99話「呪いのマンション②」
電車の窓に流れる風景。オレはウッキウキ。側でヤマミが呆れている。
そして一緒に来ている依頼主である巫女はニッコニコ。
「まさか闘札王で釣るなんて……」
「ええ! 前払いですぅ! うふん!」
依頼主こと彼女は『青華ミホラ』だ。
フワフワな茶髪の巫女メガネっ子で巨乳の膨らみが甘美的。そしておっとりしている。一見すれば茶髪で巫女バージョンのスミレっぽく見えなくもない。
「でも悪いな。まさか本当に渡してくるとは……」
「どうせ達成したも同然ですぅ!」
「心霊現象次第だが、まぁなんとかなるさ」
向かうは大阪と隣の和歌山県のとあるマンションだ。ようやく着いたら大阪ほどではないが住宅地で密集している。
「ここか……」
なんてことない白いマンションだ。ちょっと古い。
他の住宅地と紛れていて目立つ事もない。通りかかっても気にしないだろう。
巫女であるミホラは「こちらですぅ!」と手をマンションへ向けてニッコリ。
「感じる?」
「いや……さっき『察知』したけど、無人の何もないマンションだなぞ……」
「そうなんですぅ??」
「気になる事がある。死体か人形か、三体ぐらい二階のそれぞれの部屋にあるみてぇだ」
「…………行きましょ」
ともかく入ってみない事に事は始まらない。
玄関へ入ろうとすると、揺ら揺らする白いドレスを着た女が走ってきて通り過ぎていった。すかさず目で追いかけたのだが、何故か忽然と消えている。
ヤマミに振り向く。
「……うん消えた」「やはりか」
なんだろう? 妙な胸騒ぎがする。
不穏な気配を感じながら玄関を通る。中の通路は薄暗くなっていて不気味だ。
さっきの白い女も『察知』には引っかからなかった。
「失礼するぞ……」
ギシ、と踏み込んでいく。
すると遠くからおん……おん……と不気味な呻き声がしてきた。しばらく歩いていく。
怨ッ!!!!
すると目の前に『絶叫している悍ましい顔面』がでっかく現れた!
思わずノーモーションでバキッと殴ってしまう。そのまま顔面が奥行きの階段まで吹っ飛んでバガァンと激突。しかし忽然と消えていた。
何を殴ったんだってくらい不可思議な出来事……。
だが、確かにぶっ飛ばして壊れた階段がそこにある。粉塵が舞っている。
「あれ見て!!」
なんと壊れた階段から赤い血が垂れてきた。ツツーッ!
おん……おん……おん……おん……おん……おん……!!
なんとあちこちから悪寒がするような不気味な呻き声が聞こえてきた。
今度は左右の壁のドアが全部バタンッと開かれたと思ったら、バタンッと閉まる。またバタンッと開かれバタンッと閉まる。その繰り返しでバタンバタンバタンバタンバタン繰り返し続けてきた。
思わずギョッとさせられる心霊現象だ。
「これがポルターガイストね……」
「騒がしいヤツだな」
「確かにね……」
うざったくて「静かにしねーと浄化すんぞ……」とボソリ呟くと、今度はピタリと止まって驚くほど静寂に満ちていく。
巫女は「すっごーいですぅ! 鶴の一声で黙らしたですぅ!!」と目をキラキラ。
その辺のドアを開けてみると、中は真っ新な一室……。誰もいない。
ベランダの大窓から日の明かりが差し込んでいる。
「なんだよ。何にもねぇな……」
あちこちドアを開けて見るが、どれも部屋は同じようなもんだ。
改めて階段へ向かう。踊り場の窓から日の明かりが差し込んで階段が見やすくなっている。壊したのは階段の下部分。
オレたちはジャンプして乗り越えた。巫女も高くジャンプしてきた。意外と身体能力高い。
踊り場へ踏み込む。
怨ッ!!!!
突然、足元の階段が抜けたかのように奈落の底が現れた。
でも咄嗟に『盾』を足場にして落下を免れた。巫女はオレがムニッと捕まえたから大丈夫。ふう……。
そのまま階段代わりに登って二階へ上がっていく。
振り向けば、何もなかったかのように踊り場の床がある。何だったんだ?
