三 無言から少しずつ
セイが普段通りに動ける様になった頃。ちなみに、あの超丈夫な草狐では無いので決して一ヵ月後の話では無い。あの者は病院では無く、用意された自分の部屋に移された。そして、歩ける程度には回復したのだが……。
「おはよう」
「……」
誰が何を言おうと、目を逸らして口を開かなかった。
「そんなに話さないでいると、口の中が腐ってしまいますよ」
とコナが言っても、何も話さない。
「あいつは『別に体は普通だよ?精神的なものじゃない?』とか言ってたんだけどな……」
あいつとは、言わずもがな医者の事である。
「あさごはんたべよー」
ドラセナがその者の腕を引いた。その者は左足を若干引き摺りながら付いて行った。
「……別に嫌われてたり警戒されてたりしてる感じはしないんだけどな」
食卓は既に準備されていた。リーダーが全員来るのを待っていた。ちなみに、リーダーが作ったものである。
「わーい!」
「……」
「ありがとうございます」
「サンキュー、リーダー」
各々が食べている中、セイはその者に話しかける。
「お前って戦えるか?」
その者はコテンと首を傾げる。
「ねぇ」
「どうした?ドラセナ」
「このひとことばわかってるのかな?」
三人は固まった。
「……教えるか?」
「それが良いだろう」
セイはりんごを指して
「『りんご』だ」
と言った。その者はこくこく頷く。
「もっと実用的なものを教えたらどうですか?」
「……確かに」
「こんなのあるよー」
ドラセナはアヒルの絵と共に言葉が覚えられるという本を持って来た。
「これだ!」
「自分で連れて来たという事は、最後まで責任を取るという事ですよね?セイ」
「……はい」
そうして、セイの生まれて初めての教育が始まった。あーだこーだ教えて行くのだが、一発で覚えてしまう。寝る時間になる頃には、幼稚園児レベルの語彙は身についていた。
「スッゲーな、お前。明日にはもっと賢くなってるだろうな」
セイは頭を撫でる。
「でも、今日はもう寝るか。おやすみ」
しかし、その者はセイのシャツを掴んで離さなかった。
「どうしたんだ?」
「ね…る」
「?」
「ふ、ふ…た…り」
「いっしょにねたいっていってるんだよー」
ドラセナが通りすがりにそう言った。
「そう……なのか?」
コクコクと頷いた。
「分かった。俺の方にするか」
そのまま、二人は穏やかな夜を過ごしたのだった。
翌朝、セイはペチペチと頬を叩かれていた。
「ん……なんだ?」
見ると、その者がしていた。
「ああ、起こしてくれたのか。ありがとな」
セイは頭を撫でた。