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2 聖女の仕事の実情

 聖女の中でも一番魔力量が多く、光魔法を上手く使える者を、一般的に筆頭聖女と呼ぶ。


 現在の筆頭聖女は、私である……らしい。

 いや、先程聖女を解任されたばかりだから、元筆頭聖女と言うべきか。


 基本的には、身分の高いほど多くの魔力を持って生まれると言われており、平民は魔力を持たない者が多い。

 だから、私以外の聖女は皆、貴族令嬢ばかりである。

 私の様に、平民が光属性を持ち、しかも魔力量も多いというのは、非常に珍しいケースなのだ。


 そんな事情もあって、元孤児の私が筆頭聖女に任命される事は、他の聖女達からの大きな反発を呼んだ。

 しかも、憧れの(?)王太子の婚約者の地位まで手にしたのだから、彼女達の不満はとうとう爆発した。


 そして聖女達は、ある日突然、仕事をボイコットするようになったのだ。


 そう。勤めをサボった聖女達に、仕事を押し付けられているのは、私の方だ。




 聖女の主な仕事は、大聖堂の地下に設置されている魔道具に、光の魔力を充填する事。

 これによって、国全体をドーム型に覆っている、魔獣などが国内に入り込まない様にする為の結界を維持している。

 光魔法を使えば、魔道具がなくとも結界を張る事は可能だが、国全体を覆う程の物を安定的に維持する為に、先人達が開発したシステムなのだ。


 また、救いを求めて教会を訪れる病人や怪我人に対して、治癒魔法を施す事も聖女の大切な仕事である。

 これは表向きは慈善事業だが、その実態は教会の資金集めの為だ。



 本来ならば、現役聖女が交代で行うべきそれらの仕事を、私一人で行なっている。

 もう何年も前から。



 歴代最高とも言われる私の魔力量を以ってしても、十三人分の聖女の仕事を一手に担うのは、なかなかキツい物がある。

 実際、アルフォンス殿下が言った通り、一部の結界には綻びが出て来ているのも事実だ。

 決して私が悪い訳では無いと思うけれど。


 そんな風に、寝る間も惜しんで仕事をしていた私に、身なりを気遣う余裕などある訳がない。

 食事さえも取れない時があるのだから、ガリガリに痩せ細っているのだって当然だろう。


 見窄らしい? 王太子の婚約者に相応しく無い? ふざけんなっっ!!

 文句を言うなら、他の聖女の怠慢を放置している教会に言え!!



 たった一人で国全体の結界を維持しつつ、教会に多額の献金をした貴族達に治癒をかける日々はとても過酷で、そろそろ私の体力も限界が近付いていた。


 しかも、治癒を求めてやってくる貴族達の症状の多くは、ニキビやら水虫やら筋肉痛やらの、命に関わらないくだらない物ばかり。

 魔法なんか使わなくても、薬で簡単に治るだろうが! と、何度叫びたくなった事か。


 教会は献金の金額で、治癒魔法を受けさせるかどうかを決めている。

 だから、切実に治癒魔法が必要な病を患っていたとしても、経済力の無い平民達は治癒が受けられないのだ。


 こんな腐った教会や国の為に、我が身を削って働くなんて、いい加減うんざりしていた。



 そもそも、この婚約は、私を国外に出さない為の鎖だった。


 二十年ほど前までは、『光属性を持つ者は、出国してはならない』という法律があったらしいのだが、同盟国などから『聖女の人権を無視している』と批判をされた事を切っ掛けに、その法律は廃止された。

 その代わりに、魔力量の多い聖女を、王族や高位貴族に嫁がせる様になったのだ。

 貴重な聖女の力を、他国に流出させない為の苦肉の策である。


 孤児だった私は、シャヴァリエ辺境伯の養女になる事で貴族籍を取得し、アルフォンス殿下の婚約者となった。

 彼は私の様な出自の女を妻にする事が不満だったらしく、初めての顔合わせから三ヶ月も経たない内に冷たい態度を取る様になった。

 それでも公の場では一応は体面を保っていたのだが、私の悪評が流れ始めると夜会のエスコートさえされなくなった。



 義実家であるシャヴァリエ家の皆さんはアルフォンス殿下と違って、小汚い孤児だった私を温かく迎え入れてくれた愛情深い人達だ。

 何も知らない私に淑女教育を施し、貴族社会の常識を一つ一つ丁寧に教えてくれた。

 本当の家族の様に、接してくれた。


(そんな良い人達なのに、私を引き取ったせいで、義実家に悪評が立ってしまったら申し訳ないなぁ……)


 チクリと良心が痛むけれど、それに関しては私の力ではどうする事も出来ない。




 いつまでも落ち込んでいても仕方がない。

 とにかく、王太子の許可が出たのだから、今の内にサッサと荷物を纏めて王宮を出よう。

 王宮内に与えられた私室を片付け、必要な物だけをトランクに詰め込む。



 さて、王宮を出た後は、どうしようか?

 他国に逃げたい所だけど、私が居なくなったら、この国が崩壊してしまうだろうか?

 朝晩の祈りもサボっている他の聖女達の力は、以前よりも衰えているかも知れない。

 まあ、十二人も残っているのだから、なんとかなるかしら?


 お世話になったシャヴァリエ家の領地だけは、なんとか護ってあげたいんだけど……。

 流石に私でも、遠く離れた場所から結界を張るのは難しいと思う。

 隣国の国境付近の街からならば、可能だろうか?

 国境付近では、王家の手の者にすぐに見つかって、連れ戻されちゃうかな?


 まあ、その辺の事は追々考えれば良いか。




 よし! 明るい未来に向けて出発!!


 ポンコツ王太子も、たまには役に立つ事があるのね。

 婚約破棄、バンザイ!!!



 ───なんて、呑気に思っていたのだが。



「ミシェル・シャヴァリエ嬢、お待ちください」


「へ?」


 小さなトランクを一つだけ抱えた私は、城門を護る屈強な騎士達に、あっさりと行く手を阻まれてしまった。


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