第7話 彼女に出会うその時まで
第7話です。ここからが第2章。私的にはここからが本番みたいな感じになるかな~。なんてったって、リストラされたキャラがいよいよ復活参戦しますもの。
次回には夏実ちゃんが使えるようになります。お楽しみに~!
長い学校の授業を終えて帰宅後すぐにパソコンの電源をつける。電源をつけてやることはただ一つ、ワンリスをやることだ。
ワンリスは日本時間十五時にゲーム上の一日が変わるので、その日のログインボーナスが貰えるようになる。私は今日も、ワンリスを起動してログインボーナスを受け取る。確かワンリスは、他のゲームと違って一度ログインしてから三十分間起動し続けていると、もう一つのログインボーナスを貰えるんだ。イベントがあると、その時にイベント関連のログインボーナスを受け取ることも可能だ。
最近は、夏実が八月十四日に復活参戦するというのもあってか、夏実の復活までの間特別なログインボーナスを受け取れるイベントが始まっているらしい。それと、そんなログインボーナスとは別で夏実の復活記念でありWonderRisk Adventure三周年記念でもあるからか、ゲーム内でチケットを集めて抽選に参加すると実物のグッズが貰えるというイベントも始まっている。ワンリスは、公式があんまり実物のグッズを販売しないらしく、こういう何かしらのイベントの応募によって抽選でしか手に入らないものだからな。そういうのもあるからか、普段は静かなアジア一のサーバーも賑やかになっている。
アジア一のサーバーは常に人が多いけれど、チャットの音が普段よりも頻繁に出てくるし部屋も作っただけですぐ満員になってしまうところから、いつもよりも人が多く、賑やかであることがわかる。とはいえ、チャット欄や、部屋の中に入る人たちの名前等々見ればわかるけれど、ワンリスをプレイしている大抵の人が韓国人や英語圏の人だ。私みたいな日本人はいたとしても、見かけるようなことはあんまりないだろう。
ワンリス、一応このネトゲ版にも私以外の日本人プレイヤーがいるのはわかっている。ワンリスを通じてSNSで知り合った人の中には日本人プレイヤーがいて、その人もネトゲ版ワンリスをやっていると言っていたからね。それでも本当に僅か程度の人数で、やっぱり日本人プレイヤーよりも韓国人や英語圏の人が多いイメージがある。こんなにも素敵な、神ゲーと言っても過言ではないくらい最高のネトゲなのに、どうして日本人プレイヤーの人口は少ないのだろうか。SNSで常にワンリスのことを布教しているけれど、それでもやっぱりワンリスの日本人プレイヤーはあんまり増えない。まだまだ布教し足りない故なんだろうけれども。だとすれば、夏実が復活参戦する前夜イベントがある今の時期を機に、ワンリスプレイヤーを増やすための動画やサイトを作ってみようかな。
そう思いながらも、私はいつも通りキャラ選択画面で蒼を選び、チケット集めも兼ねてダンジョン攻略をしていた。
…やはり、流石は夏実復活参戦前夜イベント。彼女を待つ人が多い故か、チケット集めを目的にダンジョン攻略をするプレイヤーが多い。ラグのせいでもある故か、私が部屋を作ってすぐダンジョン攻略を開始しようとすると誰かが入ってくるので、なんだか一人でプレイするのを阻止されているような感覚がする。まぁ、どうしても一人でプレイしたいってわけじゃないけどもね。最初こそ、チャットするとき英語使わなきゃならないよねって思って怖がっていたけれど、いざ誰かが部屋に入ってきたとき一緒にプレイするとあんまりチャットしない、コミュニケーションなしでダンジョン攻略できるから誰かが来ても来なくてもあんまり変わらないような感じがするんだけれどね。たまに、英語で話しかけてくる人がいるけれど英語はあんまりわからないから、基本的に翻訳機を使って会話しているけれど…まぁ、大体それくらいだね。
ただ、難点があるとすれば…自分のタイミングで退室できないような気がするという感じだろうか。せっかく自分の作った部屋に入ってくれたのだから一緒に遊びたいという気持ちがあるのと、退室すると部屋に入ってくれた人たちに申し訳ない気持ちがあるから、退室したくてもできない。おまけに、ダンジョンクリア後に退室する人はいるものの、それでもすぐ準備OKの状態にする人も何人かいるからなかなか退室できずにいるんだよね。
