第11話 ライバルは廃人VTuber
11話です。タイトルがもうネタバレしてますが…まぁまぁまぁw
──VTuber。それは、人が顔を出さず外見だけ二次元のキャラとして活動することができるアイドルのような存在。もちろん、個人情報は出さす、キャラ名という名の匿名で活動することができる…簡単にいえば、仮面を被って偽名を名乗ってはネット上で活動できるようなものと言ったところだろうか。確か、私が中学生の頃から突然流行り始めた文化の一つともいえるかな?
私は、そんなVTuberという文化に興味なんてない。ネットを見れば、人気になればなるほど変なアンチが目立っているし、VTuber好きなだけで変な言われ方をされているし…そこを除いても、最近ではある超人気なVTuberが問題を起こして、誹謗中傷までしたせいで個人的なVTuberへのイメージは基本的によくないイメージだったりする。
とはいえ、それはほんの一部だ。問題を起こした超人気VTuberと言っても、それは事務所に所属しているVTuber、あるいは元事務所所属VTuberが多い。それにくらべれば最初から最後まで事務所に所属しない、いわゆる個人勢VTuberはあまり話題に上がったりしない故か、変なアンチも変な問題を起こしてるような人も見たことがない。まぁ、個人勢とはいえ有名なVTuberなら話は別になるかもだろうけれど…もしも私がVTuber好きになるなら、個人勢VTuber好きになったりするんじゃないかな。あるいは、ワンリスをプレイするVTuberか。まぁ、どうせワンリスをプレイするようなVTuberなんて誰もいないだろうけれど。いたらきっと、話題にもなっているはずだろうしね。
VTuberと自称する美鴇さんとフレンドになる前までは、そう思いながらもワンリスをプレイしていた…。
美鴇さんと一緒にPvEをする毎日は、普段と違ってとても楽しい。普段は一人でプレイするのが多く、誰かとプレイするといってもほとんどが海外の人故にチャットはあんまりしないから、そんな日々とは違った、非日常的な体験をしているような気分だ。美鴇さんは最近始めたばかりらしいけれど、プレイが私よりとても上手で初心者とは思えないくらい…
美鴇さんがどれだけワンリスをやっているのか、気になった私は美鴇さんのチャンネルを覗いてみることにした。説明文を見る限り個人勢VTuberらしいが登録者数はかなり多い。有名な個人勢VTuberだろう。チャンネル内の動画はVTuberらしく配信のアーカイブばかりだが、動画もきちんとある。自己紹介用動画とか、企画動画とか、歌ってみたとかもある…正直言って、それらはどうでもいい。気になるのは、美鴇さんがどれだけワンリスをやっているかである。
配信のアーカイブ一覧を見てみると、最近の配信のほとんどがワンリスのプレイ配信になっている。しかも時間は長く、最長で十時間の配信もあった。美鴇さんって…いわゆる耐久配信みたいなものでもやっているのか?
十時間以上もワンリスのプレイ配信してるなんて、疲れないだろうか。そう思いながら、私は彼女のワンリスプレイ配信のアーカイブを、初回から視聴してみた。
ゲーム画面の隣にいる少女らしきキャラが、美鴇さんだろうか。いかにもVTuberらしい感じだ。
「こんときー! 紅鶴美鴇でーす! 今日は、告知などで前々から言ってた、ワンダーリスクっていうゲームをやっていきま~す」
VTuberらしいような、個性的な挨拶。少女らしきキャラが笑いながら、どこかで聞いたことあるような声でワンリスをこれからプレイすることを話している。不思議なことに、その声は子供のころから聞いてた声と似ていたような声だった。…他人の空似みたいなものだろうか。そんなことを思いながらも、私は彼女のワンリスプレイ配信をぼーっと眺めていた。
やはり始めたばかりの配信故か、最近見た美鴇さんのプレイと全然違う感じ。いかにも初心者って感じの操作でキャラを操作していた。彼女が配信で使っているのは…花雲夏実、復活参戦したばかりのキャラだ。けれどもプレイしていくうちに、彼女の操作がだんだんと上手になっているのがわかる。少し経った頃には今の私と同じくらいの操作になったかな。さらには、私ができない特殊動作の下Zも、いつの間にかできるようになって使いこなしている…
サンマイな私と違って、美鴇さんはすごいな…元からゲームが上手いのか、それともワンリスの才能があるからなのかわからないけれど…それでも、こんな短期間でそこまで成長するなんてすごいな。初回のワンリス配信のアーカイブを見終えたころには、私は次から次へと彼女のワンリス配信のアーカイブを見ていた。アーカイブを見るたびに、彼女のプレイさばきが上手くなって魅了されてしまう…
