襲来-プロタスリティス・シンクトレンシス-
「ジイさん!」
「あ・・・」
ジイさんの工場に戻ると、まだ事務所の電気がついていたので、事務所の扉を勢いよく開くと、そこには着替えの途中だったのか、上半身に何もつけていないジイさんの姿が。
「きゃー!」
「す、すまん!」
慌てて扉を閉めた。
「いやなんでだよ。」
冷静になっていみたらジイさんの裸には興味がない。というか男の上半身に興味がない。
普通こういう時、裸になっているのはココアとかじゃないのか?
「開けるぞジイさん。」
扉を開けると、そこには女性に馬乗りになったココアの姿があった。
「なんでだよ!」
「違うんですよ。」
ココアがすっと女性から降りる。
「これは彼女の希望なんです。」
今までの人生にないぐらい早く体が動いて、女性を見る。
「違うんです。」
四足歩行の姿勢から立ち上がった女性は、ツナギを着た真面目そうな女性。
「私は彼女に乗ってほしかったんです。」
「ジイさん!不審者家にいるぞ!」
というかさっきまで着替えをしてたんじゃないのか?
「何を騒いでるんじゃ。」
出てきた祖父は先ほどと服装が変わっていた。
どうやら着替えは終わったらしい。
「博士!」
そしてツナギ女性は再度馬の姿勢・・・というか土下座を行った。
「ココアは乗るなよ。」
乗ろうとするココアにけん制を入れる。
「乗るなら俺に乗れって事ですか?ヘンタイなんですか?」
「誰が乗せるか!」
「ひ孫が元気になったら困る、そうでなくともさっきわしの裸を覗いた後じゃしな。」
「むしろ大人しくなるわ!」
ココアとジイさんが連続攻撃を仕掛けてきた。
ジイさんの着替えを除くなど、ちょっと小遣いをもらってもお断りである。
「こんなヘンタイに土下座姿を見られるなんて・・・」
「お前が言うな!あと勝手に土下座してるだけだろうが!」
なぜか小学生女児に乗ってもらった女にまで攻撃された。
土下座をしている理由は知らん。
「こっちは世界の危機なんです!」
どうやら世界の危機関連で来た人らしい。という事は
「あれ?じゃあ俺と同じ要件なのか?」
「じゃああなたもアトランティスの襲来に備えるためにここに来んですか?」
ツナギ女性は顔を上げた。
「アトランティス?」
違う用かも知れない。
「アトランティスの事は国家最高機密に指定されている・・・それを私から無理やり聞き出す作成だったのか・・・クソッ」
ツナギ女性は立ち上がる。
「いけません。」
女性から庇うようにココアが間に入る。
その口にはリコーダーが咥えられていた。
「ぴひょ~ぷひょ~」
「とりあえずリコーダーを離そうや。」
そう言いながらココアを少しわきに寄せる。
さすがに小学生女児に庇われるのはみっともない。
「いい度胸ですね。こう見えても、あなたを黙らせるなんて、私には簡単な事なんですよ?」
「そもそも俺はアトランティスの事なんて知らんし、そっちが勝手に言い出したんだろうが!」
二人の間に空気がピンと張り詰める。
先に動いたのはツナギ女性だ。
後ろのポケットに手を入れて、すっと
「これで黙っていてください!」
財布を差し出してきた。
「・・・は?」
「アトランティスの襲来でプロタスリティス・シンクトレンシス型怪獣が日本に上陸しようとしている事をバラしたと上司に知られたら、すごい怒られるんです!ですから!これで!」
「あのプロタスリティスは怪獣でアトランティスの刺客だったのか。」
「どうしてそれを!」
「さっき自分で言ってたやないか!」
思わず出た関西弁。
だがだからと言って財布をもらうわけにはいかない。
「お二人とも落ち着いて、まずはゆっくり話をした方が良いと思います。博士もそれでいいですよね?」
そう言ってココアはすっと
「財布を置け。」
財布を盗った。
「・・・」
「置け。」
「これがあなたが欲しかった物・・・ですよね。」
ココアが財布からすっと取りだして投げてきたのは、この女性の顔が付いたマイナンバーカード。
「個人情報を投げるな!」
カードに記載された名前は、麦原苺。
「くっ・・・こんなヘンタイにマイナンバーを知られるなんて・・・ッ!」
「それを活かす術が俺にはないわ!」
そのカードを麦原さんに投げる。
「ココアは財布を置け!」
「・・・はい。」
ココアが財布を麦原さんに返す。
「とりあえずコーヒーを入れてきますので、応接室に行ってください。」