まぁ、誰かとプレイしてる分他人の操作や、魅せプレイをこの目で見ることができるというのもあるから、飽きるなんてことないけども。…こうやって、ネトゲ廃人になっていくのかな。いや、私の場合は別に上手くもないしスーパープレイ見せられるほどでもないから、廃人と呼べなくはないけども。廃人はゲームのプレイ時間に比例してレベルもプレイスキルも高いに決まっている。どんなにプレイ時間が長くても、学習して上手になろうと思う気は全くない私とは全く違う世界だ。ただ単にゲームを楽しみたいという私なんかとは全く違うに違いない。
となれば、私はネトゲ廃人予備軍だろうか。レベルこそ低く、プレイスキルも下手くそな方であるとは言えど、それでも好きだからずっとゲームをプレイし続けるのだから。完全なネトゲ廃人ではないものの、なる価値があるという意味で予備軍を付けてみた。
…って、もう就職先も決まったんだから今から廃人にも廃人予備軍にもなってたまるものか。就職先がなかったら仕方がないとはいえ来年から社会人なんだ。ワンリスのプレイもほどほどにしておかないといけない。しかし、生憎ワンリスが楽しすぎて晩御飯を食べる時間すら惜しく感じてしまう。さすがに風呂には入るし、学校もあるから睡眠時間も削らないようにしている。朝起きたら弁当も作って朝食も食べるんだけれども、どうしても晩御飯だけは食べずにワンリスをプレイし続けてしまう。去年まではこんなことなかったのになぁ。
単純に、ワンリスが楽しいし、大好きな蒼を操作することができるし、ソシャゲ版では語られていなかったストーリーも日本語ではないものの知ることができるし、自分が操作する蒼がどんどん強くなっていくところを見るともっと続けたくなってくる。何よりも、前の同担からの影響というのもあってネトゲをすることに夢見て、あの時見たワンリスの紹介動画で「ワンダーリスク」というネトゲに恋してしまったのだから。ワンリスで自分が作った部屋に誰かが入ってきて、その人と一緒にプレイしている時はまさにネトゲをしているという感覚になってしまう。部屋を作る時にあえてパスワードを設定して、一人でダンジョン攻略するときの孤立感すらも愛おしく感じてしまう。それが楽しくて楽しくて…その快楽が私を刺激していき、そうして私はワンリスの沼へ落ちていく。
そんなネトゲのワンリスことWonderRisk Adventureに、旧作で活躍していた夏実がやっとこさ参戦することになったのだから、もはや晩御飯を作って食べてる場合じゃないと思ってしまう。私が恋したネトゲに、私がずっと気になって、復活をずっと夢見ていたキャラが復活するなんて奇跡と言っても過言ではないのだから。こうしてちゃいられない、彼女を歓迎できるよういろいろと準備をしなくては。
そうして、全世界のワンリスファンの者と共に彼女の復活を待ちながら、私は部屋に入ってくる人たちと共にダンジョンを攻略していった。夏休みまであと四日…夏休みになったら、きっと今よりも長いプレイ時間を記録するんだろうな。
七月二十九日の午後十二時。学校での授業が終わり、ようやく夏休みとなった。周りが何をするかなんて関係ない、私は授業が終わってすぐに家に帰り、パソコンを立ち上げてワンリスを起動した。
授業が午前だけだったというのもあったからか、いつもより疲れを感じない。時間もいつもよりたくさんある。そして何よりも、今日からしばらくの間ワンリスやりまくる毎日を過ごせるんだ。エアコンがあるから暑さを感じずにワンリスをずっとプレイできることに感謝しよう。私は昼ご飯を食べることを忘れ、いつも通りキャラ一覧画面で蒼を選んではチケット集めも兼ねたダンジョン攻略をする準備をした。グッズの抽選はどうせ当たらないだろうけれども、もし当たったら、夏実のキーホルダーを入手することができる。ずっと気になっていたキャラのグッズが欲しいから、希望がなくとも参加してしまう。…これじゃあ、ネトゲ廃人予備軍ならぬワンリス廃人予備軍かな?
