ハードボイルド青春小説(5)
やがて冬が来た。
僕はスーパーの仕事を続けていた。
あの「グラン」で一緒に会話を交わしたありさとも、会うことがなくなってしまった。
同僚の谷田は、そろそろ仕事を辞める予定だと言う。「新しい若い男の子が入るから」と、谷田がこっそり僕に教えてくれた。店長の田村から聞いたのだと言う。
谷田はスーパーより時給の良い、居酒屋の夜のアルバイトを見つけたのだそうだ。飲食店は、以前に勤めていたので、スーパーより馴れている仕事なのだと谷田は言っていた。
ありさから村山に会った夜に来たラインの続きは、よく分からないままになってしまった。
「その日も酔っていたから、急に友人と話しがしたくなったの」それがありさの言ったことだった。
「今日で仕事最後なんです」
谷田がそう言って、何時もの通りに喫煙所で、スリムなタバコに火を点けた。やはり、ハッカの匂いが立ち込めた。
「谷田さんは、私が入る前からいますね」僕が言った。
「ええ……。なんだかんだ言って二年勤めました」谷田が俯いてそう言った。
「二年間ご苦労さまでした」僕は労いの言葉をかけた。
「優しいんですね。話しするのもなんか最後ですよね」
谷田はそう言って、義務的に灰皿にタバコを揉み消した。
僕は頷いた。谷田は何時もの様に、スーパーの中に入って行かずに、繁華街へと続く街中の方へと消えて行った。
「安藤さん。さようなら。時々思い出して下さい」
僕はまた頷いた。そして僕も義務的にタバコを灰皿の上で揉み消した。
ありさと二回目に会った時には、僕は就職活動中だった。
二回目の待ち合わせ場所は、三鷹駅の周辺だった。ありさが気を利かせて、僕の住居のそばまで出向いてくれると言う。
ジャンパーの襟元を上げて寒さに耐えていると、ありさがゆっくりと三鷹駅の改札口から姿を見せた。
「寒そうね」ありさが言った。
「今年の冬は寒い」
「ええ……」
「懐も寒いよ。最近スーパーの仕事を辞めたからね」僕は言った。
「スーパー? 初めて知った。いつの間にスーパーで働いていたのかしら」ありさが驚き笑みを見せて言った。
ありさは、襟元にモコモコした素材の付いたコートを着ていた。落ち着きのある紫に近い青色のコートである。こういう色はネイビーと言うのだろうかと、僕は思う。
「昼飯食べた?」僕がありさに聞いた。
「まだ」ありさが素っ気なく言う。
「軽くなんか食べようよ」僕が笑って言った。
「食欲ないのよ」ありさが言う。
「ハンバーガーなら入るかな? この近くにハンバーガーあるから」
「ハンバーガー? 高校生みたいね。でも、安藤くんとなら楽しそう」
僕を先頭に、ありさと歩き出した。ありさは不安げな顔をして、時折スマホの時計に目を落としたり、ラインを落ち着きなく確認していた。それは、いつもは落ち着いているありさには珍しいことだった。