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episode5 村

「こんにちはサリーシャさん」


「直子さん! お待ちしてましたよ」


 なんだか慌てている感じだけど原因は…

 あのキメラの素材でしょうね。


「サリーシャさん、どうかしましたか?」


「どうもこうもあのボケ村長… こほんっ」


 荒れてるな、サリー嬢。


「本来なら村の解体場で見せてもらうのですが村長が村長宅で査定をすると言い始めて…」


 そう言えば村長宅はまだ見てないな。


「すみませんお手数ですが一緒に来て頂けますか?」


「ええ、いいですが…」


「ありがとうございます、あ、先日の素材の代金を先にお支払いしますね」


 ズシャッ


 サリーシャさんは重そうな代金が入った袋をカウンターに置いた。金貨245枚結構な量ね。


「では契約をした手をこちらに」


 契約紋が入っている手を差し出した。

 サリーシャさんが契約時に使用したカードを手の紋の上に置いた。

 すると手の紋がカードに移るように消えていった。


「はい、これで契約完了です」


 異世界って魔法があるから元の世界よりもハイテクな気がする…重い金貨はハクちゃんに収納した。


「では、一緒にお越し頂けますか?」


「わかりました」


 役所を後にし、村長宅へむかった。

 村長宅は村民の家が並ぶ更に奥の高台の所にあるらしい。

 村民の家を抜けると林の様になっていてその中にある高台に続く道を上っていく。

 林を抜け徐序に村長らしき家が見えて来たんだけど…

 立派な門構え、中世貴族の邸宅と言わんばかりの豪邸があった。


「もしかしてあれが村長の家ですか?」


「…ええ、そうです」


「この村にしては随分立派なお屋敷ですね…」


「実は、この村の村長は問題がありまして」


「問題?」


 まあ、大体予想はつくけど。


「この村は神淵の森にもっとも近く森の状態を監視や魔獣をここで食い止める為にあり、その為に国から支援金を受けているのですが…」


「見ればわかるようにその支援金はほとんどが村長の懐に入っています」


「それであの豪邸なのですね」


「でもそれじゃあ魔獣への対応は?国から支援を受けてるということは成果は出さないといけないのでしょう?」


「その通りです、なので村長は冒険者に魔獣を倒す事で特別報酬を出すようにしたのですがその報酬は支援金からではなく村民から徴収しているのです」


「ええ!こんな小さな村で徴収とか大丈夫なんですか?」


「当然、村人は反対しましたが自分達の村を守ってくれる冒険者に対して対価を支払うのは当然だと村長が無理やり徴収しているのです」


 なるほど、それで痩せてる人が多かったのか。


「それは… 国は状況を把握していないんですか?」


「国も調査に入ってはいるんですがどうやらこの地域の領主も絡んでいるらしく」


「なかなか進展していない?」


「そうですね…」


「村人はどうなんですか?見る限り限界に近く見えるけど」


「ええ、厳しいですね」


「色々と協力し合ってなんとか凌いでいますが村長は村人をあまり必要と思っていないようで最悪の状況になれば村人が囮に利用されるかもしれない状況です」


「囮って、なにそれ!」


「国にも何とかしてもらえるよう進言はしているのですが対応に時間がかかるらしくて」


 思っていたより状況は悪いみたいね。


「直子さんも村長には気を付けてくださいね」


「行きたくなくなってきたわ…」


 不安な気持ちで村の村長宅とは思えない立派な門を通った。

 強面の門番に案内され邸宅の中に入り客間と思われる部屋に通され待っている。

 しかしなんというかあまり居たくない部屋だわ。其処彼処に獣の剥製や魔獣の物と思われる角、それらで作ったであろう装飾品が飾ってある。


「これって村長の趣味かな?」


「いえ、客用にあえて飾っているのです」


「こんなに討伐してるみたいな?」


「そうですね、中には強力な魔獣の物もありますので対外的なアピールですね」


 ガチャ!


「お待たせした、私がこのカルムン村の村長でボーゲルだ」


 全身毛皮で作った服を着た小太りで背は私より少し小さい頭のてっぺんが禿げてる男がノックも無くズカズカ部屋に入り挨拶をしながら椅子にどかっと座った。


「村長、こちらが昨日話しました方です」


 サリーシャさんがこちらをチラッと見た。

 あ、名乗ればいいのね。


「堅譲直子と申します、遠方より見聞を広げる為に旅をしています」


「直子殿か、わざわざ来てもらいすまなかったな」


 村長の視線を感じる…

 足から徐序に上へ値踏みするような視線。

 あれ、なぜ胸の所でサリーシャさんを見る…

 こいつ、サリーシャさんと比較してるな。

 大きさでは負けるけど脱いだら凄いのよ!

 脱がないけどね!