相変わらず私の入るアジア一サーバーはとても賑やかだ。私が部屋を作るとすぐ部屋が満員になってしまう。私の作った部屋に入った人の中に日本人がいたらなぁと思う時が稀にあるけれど、日本での認知度や日本語が非対応であるところを見てしまうと、どうしてもそんなわけがないと否定してしまう。まぁでも、プレイしている人が世界中にいるだけでありがたいことだから、みんなが他のゲームのところへ行ったりWonderRisk Adventureがサ終したりしない限りは今のこの時間を楽しんでいよう。そうしてルームリーダーである私は、部屋に入ってきたみんなが準備OKであることを確認して開始ボタンを押しダンジョン攻略へ向かった。
部屋に入ってくる人たちはみんな強くて上手で、レベルも高くて見るだけでも憧れる。そんな人たちの足手まといにならないよう頑張らなきゃと思いながら敵を倒しているんだけれど、この人たちはきっと、PvPでも強いんだろうなぁとも思ってしまう。こんなにも上手な人たちと対戦したらきっと…いや、絶対に負けてしまうだろうね。とは言え、このゲームはキャラごとにレベルが分けられている。新しくキャラを使うとそのキャラはレベル一の状態からのスタートとなるのだから、夏実が復活参戦する八月十四日には実質的みんな同時期からのスタートとなる。プレイが上手なガチガチの廃人と、のんびりやるエンジョイ勢と、時間を惜しまず楽しむためだけに廃人の如くプレイする廃人予備軍との差はそこから大きく開くだろう。この部屋でダンジョン攻略をする上手なプレイヤーたちも、廃人もエンジョイ勢も皆、夏実を使うんだろうなぁ。
なんてことを思いながらダンジョン攻略をしていたらボスが倒れ、攻略完了。部屋の画面へ遷移すると、さっきまで一緒にダンジョン攻略していたみんながいなくなっては、また新たに何人かが部屋の中へ入って、部屋内の人たちと共にダンジョン攻略をしていく。ほぼ永遠に繰り返されるこの瞬間がとても楽しい。この瞬間をずっと楽しめるのは実質夏休みの間だけ。悔いの残らないよう、精一杯楽しまなきゃね。
そうして私は、毎日の時間をほぼワンリスに費やし、常に誰かと共にダンジョン攻略を進めていって早くも八月十四日。私の蒼がだいぶレベリングされた頃にメンテナンスの時間が始まった。このメンテナンスが、夏実を復活参戦させるためのものだと思うと待ちきれなくて、時間が長く感じる。それでもまぁ、待つことしかできないか。私はベッドの上で横になってそっと目を閉じた。どうせ目が覚めた頃にはメンテナンスが終わっている。その間寝ていよう。
それにしても、ついにこの日がやってきたか。実は少し前に、彼女を操作しているワンリスのプレイ動画を見たことがあるけれど、すっごく強そうだったなぁ。なんてったって、彼女の必殺技には全体攻撃がある。全体攻撃なんて、ダンジョンでの攻略となったら絶対強いに違いない。基本的にPvPをしない私からすればありがたい存在だよ、全体攻撃の必殺技なんて。
あんなに幼くて可愛らしい見た目で、どこか神々しい精霊を司って戦ったりするし、そんな彼女が使う技がいかにも強そうな技だし…なんだか、ギャップを感じるな。設定的には、あの精霊が暴走する時があるってのがあるけれど、もしも暴走するなんてことがなかったら、どれほど強いキャラになってたんだろうな…そんな夏実が、このメンテナンスが終わった瞬間に復活参戦して使えるようになるなんて。返り咲く花を見ることができるなんて。今からでも本当に楽しみで楽しみで仕方がなかった。
2024/10/17 追記
なんか誤字ってたことに気付いたので、修正しました。