13 その頃、王都では
それは突如として始まった。
王都の空からキラキラと輝く光の粒が、無数に降り注いだのだ。
光は地面に落ちる前に空中で消えた。
夢の様に美しい不思議な光景に、人々は呆然と空を見上げた。
その光の粒が、砕け散った結界の欠片だという事は、すぐに判明した。
三メートルくらいの鳥型の魔獣が一羽、王都内に飛来したからだ。
華やいでいた王都の街は、一瞬にして地獄絵図と化した。
街を巡回していた騎士達が、すぐさま対応に当たったが、全く歯が立たない。
知らせを受けた国王は、王宮騎士団を派遣した。
大勢の騎士が一斉に攻撃を仕掛ける事で、何とか魔獣を倒したものの、元々討伐経験など無い騎士ばかりなので、かなりの苦戦を強いられた。
群れで行動しないタイプの魔獣だった事が、唯一の救いである。
多くの怪我人が出て、現場は大混乱。
建物などの被害も大きかった。
後処理を任された王太子のアルフォンスは、十二人の聖女を従えて、意気揚々と現場に向かった。
聖女全員の治癒魔法を以ってすれば、混乱を収める事など簡単だと高を括っていたのだ。
そもそも、その聖女達が維持しているはずの結界が崩れ始めているのだが……、彼はまだ、その事に考えが至っていない。
現場は思った以上に酷い有り様だった。
死者こそ出なかったものの、重傷を負った騎士や市民は百人を超えた。
軽傷者も含めたら、その倍である。
「すぐに治癒をかけろ!! 傷が深い者を優先的に!!」
「「「「はいっっ!!」」」」
アルフォンスの指示に聖女達も真剣な顔で頷く。
だが、怪我人の半数も治癒出来ない内に、聖女達の魔力は尽きてしまった。
「ダ、ダメです、アルフォンス様……。
怪我人が、多過ぎて……わ、わたくしは、もう……」
アルフォンスと婚約し、新たな筆頭聖女となったステファニーは、その美しい顔を苦しそうに歪めて崩れ落ちた。
「何故だ? 何故、こんな事に…」
青褪めたアルフォンスの呟きは、現場に響き渡る泣き声や怒号に掻き消された。
その問いに答える者は、誰もいない。
アルフォンスとミシェルの婚約が正式に決定したのは、彼女がシャヴァリエ家での淑女教育を終えて、王都に出てきた頃だった。
幼い頃からミシェルはかなりの魔力量を持っていた為、国王は彼女を囲い込んで置きたいと考えていたのだ。
出会った頃のミシェルは、平民にしてはそこそこ可愛らしい少女で、アルフォンスも、
『まあ、政略結婚だし、こんなもんか』と、さして不満も感じていなかった。
だが、周囲は違ったようで───。
「元孤児の癖に王太子殿下の婚約者に納まるだなんて、図々しい女ですね」
「高貴な王家の血に、平民の血が混ざるだなんて、我慢ならん」
「アルフォンス殿下には、もっと華やかで美しい女性がお似合いなのに」
そんな声を聞かされる度に、『成る程、それもそうだな』と思うようになっていった。
臣下の言葉に耳を傾けろという教えを、間違った方向で実践していたのだ。
その上ミシェルは、いつの頃からか婚約者同士の交流や、一緒に参加する予定の社交をキャンセルする事が増えた。
「申し訳ありません。聖女の仕事が忙しくて……」
そんな風に言い訳をしていたが、それは嘘に違いない。
だって他の聖女達は皆、頻繁に夜会や茶会に参加しているのだから。
それに、たまに会う事が出来ても、他の令嬢達と違って豪華なドレスを着て来る訳でも無く、化粧やヘアメイクも最小限。
『少しでも美しく見せよう』という努力の跡が全く感じられない。
(王太子の婚約者としての自覚があるのだろうか?)
もしかしたら彼女は、自分との婚約に不満を感じているのかもしれない。
そう考えると、見下されているみたいな気がして腹が立った。
『平民の癖に』『孤児の癖に』という思いがアルフォンスの根底にあったので、余計に我慢ならなかったのだ。
「父上っっ!!最近のミシェルの態度は目に余ります。
どうか、婚約を破棄させて下さいっ!」
「何を言っておる?
今やミシェルは、筆頭聖女だ。
この国にとって、非常に重要な人物となったのだぞ。
婚約破棄など、出来るわけがなかろう」
婚約破棄を申し出るも、父王に一蹴され、アルフォンスは考えた。
(そうか……、筆頭聖女。
ミシェルは婚約が嫌だった訳では無く、婚約破棄されないという確信があったから、あんな不誠実な態度を取り続けているのだな)
ミシェルの事情を明後日の方向に解釈したアルフォンスは、益々彼女への不信感を募らせた。
───そして、ステファニーの告発を信じた彼は、あの夜会での事件を起こしたのだ。
だが、アルフォンスは自分の愚行に少しずつ気付き始めていた。