ふと、美鴇さんが普段どんなことをしているのか気になって、私は美鴇さんのSNSアカウントを覗いてみることにした。彼女のここ最近の投稿は…
「今日は22時から~ワンリス実況! 知り合いの友達がやってたらしくて、気になってたからやってみるよー!」
「今日もワンリス配信! このゲーム楽しくてハマっちゃうね~。今日は桃子ちゃんの転職ミッションをやってくよ~」
「配信おつときー! ワンリス楽しすぎて気が付いたら十時間もやっちゃってた! みんなこんな時間まで見てくれてありがとう~!」
最近の投稿は、どれもワンリスに関する内容ばかりだった。…というか、ワンリス以外の内容が見えないような。私はしばらく、美鴇さんのことを見るようになった。
ある日の紅鶴美鴇のワンリス実況配信日。この日から初めて美鴇さんの配信をリアタイ視聴することになったのだが、予定時刻を過ぎても配信が全く開始されておらず、チャット欄も彼女を待機しているコメントであふれていた。
「あれ、今日配信あったはずだよね」
「予定時刻から三時間も過ぎてるんだけど?!」
「またワンリスに夢中になって忘れてるか?w」
「美鴇ちゃ、最近大遅刻が多いね」
チャット欄を見る限り、最近の美鴇さんは予定時刻を過ぎて数時間後に配信開始してるのが多いらしい。そういう時に限っていつもワンリスに夢中になってたという言い訳をしているらしいが…そう思っていたその時、SNSアプリから通知が来た。美鴇さんの投稿が通知で表示されていたので、開いてみると…その投稿は、数枚の画像と共に表示された。
「このダンジョン、相変わらず難しすぎる! でもようやく夢実ちゃんでこのダンジョンのクエ全部攻略できたよ~」
画像は、ワンリスのもう二人目の主人公である弓矢使いの少年「夜神聖矢」の姉である踊り子の少女「夜神夢実」。この子、練習モードで使ったことあるけれどコマンドが多くて使いづらかったんだよね。そんなキャラを、難しいダンジョン攻略で使っていたなんてすごいな…。そんな中、美鴇さんへのリプライにはいろんなコメントが添えられていた。
「やっぱワンリスやってたんかww」
「配信時間過ぎてるのに何のんきにワンリスやってるんだよ…」
「流石はワンリス廃人!」
「配信忘れてワンリスやってたかぁ」
配信を待つリスナーたちのコメントで気付いたのか、美鴇さんが突如配信を始めた。配信画面はワンリスの画面が表示され、右下に美鴇さんがいる状態になっている。なんとも言えない声色で、美鴇さんが謝罪をし始めた。
「ごめんね~みんな。またワンリスに夢中になって配信忘れちゃったよ。いやぁ、ほんっと、ワンリス楽しすぎてすぐ時間過ぎちゃうね。そんなわけで、こんときー! 紅鶴美鴇です。今日もワンリス配信、はっじまっるよ~!」
まるで何もなかったかのように、美鴇さんは配信を始めた。私は、そんな美鴇さんの配信を見て、コメントしながらワンリスをプレイしていた。美鴇さんの操作はとても上手だな、と思いつつコメントをしつつ、経験値稼ぎとキャラ強化用クエ攻略のためのダンジョン攻略をしていた。美鴇さんはと言うと、どんどん別キャラを使って全ダンジョン攻略をしようとしているらしい。今日の配信では、さっきまで使っていたであろう夢実を使ってのダンジョン攻略だ。
「ふ~、夢実ちゃんの転職ミッション難しいな~。そもそも夢実ちゃん自体操作が難しいから仕方がないだろうけど。でもやりがいを感じるから楽しい~」
難しさを感じてもなお楽しさを感じている…まさにゲーマーの鑑だ。楽しさ故か配信を忘れてワンリスに夢中になっていた美鴇さん、操作もうまいし…もしかしたら美鴇さん、廃人なのかもしれない。そういやSNSで投稿したやつについたリプには、彼女を廃人と呼ぶようなものもあった気がする。
ふとした瞬間、何故か私の心の中で闘争心が湧いてきた。
どうしてだろう。
私も、美鴇さんみたいにワンリスをずっとプレイするような人になりたい。美鴇さんに負けていられない。そして、美鴇さんとpvpで戦って、勝ちたい。そんな想いがあふれ出しそうな気がした。もしかしたら、私は美鴇さんをライバルだと思ってしまったのかもしれない。
…美鴇さんはゲームが上手。だからこそ、美鴇さんみたいに上手になりたい。そして、美鴇さんと戦って勝って……美鴇さんみたいな、廃人になりたい。燃えるライバル心。私は、今ここで心から誓った。
「紅鶴美鴇さん…私は必ず、あなたに勝つ」
ー解説ー
サンマイ・・・韓国語で「取るに足らない三流のもの」という意味の「쌈마이」から。そもそも主人公のハシルという名前の由来は、ある漢字をハングル表記にした結果出た名前なので、ハングルつながりで…ね(




