第6話 復活参戦告知
先月も休みが多くてあんまり執筆できなかったのですが、ようやく完成できました。新作です!
今回、ぱにょフェスで出す予定のネトゲ廃人予備軍の本は、この回までにしようかと思っているところです。いわゆるこの回までが第1章的なものですね
ワンダーリスクで参戦していたキャラ、夏実の存在を知ってから少し経った頃。私はWonderRisk Adventureの公式アカウントが数か月前に投稿した、たった一枚の、一見何の変哲もない画像に気付いてしまった。
ピンク色が基調の、俗にいうゆめかわな背景に、赤い花と黒い影のようなものが描かれている。誰かのシルエットのように見えるその影は、赤い花に手を伸ばしているだけのように見え、誰が手を伸ばしているのかわからない状態だ。
最初、この画像を見た時は何なのかよくわからなくて謎に感じていた。けれど、夏実の存在を知った今、よく見てみるとどこか夏実と関連しそうな雰囲気をしているように感じる。実際、SNS上で夏実が復活するんじゃないかって、コメントやタイムラインなどで騒がれている。まぁ、公式でもない一般アカウントの人がこの画像を投稿するならまだしも、公式アカウントが投稿しているのだから騒ぐのも仕方がない。
しかし、夏実には盗用疑惑がある。著作権上の問題でサービス終了後以降一度も出られなかったのではとささやかれていたのだから、もし仮に彼女が復活するってなったとしたらこの問題はどうなったのか気になるところだ。とはいえ、やっぱりファンのみんなはあの子の復活を望んでいる。彼女もワンリスのキャラの一人だ。きっと他のワンリスキャラと同じように、彼女もファンのみんなに愛されていたキャラだから当然だろう。
正直に言って、私も夏実のことを知って以来は彼女の復活を願っている。だって、彼女のことがとても気になるんだもの。どんな感じで攻撃するのか、彼女の必殺技がどんなものなのか…まぁ、そこは検索すればわかるだろうけれどね。そんなことを思いながら、私は今日もWonderRisk Adventureを起動し、大好きな蒼を操作してレベリングしながらPvEをした。
あれから私は、大好きな蒼のことよりも復活を匂わせている夏実のことばかり考えている気がする。学校にいる間も、登下校している間も、買い物に行ってる間も、蒼じゃなくて夏実のことを考えている。なんてったって、彼女は蒼と違って今はまだ操作することのできない操作キャラだ。歴代のゲムオルで言うところの、リストラキャラだろう。
私は、こういう今はもう触れることのできない作品やキャラが好きだし、その作品やキャラが復活したことを知ればやろうと思いたくなる。そういうのもあるから私はWonderRisk Adventureが好きになって、日本人プレイヤーがいない中プレイし始めたんだし、きっと夏実のことが気になるのもそのせいなんだろう。どんな子なんだろうな。どんな声なのかな。どんな性能、どんな動き、どんな性格…あぁ、気になりすぎて何もかも集中できない。まだまだ就活で忙しいというのに…
そんな花雲夏実に対する気持ちが高まる中、私は家に遊びに来た咲の話をひたすら聞いていた。私と同じく、去年から一人暮らしを始めた咲だけれど陽キャギャルの割には、今のところこの街に来てからは私と咲が今まで付き合った以外の家に行ったことがないらしい。そういやこの子、一昨年まで人見知りだったわ。…こうやって見ると、この子は進学してからずいぶんと変わったなぁ。そう思いながら、私は咲が最近お付き合いを始めた彼氏との惚気話を聞いている。カプ厨でもある私にとって咲の惚気話はありがたい。それもそうだし、何にせよこの子が去年まで付き合ってた彼氏が最低なクズ男だったというのもあるから、今は幸せそうで安心している。
とは言えこの子、彼氏との出会いがマッチングアプリらしい。前の彼氏もマッチングアプリでの出会いだったらしいから、私としては少し警戒心を持っている。今は優しいふりをしているだけで、本音としては何かしらよくないこと企んでいるかもしれないからね。そもそもマッチングアプリを利用しているだけでそう思ってしまうのだから、彼女がマッチングアプリを使って恋人探ししているところに尊敬してしまう。さすがは陽キャギャルといったところだろうか。
咲の話を聞いていた時、私のスマホが突然鳴り始めた。この電話番号は、確かこの前受けた企業の電話番号だ。何かあったのかな。私は咲に謝ってからスマホに手を伸ばし電話に出てみた。
「もしもし、鴾羽ハシルです」
「あ、もしもし。株式会社カオスイルカの採用担当の山手です。鴾羽ハシルさん、三時間前にメールを送信したのですが…確認しましたか?」
「いいえ、まだ見ていないのですが…」
そもそも、家に来た咲と話していてスマホ見る暇すらなかったから、確認することが全くできなかった。でもきっと、こうして電話で確認しに来たということは、何かあるに違いない。
「なんと、嬉しいお知らせです…!」
山手さんの言葉を聞いて、私は唾をのんだ。うれしい知らせ…もしかして…?
