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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

警告:この国にはもう聖女は生まれません

作者: 高月水都

ざまぁを超えた何か。

「ライア!! そなたは聖女でありながら国に恩寵を与えず、聖女として役目を放棄している。よって、処刑する」

 王太子の婚約者であり、聖女であるライアが夜会に久しぶりに参加した矢先にそんなことを婚約者である王太子に叫ばれた。


 その王太子の傍には一人の女性。確か……ドルイド侯爵令嬢だったような……。って、そうではなく。

「お待ちください!! わたしは聖女の役目を放棄しておりませんっ!!」

「なら、なぜ、ここ近年凶作が続いているのだ」

「それは」

「黙れっ!!」

 説明しようとしたら遮られる。


「言い訳は結構だ。聖女の名を騙り、血税を無駄にしたことを悔やめ」

 その言葉と同時に兵士が入り込んできてライアを捕らえる。


 必死に抵抗するライアの視線にはそのライアの様を面白そうに眺めている人たちばかりで、誰一人ライアの境遇に心を痛めていたり、助けたいと思っている人が居ないことが見て取れた。権力に屈したわけでもなく、ライアの状況を当然だと思っているのが見て取れる。


「っ!!」

 私が何をしたというのだろう。聖女だと言われて貧しいが子だくさんな温かな家族と引き離されて神殿で暮らし、聖女は王太子の婚約者になるのだという決まりで王太子妃としてのマナーを学び、聖女の仕事もやるようにと言われてへとへとになって行い、質素倹約が聖女だと言われて食事も田舎の農民であったころよりも少ない量で……。


『無理しないでください。ライアさま』

 そう案じてくれた見習い神官の声を思い出す。彼がここに居たら助けてくれただろうか。いや、無理だろう彼は見習いだ一緒に捕らえられてもっとひどい目に合わされるのがオチだ。

 彼がいなくてよかった。それだけが救いだ。


 ――もう疲れた。


「――警告:この国にはもう聖女は生まれません」

 喉が勝手に言葉を紡ぐ、この感覚は覚えている。聖女になった時、隣の家のおばさんが急に産気づいて難産だった時に勝手に言葉を紡いで母子ともに助かる方法を告げた時と――。


「はっ、呪うつもりか」

 王太子は鼻で嗤う。だが、ライアはそれに答えずに兵士に連れ攫われた。


 それから数日後、ひっそりと獄中でライアは餓死して亡くなった。







「なぜだ………」

 王太子は信じられないと書類を見つめている。ここ近年の出産数が減っているという結果の書かれた書類だった。


「なぜ、生まれない!!」

 そんな王太子は先日長年付き合っていた侯爵令嬢と婚姻を済ましたばかりで、彼女が妊娠したのでスムーズに結婚出来るように、婚約者だった聖女が聖女として役目を放棄していたのでちょうどいいとばかりに婚約を破棄して処刑すると宣言した。

 ………処刑する前に餓死したのは残念だったが、これで憂いは無くなったと思ったのに。


「なんで子供が……」

 そんな風に手を回して、祝福されて生まれる子供は死産だった。


 それは王太子夫婦だけではなく、他の貴族たちも死産や流産が続いている。場合によっては、母子ともになくなっているものも出ているそうだ。そんな状況で最後に生まれたのは……。


「聖女の処刑を宣言する前だ……」

「殿下」

「あの偽物め。やはり偽物だったんだな。聖女ではなく魔女だったのだな」

 子供が生まれないのはあの偽聖女の呪いに決まっている。


「魔女の呪いを解くために神殿の協力を……」

「大変ですっ」

 文官がノックもなく執務室に入ってくる。


「なんだ。騒々しい」

 ノックもなく入ってきた文官に舌打ちをしつつ問い掛けると、

「神殿にお告げが……」

 そのお告げはゆっくりとこの国が滅びるのを予測させるものであり、それを回避するためには――。






 そんな騒ぎがあるのを知らずにとある隣国の田舎では身重な女性が大事そうに夫に支えられて散歩をしている。


「そんなに心配しなくても」

「だけど、君はあの王太子の所為で身体が弱まっているのだから」

 くすくす笑うのは獄中で餓死して亡くなったはずの聖女ライア。そのライアを支えるのは見習い神官だった夫。


 彼は牢獄にライアが連れ込まれた時に裏から手を回して救出して、彼の用意した偽物の死体をライアのそれに見えるように偽装した。


『救い出すのが遅れてすみません』

 ぼろぼろと涙を流しながら彼は謝り、弱っていたライアを丁重に運んでこの田舎の村まで辿り着いたのだ。


「大丈夫よ。神様が守ってくれたのだから」

 村に着いた頃は身体が弱っていて動くのもやっとだったが神の加護もあり徐々に回復して、今では出産できるまで体力は回復したのだが、それでも夫は心配なのだ。


「だけど、出産で亡くなる女性は少なくないから」

「あら、それこそ心配ないわ」

 ライアは微笑む。


「だって、子供の神がついてくれているから」

 そうライアは聖女でありながら役立たずで、役目を放棄していたわけではない。それなのに国に凶作が続いていたのはタイミングと対策を取っていなかったからだろうが、彼女の所為ではない。


 彼女に聖女の加護を与えたのは子供を守る神。出産を司る神だったのだ。現に彼女が聖女になってから死産、流産、母子ともに亡くなるという事態は起こらなかった。それこそ彼女の力だったが、聖女の力=国の豊かさだと思っていたからこそそんな恩寵に気付かなかったのだ。


 処刑を宣告された時神のお告げは下った。

 聖女は生まれない。だが、それ以前にかの国は今後子供が生まれないだろう。国が無くならない限り。


 そんなことを知りつつもライアは何もするつもりはない。ただ、これから生まれる子供が健やかに育つことだけを祈るのだった。









 


ライアはこの後子だくさんになります。

かの国は王太子が廃嫡になって、貴族が全員責任取れば子供が生まれます。実は。


聖女が実は別の宗教だったらどうなるかなと思っただけなんだよね。

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― 新着の感想 ―
一般人の被害者が一番悲惨。 王族貴族連中は自業自得なんだけど、何も知らない市民の子が流れてしまうというのは、悲惨な上にただのとばっちりで救いがないよなあ…………。 ある程度被害が拡大したら、そういう事…
[一言] 「――警告:この国にはもう聖女は生まれません」 そんな国には誰も生まれて行きたくないかもな、とか。流産死産もそりゃ神の特別な加護が無ければ避けられないだろうね、とか。もともと神の加護が無けれ…
[一言] 神にも色々なタイプが居ると思いますが(一神教多神教人間っぽい神様そうじゃない神様)、なんとも雑で無能な神様ですね。 ざまぁを超えたなにかというよりはざまぁではないなにかかな。
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