8話「身も蓋もない力の差!」
ミッカたちが牙魚を蹴散らすのを見て、つい感慨深くなった。
「最初の頃を思い出すわね……」
「ああ! あん頃はオレもヤマミもそれくらい弱かったなー」
へへ、と懐かしんでいるとミッカとチキクはギロッとこちらへ睨んできた。
「まるで俺たちが弱いみたいな言い方だな!」
「彼女がいるからって調子に乗らん方がいいでぶっ!」
「ええ! そうよ! ミッカの威力値は四四〇〇で、戦線離脱するほどの代償を伴う大技で一七六〇〇もなるのよ! 夫を舐めないでッ!」
ナカシは胸をボインボイーン揺らしてフンスフンス怒る。
チキクは「え、俺は?」と目を丸くした。……さり気なくハブられたな。
「あ、ちなみにオデの威力値は三六〇〇でふっ!」
なんとか強がるようにチキクも親指を自分に向けて告白してきた。
肩を落としたままオレとヤマミは低いトーンで「あぁ、そうすか……」と生返事。
数時間くらい散策していると、アナゴみたいな細長いのスライム数匹と半魚人っぽい一匹がザバーッと飛び出してきた。
あれはサワスライムと川辺魚人だ。
【サワスライム】(水族)
威力値:1600
川辺に生息するスライム。アナゴのように身が細いので、狭い隙間へ自在に潜り込んで獲物を捕食できる。下級下位種
【川辺魚人】(水族)
威力値:4700
川辺に住む、水陸で生活ができる魚の人間。人間並の知恵を持ち、罠を仕掛けてくるなど狡猾。水の魔法を併用して繰り出す爪の攻撃はかなり強力。その戦闘力は単体でクマを打ち倒すほど。下級中位種
「みあああああッ!!」
ミッカは血気盛んに剣を振るい、サワスライムをズバズバ斬り捨てていった。
「キシャーッ!」
しかし川辺魚人は手強く、爪と剣でギンギン斬り合って苦戦してしまう。
気を抜けばやられるレベルっぽいな。
「くっ! こ、こんな所で……川辺魚人がッ……!」
「気を付けて!!」
川辺魚人は「ウォーターファング」と爪を振るって四連の水の刃を飛ばし、ミッカは「ぐわあ」と左肩を斬り裂かれて血飛沫を噴き上げたが、ナカシが「ラブ・リナース!!」とハート型の回復魔法を放って即座に傷を塞いだ。
まさか離れたところへ回復魔法を飛ばせるとは……。
「おのれ! 一日に三発までの必殺スーパー閃月ッ!!」
怒ったミッカは更に強力な斬撃を広げた。すると川辺魚人は両腕を交差して耐えた。かなり防御力が高くて真っ二つといかず、ミッカが「みあああ!!」と剣を突き立てて致命傷を与えた。ドサッ……!
ミッカはハァハァ息を切らして「すげー手強かったぜ……」と青ざめていた。
コトン、といくつか金袋と宝箱が落ちた。
チキクは「フッ、他愛もない」と腕を組んでいた。何もしてなかった癖に……。
「川辺魚人は手強いのにやるわね」
「ああ」
先ほど彼らは四〇〇〇そこらと威力値を語っていた。
普通の創作士としては標準的な数値だろう。本家のような万越えは本当にエリート級なのだ。それでもオレたちが学院入学したてのレベルだったら頼れる戦力だっただろう。
……まぁ、そんなもんだわな。
「おい! オデらが必死に戦ってるのに、オメーは突っ立ってるでふか!?」
「……一緒に戦えって事?」
「たりめーだろ! 俺苦戦したんだぞ!?」
今度はミッカが憤っていた。
……確かにミッカたち三人が頑張って戦ってくれてるなぞ。ごめん。
数時間歩いていると、再び川が騒ぎ出して川辺魚人が数匹もドババーンと群れてきたぞ!
ミッカは「なにっ!?」と、ナカシは「ウソ!? 多すぎるわ!」と、チキクは「冗談じゃねーでぶ!」と狼狽えるリアクションしてきたぞ。
そりゃ一匹だけでも苦戦してたのに、この数は凶悪だろーなー。
「じゃあ代わりにやろう!」
「え?」
怯んでいる三人を尻目に、オレは居合いのように正拳突きでボッと衝撃波を放った。
「グエエーッ!!」「グワエーッ!!」「グエッ!!」「ギエーッ!!」
吹き荒れた嵐が川辺魚人をまとめて押し流す。そのまま後方の壁へグチャグチャッと潰れた赤いトマトのようになって全滅…………!!
コトコトン、宝箱と金袋がいくつか落ちてきた。
「な……なっ…………!?」
「何を……したの?」
「……ど、どんな大技でふ??」
ミッカたちはポカーンと大きく口を開けて唖然。
「あれくらいなら、無駄に衝撃波を散らすだけでもカンタンに倒せるからなぁ」
カッコよく決めたいなら、光の剣でズババーって斬り伏せたり、光の矢か魔法で撃ち抜いたりすりゃいい。まぁ変にカッコつけるよかサクッと終わらした方が楽かな。
「そ、そんな、気軽に倒せるみたいな事言うな────ッ!!」
「そうよ!! 川辺魚人は数匹出てくると絶望的って話なのよ!?」
「い、いや! き、き、きっと川辺魚人っぽいザコなんでぶっ!!」
なんか騒ぎ出したミッカたち。ナカシはボインボイン巨乳を揺らして力説している。
「後は任せろぞ」
ミッカたちは呆然とするしかなかった。
ナッセもヤマミも素振りで巻き起こす衝撃波だけで、勝手にモンスターが壊滅していくからだ。
裏拳でブンッ! ビュゴ────、グチャグチャッ!!
掌で扇いでブオッ! ブオオオオ、グチャグチャッ!!
張り手突き出しでビッ! ブアアアアッ、グチャグチャッ!!
「こんなもんかな? 今日は遅いし、野宿だな」
「そうね。晩飯はカレーにしましょ」
「ちょっと待て────────ッ!!」
スッキリしているオレたちに、ミッカたちが声を張り出してきた。
ナカシは胸をボインボイン揺らし「なんでそんな涼しい顔なんですかっ!」とプンプン!
……ああ、忘れてたぞ。
「ミッカさん、そっちのテント返すね。あ、食材とかも……」
収納本から大荷物をミッカの足元にゴロン。