「もぅ~大胆ですぅ~」
ミホラは頬を赤に染めてイヤンイヤンしている。
なんかムニムニ柔らかいかと思ったら、背中に回した手が胸に及んだまま抱えてた事に気付く。げげっ!
途端にヤマミのチョップが強めにドスンと頭上を打ってきた。いてぇ!
「あ、あれは事故だぞ!!」
「そうかしら!?」
不機嫌なヤマミは腕を組んで冷めた目を見せている。ごめ!
……でも大きいとあんなに柔らかいのか。とても感触が忘れられない。
いやいやいや、こうしてられんねぇ!
両ほっぺを叩いて、緩んだ心境を叩き直す。
二階の通路へ進むと、左右からドアが飛んできて目の前で衝突するのを、思わず両手でガシッと二つを掴んだ。
二つのドアが逃れようと力が掛かっていた。ギリギリ……!
しかし糸が切れた人形のように力を失ったドアがオレの手にぶら下がる。
ドアが飛び出した中の部屋を見ると、やはり普通の一室。誰もいなければ、何も置かれてもいない。
ドアを元通りにハメ込んでおいた。
怨ッ!!!!
足元の床に『でっかい悪魔的笑顔』が浮かんでいた!!
もう慣れたので素早く床の顔面にパンチした。バキッ!
眉間に食らって「ギエー!」と見開いて絶叫、薄らと消えていってしまう。床に穴があいた。
「わ、わりぃ! 穴空けちまった……」
「来るわよ!」
怨ッ!!!!
気付けば壁や天井に『無数の怨念孕む形相』が浮かんでいた!!
そして怨念孕む形相の白いオタマジャクシが四方八方から猛スピードで襲い来る。まるで散弾銃だ。気を引き締めて拳の連打でガガガガガガッと砕いていく。
数分、絶えずに怨念の弾丸が斉射されたのだが、持ち前の粘りで全部打ち砕いたぞ。
「す……素手で怨霊を粉砕したですぅ……」
「来るなら来いぞ!! こっちは準備運動になってねぇぞ!」
しかし静寂のままだ。
ヤマミがオレの肩に手を置いてくる。
「……三つの部屋で三人死んでる」
「死体か……」
三つのドアが開かれ、ヤマミの小人が出てくる。
そうか床を伝播してドアの下の隙間を潜ったんだな。小人は『分霊』だし、捕まっても黒炎になるだけだもんな。潜行するには最適すぎる。
中を見たら、クモの巣のようにあちこち紫の糸が部屋中を張っていた。そして壁に張り付けられているのは見開いたままの死体。
まるで悍ましいモノを見たかのような壮絶な顔だ。
ヤマミは黒炎を放って糸を全部燃やし尽くしていった。ゴゴゴ!
元の何にもない真っ新な部屋に変わってスッキリした。
「さて、もう少し探してみるか」
《てめえっ!!》
気付くと巨大な漆黒のクモが影から抜け出てきた。悍ましい醜悪な形相。八つの細長い足がカサカサ蠢く。膨れた胴体にはシマシマ模様。
巫女は「ひゃっ! キモいですぅ!」とオレの背中に隠れた。おい!
《さっさと出て行けっ!! ここは俺のマンションだっ!!》
殺気立つ漆黒の巨大グモは口から白い糸を瞬時に吐く。
オレは臨戦態勢と、足元に花畑を広げボウッと花吹雪を伴ってフォースを噴き上げて、銀髪のロングがたゆたう。
パンチを繰り出し、糸を螺旋を描くように絡みつかせてパァンと光飛礫に四散した。
《な……なっ!?》
ビビって冷や汗をかいて一歩後退る。
「おまえがここで心霊現象起こしてた犯人だなッ?」
《待て待てっ!! 心霊現象って突然何なんだっ!? 話が見えねぇっ!?》
右前足をブンブン振るクモ。
つかさ、おまえも最初の『察知』に引っかかってねぇよな……?
《……俺は五年前に住み着いた土蜘蛛一族『八雲ビャクヤ』だ》
さっきまで巨大なクモだったのが、シュルシュル縮んでいって人型に収まっていく。手入れもしてないような黒髪ボサボサでヒゲモジャモジャ褐色のスラッとした男で、毛皮の衣服を身につけているワイルドな風貌になったぞ。




