87話「秋季大会編 ~準決勝戦だぞ!⑤」
ナッセの流星進撃とスパークを立て続けに受けて、天高く宙を舞っていたカレンの巨体は地面へ落ちていって煙幕が巻き起こる。全身血塗れ、白目ひん剥いて口を開けたまま微動だにできない。
ほぼ瀕死。棺桶化してもおかしくないほどのダメージだ!!
だが、カレンはギザギザの歯で食いしばった!
────アタシは幼い頃、あらゆる人から加害されていた!
虐待する両親! イジめてくる同級生! 理不尽に叱ってくる先生!
耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて、それでも変わらぬ地獄の様相にぶちギレた!
これまで受けてきた痛みを力に蓄えるかのように湧き上がる活力でもって、盛大な血祭りを巻き起こして昂れた!!
これまで我が物顔のようにと笑ってきたみーんなは血塗れにひれ伏して、弱者へ堕ちた!!
だから強さが全てだ!! キングだ!! だからよォ…………!!
「また弱者に堕ちてたまるか────ァ!!」
なんとカレンは殺気立って震えながら立ち上がってきたぞ。
瀕死でボロボロの血塗れで立つのさえ苦しいはずなのに、凄まじい気力……。
「さ、最高だぜーェ……! ナッセよォォォ!!」
まさか立ち上がってくるとは思わず驚いていたが、一筋の汗を垂らして身構える。
完璧に勝負が決まってたはずが、どこから底力が出せるのだと脅威すら覚えた。そもそも落下してから意識を失ってたはずなのに!?
「ぎがあああああああああああああッ!!」
史上最高と思われる怒涛のエーテルを噴き上げて、戦場が大きく揺れる!!
しかも三メートルをも越えて巨人かと思わせられる体躯に、そして鋼鉄の全身鎧かと思える程の筋肉質が肥大化!
カレンが腰を落とした瞬間、大地が爆発!!
気付けばカレンの形相が視界に! 振り下ろされるハンマーを太陽の剣で防ぐ! 速い!! 重い!! し、盾ッ!
ガガン!!
稲光を散らして、太陽の剣と盾が砕け散り、全身に衝撃を受けて意識さえぶっ飛ぶ激痛に「がはっ!」と血飛沫を散らしながら宙を舞った!
更にカレンは巨体ながらも縦横無尽に超高速で跳ね回って、徹底的に叩き潰すようにあちこちからハンマーで殴ってくる!
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!
何度も何度も何度も叩かれ、空中で踊らされ、盾の破片と血飛沫が舞う!!
何重もの盾、念力組手、常駐回復魔法、三種防御策でさえ、全身の骨が砕けるかと思うほどの激痛で意識が飛びそうなほどに朦朧……ッ!
「ブッ潰れなーァ!! ぶっとばしハンマーァッ!!」
ラストの一撃をドカンと受け、遺跡をことごとくぶち破っていって地面を削りながら転がされていった!
「ぐ……ぐがはっ!」
咳き込んで血が地面にぶちまけられた。
全身痛くてたまんねぇ……! つ……強ぇえ……ッ!!
《ナッセェ────!! 負けないでッ!!》
意識が沈む間際、仮想世界では聞こえないはずのヤマミの声が耳に!
カッと見開いて、気力だけで立ち上がる!
そして「おおおおおおおッ!!!」とエーテルを噴き上げて足元から飛沫を巻き上げた!
「てんめぇえーァッ!! まだ立つか────ァッ!!!」
苛立ったカレンが大地を蹴って爆発、旋風を引き連れながらオレの目の前に!!
襲いくるハンマーをカッと睨み据え「流星進撃ッ!!」と撃ち、ハンマーに十五撃入れて弾き、カレンの頭上、肩、腕、脇腹、腹にそれぞれ一撃を叩き込む!!
「ぐ、ぐぎぎ、こんのぉぉぉお!!!」
それでもカレンは強引にハンマーを振り回してオレにぶちかます!
メシィ……ッ! 半分以上威力削いだのに痛ぇッ!
ガガアァァンッ!! 相打ちになって周囲に衝撃波を散らして大気が爆ぜた!!
「ぐおおおおあああ!!!」
「ぐぎああああああ!!!」
互いに吹っ飛んで後方の瓦礫へ衝突して二つ煙幕を吹き上げた! ドゴゴォン!
それでも死に物狂いで立ち上がり、血塗れで息を切らしながらカレンと睨み合う!! もはやお互い一撃を撃つのが精一杯なほどに瀕死の状態!
ポタポタ……滴る血が地面に赤く面積を広げていく!
ハァ……ハァハァ……ハァ……ハァ……!
