ハードボイルド青春小説(6)
ハンバーガーチェーン店に入ると、二階の席を取った。
この店は、気を利かせて二階席になっているのだ。僕は肉の沢山入ったハンバーガーを注文した。ありさは肉が少なく、野菜の多いハンバーガーを頼んだ。
二階の席の窓から、昼間の三鷹の景色が見えた。その冬の日は、寒さが厳しいのか、それとも緩やかに暖かいのか、よく分からない気候になっていた。
僕は二階席から、三鷹の街を見ろしながら、気持ちよくハンバーガーを食べた。ありさは、パンの部分のパティを、手でちぎってモソモソと食べている。
「食欲ない?」僕が聞いた。
「ずっとよ」ありさが、居心地が悪そうに言った。
「どれくらい?」
「もう三、四ヶ月」ありさが、自信を失った様に言った。
「そりゃ長いね」僕が言った。
「そうよ……。ずっとずっとそんな感じ」
ありさが「ずっと」を強調して言った。僕は頷く。
「そう、ずっと前と言えば……僕にラインをくれなかった? 夜中のことだけど」
ありさがスマホを、コトリと音を立てて、テーブルの上に置いた。
思ったよりも大きい音が出てしまった様だった。僕は特に気にしなかった。
「ああ……。あのことね」ありさが、珍しく軽く苦虫を噛み潰した様な表情をした。
僕はこれ以上ありさに聞くことを、止めようかと思った。ハンバーガーは口に合わなかったのか、ありさは三分の一だけパンの部分を食べて、包装紙にくるくると巻いてしまった。
「私って前よりも変わったわよね」ありさが笑みを見せて、僕に聞いた。
「前の津川さんだったら、パティの部分を二分の一くらい食べたかな?」僕がコーラを飲みながら言った。
「ええ」ありさが言った。
僕らは高校生が楽しそうに会話をしていたので、居心地が悪くなり、店を出ることにした。
帰りはありさを先頭に、僕らは三鷹の街を歩いた。午後一時半になると、少し空気が冷え込み始めた。これから何処かへ繰り出すのも、止めておくのも中途半端な時間帯だった。
「折角誘ってくれたのに、悪かったわ」三鷹駅の周りで、ありさが足を止めて言った。
「帰るかい?」僕が聞いた。
「ええ……。そうするつもり」ありさがネイビーブルーのコートの襟元を、直しながら言った。
また、とありさが言って、足早に駅の中へと消えて行った。去り際に、駅のスイカのカードを取り出すのが見えた。
僕と違って、沢山チャージされていそうな、スイカだと思った。僕にとって重要な事柄でも、ありさにとってはちっぽけな事なのかもしれなかった。僕もまた、真っ直ぐに自宅に帰るつもりだったのだ。