「まず初めに、この度は弊社採用選考にご参加いただきありがとうございました。鴾羽ハシルさん、先日の面接結果ですが…私たちの判断の結果、弊社にお迎えしたいと思い合格とさせていただきます。」
「…! やったああああああああっ!!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の部屋に歓喜の叫び声が響き渡った。
やっとこさ内々定を貰うことができた私。昨日はそのお祝いとして咲がおいしい物奢ってくれたのもあって久しぶりに嬉しさに浸っている。今までは合格こそ貰ったものの内々定までには行けなかったからなぁ。周りは内々定貰っている中、私や咲だけ貰っていなくてさすがの私も社会腐適合者なんじゃないかなって思ったけれど…そうでもなかったみたいで、本当によかった…!
採用担当者さんや面接官たちは、私みたいな素直な人が欲しかった、私なら会社で輝けそうと思い採用したらしい。どちらにせよ、無事に内々定を貰えたのだからそんなことはどうでもよかった。貰えなかったらワンリス廃人配信者として生活しようかと思ってたところだよ。まぁ配信者になったところでワンリスは日本じゃ言うほど有名じゃないからな、稼ぐことができずに死んでしまうだろうけれども。
そんなこんなで、内々定を貰った次の日。今日は買い物をしてから学校へ帰る予定だったので帰宅時間が遅くなった。一人暮らしとなると家事も買い物も全部私がやらなきゃいけないから、ワンリスやりたくてもできないんだよね。さて、無事に帰宅したし買ったものを冷蔵庫に入れたり何なりしてワンリスやりますか。
その前に、まずはSNSで何か情報がないか確認しよう。ちょうど、新情報が来そうな周期だから何かあるかもなぁ。そう思い、私はスマホでSNSを開いてみた。SNSのタイムラインに流れていたもの。それは…
「We are excited to announce that Natsumi Hanagumo returns to WonderRisk on August 14th!」
そんな公式アカウントの投稿には私がワンリスの海外ウィキで散々見た黒髪で、ピンクのワンピースに赤いリボンが特徴的なかわいらしい少女の画像があった。花雲夏実の画像だ。投稿内容を翻訳してみると…
「八月十四日に花雲夏実がWonderRiskに戻ってくることをお知らせします!」
八月…十四日。花雲夏実が、戻ってくる……これって、つまり復活することはないと言われていたあの夏実が、復活参戦するってことだよね。え、まさか。嘘でしょ…いや、でも今日は七月二十四日。エイプリルフールでも何でもない日だから、そんな日に限って嘘をつくなんてことないはず。だとしたらこれって、本当ということになるよね?!
投稿内に書かれてるリンクを、恐る恐る押してみると、夏実の復活参戦のためだけに作られたかのようなWonderRisk Adventureの公式サイトに飛んだ。花雲夏実の画像が大きく表示され、Natsumi Hanagumoという文字列も表示されている。あぁ、間違いない。私が海外のウィキで散々見た少女の姿だ。
「きゃああああああああああああっ?!」
思わず声に出して叫んでしまった。でも、声に出して叫んでも仕方がないよね。だって復活を待ちわびていたのだから。夏実の夢女子ではないけれど、それでもずっとずっと気になっていたのだから。きっと、他のプレイヤーたちも夏実の復活参戦を待ちわびていたはず。
あぁ、そっか。やっと夏実が使えるようになるのか。夏実の動きもついにこの目でちゃんと見れるようになるのね。夏実の声も、韓国語版か英語版かポルトガル語版かに限られるけれど、ついにこの耳で聞くことができるようになるのね。
内々定通知が貰ったかとおもいきや、ワンリスで夏実が奇跡の復活参戦…どちらも私にとって可能性が低かったものなんだけれど、こんなことがあっていいのだろうか。なんだか不思議なくらい、うれしいことが二日連続で続くなんて思いもしなかった。
確か、夏実が復活参戦するのは八月十四日だったか。その日はちょうど夏休み中。誰にも、何にも邪魔されずに彼女を操作することができるわけだ。夏実が復活参戦する、八月十四日が楽しみだな。いや、正確には、八月十四日のメンテナンスが終わった後だろうか。とにかく、その日まで楽しみに待ちながらワンリスをプレイしていこう。
そう思い、私は今日もパソコンの電源を入れてWonderRisk Adventureを起動した。この、操作するキャラクター一覧画面にいつか夏実が入るんだなと思うとわくわくが止まらない。蒼以外のキャラは全く使っていないし、蒼の夢女子だからというのもあるからか、使う予定もあんまりない。それでもきっと、八月十四日には夏実を使うようになって、今の蒼のレベルと同じくらいになるだろうな。使いやすさはわからないけれど、でも夏実を操作できるようになったら、絶対に使ってやる。そう決めたんだ。楽しみだな…