「ナッセ……! まさかここまで戦えるなんて……骨があるなーァ!」
「そっちこそな! 流星進撃何度も喰らっても、ここまで立てれるなんて思ってもみなかった」
神妙に見つめ合う……。
カレンは落ち着くかのように一旦目を瞑る。その目が開けられるのを待つと、スッとこちらを見てきた。
「ただ試合で戦って、だけじゃ、ここまで粘ってこない。何か目的があるのかーァ?」
「ああ! 異世界はもっともっとヤベーのが多いらしいからな。こんな所で倒れてたら前途多難だぞ」
「異世界へ行きたいからーァ?」
「ああ! 異世界でワクワクするような冒険がしたい!!」
ポカンとしてくるカレン。
そして「くっくっくっ、かははははははっ!!」と笑ってくる。やっぱ笑われるか。
口の中の血を吐き、据わった目で「夢見すぎ」と吐き捨てた。
「まぁな」
それでもオレはそれが目的だから、胸を張って不敵に笑ってみせる。
カレンは何かを察して真剣な眼差しを見せた。そして「羨ましい野郎だなーァ」と小言を言う。そしてハンマーをドンと地面に立てて胸を張る。
「アタシは狭い世界でキングを気取ってただけだーァ! だからなホント尊敬するわーァ!」
「じゃあ一緒に来ねぇか?」
「はーァ? 寝ぼけてーん? ……まーァ異世界知ってっけどビビってたからなーァ。だから狭い世界へ目を背けてたんだーァ」
目を逸らしてバツの悪そうな顔をする。あの巨人みてぇなカレンが、ビビってる??
しかしカレンはニッと笑う。
ハンマーを両手に握り、軽々と振り回して「てめぇに彼女いなけりゃ、一緒に行ってやってもよかったんだがなーァ」と烈風を撒き散らす。
オレは「すまん! いる!」とヤマミを脳裏に浮かべた。カレンは舌打ち!
「最後の勝負だ────ァッ!!!」「臨むところだぞッ!!」
カレンは戦場を激しく揺るがすほど全身全霊のエーテルを噴き上げて、稲光が暴れまわって迸る!
五メートルもの巨体に、そして隆々とした筋肉質ッ!!
まるで人外レベルのパワーだ!!
その力をハンマーに込めて、こちらを鋭い眼光で射抜いてくる!! ギン!
対して、雫を集めながらオレは上空へ駆け上っていく────!
煌びやかな螺旋状の装飾を備えた一刀に伸びた巨大な銀河の剣を生成完了ッ!
そして振り下ろしながら急降下だ────────ッ!!
「ぎがあああああッ!!」
吠えるカレンは電撃の尾を引きながら大地を爆発させて上空へ超高速で飛び上がる!! カレンと火花散るよう視線が合い、共に気合い漲る一撃を放つ!!
互い決死の咆哮が空に轟かんばかりだ!!
「ギャラクシィ・シャインフォ────ルッ!!」
「空の彼方へ────、いっちまえハンッマ────ァッ!!」
ズッガアアアアァァァァァンッッ!!!
二つの巨大すぎる力が衝突して、空が輝き、戦場全域を揺るがす!!
精一杯の全力を込めた銀河の剣はハンマーに亀裂を入れる!
押し負けた事に驚き、見開くカレン!!
「ぐ、な、なに!!?」
ついにハンマーが砕け散り、銀河の剣は彼女の頭上を強打!
「喰らえ────────ッ!!」
それでもカレンは憤怒と銀河の剣を巨大な両手でガシッと掴む!!
「こ、こんなもの!! こんなもんへし折ってやらーァ!!!」
そんなもの砕いてやらんばかりに凄まじい圧力を加える!! ぐぎぎ!
しかしこれまで粉砕してきた何よりも硬く、カレンは「な……!?」と絶句!
ビクともしない!! まるで最高硬度のダイヤモンドのように軋みすらしない!!
しかも銀河の剣が頭上にのしかかったままで、グイグイ引いたり押したりしても逸らす事すらできない! まるで接着したように離れない!! 絶句していくカレン!!
「これがオレの繰り出せる最大の奥義だ────────ッ!!」
ズガガァァァアン!!!
超高速落下しながら銀河の剣でカレンの脳天を大地に叩きつけた!!
その衝撃によって爆心地は大きく窪んで、波紋状に土砂の飛沫を高々と巻き上げていった!!
煙幕が晴れると、カレンは頭を埋めて地面に真っ逆さま。次第にゆっくりと倒れて「ぎがはッ!」と吐血し横たわる。ズン……!
オレは激しく息を切らして膝を地面に落とし、元に戻った光の剣を逆手に地面に刺す。
「ぐ……ぎぎ……くそ……! 失恋した上で……このザマかーァ……!!」
ドン、とカレンは爆破四散して棺桶化。
オレは思わず「え? なんて?」と素っ頓狂な顔を見せた。