくるんで今は頂戴します。

 私は青紫色のにんじんを手に取って裏口へ向かった。


 




-----------------------------------------



 


 もうすぐ日が落ちるなー。

 正座を続けてずいぶん経った。もう足の感覚はない。

 ただこうして時間が過ぎるのを待つのもなかなかの苦行だ。

 

 しかもここ、誰も通らないと思ったら子供の遊び場だったり、猫の集会に使われたりで意外と人気のスポットになっている。おかげで皮膚に直接掛けられる伊達メガネをもらい、右の頬にはひっかき跡ができた。脚がしびれて逃げることもできなかった。

 

 しまいには変な占い師のおばあさんに占いされるし。

 なんだよ、水晶見てさんざん悩んだ挙句返した言葉が「難儀だの~」って。見りゃわかるわ。

 

 人生の不憫さに浸っている間にとうとう日が沈んだ。異世界生活2回目の夜だ。

 どこからかおいしそうなにおいが漂ってきてお腹が鳴る。

 いつになったら飯にありつけるんだろう。

 

 すると、裏口のドアがガチャっと空いた。

 また、あの上段蹴りメイドか?

 店が暇だからと、あの暴力女の失恋話をしたり、俺の故郷の話を聞いたりしていった。

 あいつも苦労してたんだなと思う反面、今お話しする余裕あるならご飯を恵んでくれませんかという思いで聞いていた。

 だからそれとなくご飯が欲しいと伝えておいた。さて、いつ来るのやら。


「何1人でブツブツ言ってんの?」


 いきなり青髪の綺麗な女性が顔をのぞき込んできた。

 ついに天使が迎えに来たんだ。


「無視してんじゃないわよ」


 天使が俺の頬をつまんだことで現世に引き戻される。


「なんだエマか」


「なんだって何よ!せっかく食べ物持ってきてあげたのに」


「本当か⁉」


 エマはポケットから青紫色の何かを取り出す。


「はい」


 エマがそっぽを向きながらそれを差し出してきた。


「何これ?」


「にんじんよ、にんじん」


 確かに逆三角形を引き延ばしたような形状はにんじんだが、色が…。

 いや、ここは異世界だ。これがここのにんじんなのかもしれない。


「へ、へー、異世界のにんじんは変わった色をしているんだなー」


「いーえ、普通のにんじんはオレンジ色よ。それは先輩が物珍しさに買ってきたやつ」


「おい、そんな得体の知いれないもの食べさせようっていうのか」


「食べられるんだからいいじゃない。他の物は店で使うからあげられないの!それで我慢しなさい」


 そう言い放って、エマは店の中へ戻っていった。

 我慢しろって言ったって簡単に割り切れるか。第一皮も剥いてないぞ、これ。

 試しに一口かじってみる。


「おえぇ、なんか甘さと苦さが絶妙に混ざり合ってクソまずい」


 一口でかじるのを放棄した。

 こんなの食えるか。まずいし、硬すぎて顎外れそうになるし。

 けど、これその辺に捨てて置いたら、あいつまたキレそうだしな。

 どうしたもんかとにんじんを手でもてあそんでいると、道の先からウマが現れた。

 真っ白な毛並みに青みがかった(たてがみ)、一番目を引くのは眉間の間に生えた立派な角だ。


 ユニコーンか。


 召喚魔法以来の異世界感に興奮する。

 ユニコーンは鼻をひくつかせて近寄ってくる。

 そして、俺が手にもつにんじんの前で止まった。


「こいつが欲しいのか」


 にんじんを振って見せると、ユニコーンが頷いた。


 頷く?


 違和感はあるものの、俺の手の中のにんじんをゆっくり食べるユニコーンに敵意は感じられない。

 無類の動物好きの俺にとってはいやされる光景だなぁ。

 頬杖を突き、ユニコーンににんじんをあげていると裏口のドアが開いた。


「遅くなったわね、さぁ今後の話を……あなた何…して…るの?」


 疲れた様子だったエマが俺たちを見るなり、顔を青くしてわなわなと震えだした。

 また何かやらかしただろうか?