「そ、それでキメラを討伐したとか?」


 少し狼狽える村長。思考している時に睨んでいたらしい。


「討伐というかなり行きで…」


「成り行きでキメラを倒したと」


「ええ、突然襲われて《《反射的》》に倒れてしまいまして」


「ほほう,あのキメラを《《反射的》》に倒してしまったと!」


 いや、キメラの攻撃が反射して倒れたのよ…


「その出立から騎士様とお見受けしますがまさかあのキメラを単独で倒してしまうとはさぞ名の知れた騎士様なんでしょうな」


「いや、私は…」


 村長が手を前に出して言葉を遮り足元に立てかけた盾を見ていった。


「わかっておりますぞ、全てサリーシャ殿から聞いています」


「素性は追求しませんのでご安心ください」


「ただ… 代わりと言ってはなんですがそのキメラ討伐を村で討伐した事にしてもらえませんかな?」


「村長、それはあまりにも!」


 ふむ、どうやら騎士団ですら倒せなかったキメラを村で討伐したという栄誉が欲しいのね。


「もちろん報酬は出させてもらいまずぞ」


「報酬ですか… それはいくら位でしょう?」


「そうですな、とりえあえず素材を見せて頂きたいですな」


「素材ですか?それでは討伐の件のその後というとこでお願いします」


「… いいでしょう、では中庭へ案内しますのでそこで」


 案内され中庭に移動した。テニスコート程の中庭だ。


「ここなら外にみえませんのでな」


 使用人なのか用心棒なのかわからないが数人の柄の悪いのが村長の後ろに陣取っている。

 交渉が上手くいかなければ素材を奪う位やりそうだ。


「それではキメラをお見せしますね、解体してるので素材になりますが」


(ハクちゃんキメラの牙と爪、皮と蛇の尻尾を出してくれる?)


(了解しました主)


 フオン!


 何も無かった所に素材が現れた。


「おおー!これはまさにキメラの牙!」


「しかしこの大きさを空間収納出来るとは…」


 何も考えずに出しちゃったけど普通はこの量は入らないのかしら?

 サリーシャさんも慌てているからそうなんだね… 

 次から注意しないとね。


「状態も良いですな、直子殿どうでしょうかこれらを金貨1000枚で討伐権利と共に買い取らせてもらいましょう」


「村長! 普通に売ればその5倍以上の値が付く素材ですよ」


「サリーシャ殿は黙っていなさい、これは村長である儂と直子殿との話だ」


「なっ… 」


 サリーシャさんこの村の人じゃないって言ってたし、話を聞く様子は無いみたい。

 うーん、それなら…


「そうですね~金貨5000枚でお売りしましょう」


「なんと!そんな金は無い!」


 村長がサリーシャさんを睨んでいる。


「では2000枚でいいですよ、ただし村人からの徴収は無しで村長が支払って下さるなら」


「なぜ儂が金を出さねばならんのだ!」


(ハクちゃん、シールドを防御のみにして攻撃は反射しないように出来る?)


 雲行きが怪しくなってきたので先に手を打っておこう。


(できます、防御のみにした場合ほぼ全ての攻撃を防ぐ事が可能です)


(え、反射にすると防御力が落ちるんだ?)


(反射する際に僅かですが防御壁が弱くなります)


 そうなんだでもまあ、実質問題無い感じよね。


(わかったわ、それとサリーシャさんとパーティ構成しといてね一緒に守りたいから)


(了解しました、パーティメンバーを守護するには主の近くに居る必要があります)


(近くというと具体的にどれ位?)


(主の世界での表現では半径3m以内になります)


 結構広い範囲守護できるんだ、さすがハクちゃん。


「お支払い頂けないのでしたらこの話しはなかったと言う事で」


 わざと素材をしまうそぶりをしてみた。


「素材を抑えろ!」


 慌てて村長が手下に指示すると周りに居た柄の悪い連中が突進してきた。


「サリーシャさん、私から離れないでね」


「は、はい!」


 特に何をするでもなく置いた素材の真ん中にサリーシャさんと立った。


「それを寄越せー!」


 一人が棍棒を振りかぶり襲いかかって来た。


 ガン!!


「へ?」


 何が起きたのかわからず殴った男は唖然としていた。


「ええい、何をやっている全員行かんか!」


 村長の檄に再度殴りかかる。


 ガン! ガン! キン!!


 キン? あ、剣を使い出した。

 こっちにはサリーシャさんも居るのに無茶するな〜

 まあ、効かないけどね。

 周りでバタバタしてる中でゆっくり素材をハクちゃんに回収した。


「くそ!どうなっている⁉︎」


「それじゃ、村長さん私達はこれで失礼します」


 右腕を前に抱え足を引きゆっくりお辞儀をした。

 お貴族様が挨拶にする感じを真似てみた。

 その間も荒くれ者達は襲いかかって来ているが全く問題なく何事も無いようにサリーシャさんの右腕に手を回して仲良く出て行くのであった。


「だ、大丈夫なんですか?これ?」


 サリーシャさんが不安そうに周りを見る。


「ええ、大丈夫よ帰ってこれからどうするか相談しましょ」


「そ、そうですねあれで諦める村長ではないので何か対策をしないとですね」


 そう言うサリーシャさんはぎゅっと組んだ腕を抱きしめた。

 サリーシャさんにこれやられた男はイチコロだろうね。柔らかくぽいんぽいんしている。


(クッ! 殺せ…)


(主を殺害する事は私の信念に反します)


 ハクちゃんが心の声に真面目に答えた。


(ちょっとね、言ってみただけよ…)


 急に虚しくなって来た。


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