「通りかかったユニコーンに餌をあげてるだけですけど」


「そのお方はただのユニコーンじゃないわ、首輪がついているでしょう」


 ユニコーンの首を見ると、金色に光る立派な首輪がついていた。

 その首輪には『シーア教第一席聖獣アルフォース』と書かれている。


「どっかのお偉いさんのペットなのか?」


 それにしては放し飼いしすぎだろう。周りに誰もいないぞ。


「違うわ。そのユニコーンがお偉いお方なの。女神の使い、聖獣アルフォース。この国で最も偉い、王族よりも偉いお方よ」


「馬が王族より偉いってどんな国だよ!」


 未だににんじんを咀嚼(そしゃく)しているこの馬が、この国で一番偉いなんて信じらんねぇ。


「今は誰が偉いかなんてことより、あなたがにんじんをあげていたことが問題よ。シーア教では…」


 エマが何か重要なことを言おうとしたとき、そばで何か落ちる音がした。

 音のした方を向くと、おばあさんがしりもちをついていた。

 信じられないものを見たというようにこちらを凝視している。

 すると次の瞬間、


「衛兵さーん‼」


 大声で叫びながら走っていった。


「あのおばあさん、大丈夫か?急に走っていったけど」


 よくわからん。

 エマも困惑しているだろうと思って顔を見ると、先ほどよりも青い顔でヤバいを連呼している。

 ますますわからん。

 気にせずユニコーンを眺めていると、どこかでピィーという笛が鳴った。


「泥棒でも出たのか?」


「ねぇ、健司」


 さっきまで青白い顔をしていたエマはどこかスッキリした顔でこちらを見ていた。


「私ね、あなたが仕事を見つけるまで面倒見ようと思っていたけどやめるわ。私は未来の旦那様に会いに行かなきゃいけないの。だから、ごめんね」


 いきなり意味の分からないことを言い出したエマは一呼吸おいて、大きく息を吸った。


「衛兵さーん!ここに大罪人がいまーす!」


「大罪人ってどういうことだよ⁉」


「じゃあね」


 そう言って走りだそうとしたエマの襟首をユニコーンが掴んだ。


「聖獣様、何をなさるのですか」


 高く持ち上げられたエマは逃げようともがくも、離れない。

 縞パンか。

 その光景をボーっと眺めていたら鋭い蹴りが飛んできた。


「見るな!」


 再び地面とキスしていると、襟首をつかまれる感触がした。

 持ち上げられると、ユニコーンの背にのせられた。

 エマも前に座っていた。


「何これ、どういう状況?」


「知らないわよ!」


 意味の分からない状況に困惑していると、道の角から甲冑を来た兵士たちが現れた。


「いたぞ!聖獣様と……巫女様も一緒だ!」


「あの下郎め、大罪を犯すだけに飽き足らず、誘拐まで企てるとは!」


「何としてでも捕まえるぞ!」


 兵士たちが一気に押し寄せてくる。

 すると、それまでおとなしかったユニコーンがいきなりいななきをした。

 唐突に走り始めたユニコーンに振り落とされないよう必死にエマに抱き着く。


「ちょっと、どこ触ってんのよ!離しなさい!」


「無理言うな!落ちるだろうが」


 エマが文句を言っている間もユニコーンは加速する。

 馬ってこんな速く走るのか!

 前に座るエマの長い髪が後ろまでなびいている。

 初めての体験に喜んでいるのもつかの間、前から兵士がやってきた。


「どうするんだよ」


「知らないわよ!聖獣様が勝手に進んでいるんだから」


 てっきりエマが操っているのかと思ってた。

 じゃあ、俺ら今、馬に誘拐されてんの⁉


「聖獣様、お止まりください!」


 正面の兵士が叫ぶも、ユニコーンは止まらない。

 馬に言葉が通じるわけないだろ!

 ユニコーンはそのままの勢いで兵士に向かっていき、飛び越えた。

 ふわっと来る浮遊感に、跳躍の高さを感じる。

 ユニコーンはそのまま走り続けた。

 右へ左へ、時にジャンプして兵士たちを避けながら進んでいく。


「なぁ、ところで俺が大罪人ってどういうことだ?」


 騎乗に慣れてきたところで気になっていたことを聞いてみる。


「どうもこうもないわよ。シーア教では動物にエサをあげることを禁じているの。シーア教を国教にして

いるこの国では大罪に当たるわ。捕まったら死刑ね」


「はぁ?そういうことは早く言えよ。じゃあ、俺もうこの国にはいられないわけ?」


「そうね、あなたの場合、聖獣様に餌をあげたわけだから重罪も重罪。ひどい処刑が待っているわね」

 

 終わった。異世界に来て早々死刑確定宣告受けた。もうだめだ、おしまいだぁ。


「あっ!だからお前、さっき逃げようとしてたのか!」


「……」


「無視してんじゃねーよ、この薄情者!」


「うるさいわね、聖獣様に対して大罪を犯すほどの間抜けなんか面倒見切れないわよ!」


 それからも言い合いを続けていると、いつの間にかきれいな満月が出ていた。

開けた一本道に出ると、その道の先には高い城壁がそびえたっており、下には門があった。

 しかし、その門は閉まっており、多くの兵士が待ち構えていた。

 ユニコーンはその大群に向かって走り出した。


「おいおい、あそこを通るつもりか⁉」


「聖獣様、お願いです!この人は死刑でいいからもう降ろしてください!」


「おい、ふざけんな!」


 ユニコーンはどんどん加速していき、大群に突っ込んでいく。と思ったら脇道の階段を上っていく。視界に空が映ると、ユニコーンは屋根の上を走っていた。次々と高い方へ飛び移っていき、城壁を目指していく。

 まさか飛び越える気か⁉

 ユニコーンの体にぐっと力が入ると、見渡す中で最も高い教会の鐘の塔を踏みつけ、飛び上がった。

 あまりの勢いにユニコーンの背から浮いて、離れそうになる。 


 何か捕まるものを!


 必死になって掴んだのはエマの足だった。

 これ後で殺されるやつだ。

 それでも振り落とされないように掴む。

 エマもユニコーンの首を思いっきり掴んでいた。

 ユニコーンは城壁を飛び越えた。


 城壁の上から見ると、月明かりに照らされる都市はとてもきれいだった。

 次の瞬間、ものすごい勢いで落下していく。


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーー」


「キャァァァァ――――――」


 二人して悲鳴をあげながら、落下していく。

 今まさに地面と激突しようかというところで、下から突風がきて減速した。

 無事着地できたユニコーンはなおも走り続ける。


「死ぬかと思った」


「心臓に悪いわ」


 ぐったりとなりながら、ユニコーンの背なかに揺られる。

 果たしてこの馬はどこへ向かっているのか。


ここまで読んでいただきありがとうございます!








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