71話「秋季大会編 ~メンバー選定④」
オカマサは既に仮想世界のあらゆる地形を頭に叩き込んでいた。
彼は元自衛隊でゲリラ戦を得意とする軍事系創作士だ。派遣された海外で敵国の基地や村などを焼き払い、多くの兵や住民を虐殺して功績を上げてきた。
威力値が三〇〇〇にも満たないはずなのに、ここまで暗躍できたのは効率厨とも言える綿密な分析と(卑怯な)策のおかげとも言える。
やり過ぎて味方からも不評を買っているが戦争に卑怯も糞もないね。
相棒ドラゴリラとは相性がよく、恋人同士であり、慰め合いでもあり、理解者でもある。
「さて……この熱血漢の満を持す初陣だ! 総ナメと行こうかい!」
下ろしていたブリーフとズボンをはき直した。(おい何をしていた!?)
大会メンバー選定の対戦で、彼の出番が来たのである。
頭にはありとあらゆる地形と綿密な作戦と相手の能力などを叩き込んである。そして鷹のように鋭く見据える目は捕食者だ。
「最初の哀れな獲物は城路君かい……」
リーグ戦最初の勝利を飾るには打って付けの因縁の相手だ……。
ある意味リベンジできるチャンスでもある。
「……正々堂々勝負よろしくな!」
「ああ。お手柔らかにお願いする。燃えていこうぜ……」
爽やかと笑み合って、仮想世界へダイブしていった。
城路君を倒せるシミュレートを何回もこなし、とっくに勝利への方程式はできていた。
城路ナッセ。光属性で、レアなスペリオルクラスである鍵祈手。多種のクラスを持つ厄介なクラスだ。
だが、彼は脳筋で戦う事が多い。つまり正真正銘の馬鹿。
俺にしてみれば宝の持ち腐れな糞餓鬼でしかない。
市街地でナッセと向き合って、まず敢えて無防備で立つ。
甘い城路君の事だ、俺の事をまだ友達だと思っているから躊躇うはず……。
そして言葉責めでメンタルを攻撃する!
《暴力はいけない! 君はこれ以上やってはダメだ!》
《君はこの世界を滅ぼしかねない戦闘力を持ってしまっている。自分で恐ろしくないのかい?》
《ちょっとした事でカッとなって辺りを荒野にしたら後悔しかないよ?》
《多くの罪を犯しておいて、異世界へ行こうなんて虫が良すぎないかい?》
《これまで犯した罪は消えない。だからこれから償う意味で、剣を置かないか? これ以上罪を犯して欲しくない》
《友として、俺は君の為を思っているんだ! 頼む!》
《業は俺たちが代わりに背負う! 君は戦いとは無縁の平和な世を生きて欲しい!》
《罪が重いと感じるなら、自首して楽になった方がいい》
《俺は悲しいんだ……。これ以上罪を犯して欲しくない。君はそれでものんきに夢を語るのかい?》
上手くいけば大幅な弱体化が見込める。ニヤッ!!
根拠としては城路君は元の世界ではネガティブ思考をしていた。
だからすぐ自己嫌悪して自ら責めて勝手に落ち込んでいく! そしてこの対戦で惨敗する事で更に負の悪循環へ陥っていく!!
これが原因でヤマミに見限られれば、更にネガ思考は増す!
もしそれで創作士を辞めて、異世界へ行くという夢が潰えても自業自得ってトコだ。
勝負は非情! 殺るか殺られるかだ! 戦場に城路君のような甘い糞餓鬼の出る幕ではない!
感謝しろ! わざわざ苦手な戦いを遠ざけてやってるんだ!!
生き地獄へ堕ちろ糞餓鬼が! ざまぁみろ! ははははっ!
「行くぞ!」
「おっと待ってくれ! 暴力はいけn」
鋭い眼光を漲らせたナッセが瞬時に間合いを詰め、強烈な一撃を胴体に叩き込んできた。それは致命傷となり爆散して棺桶化。即試合終了。
まさかいきなり殺られるとは思わなかった……。
試合終了後、ナッセに憤慨をぶつけられずにいられなかった。
「なんで待ってくれなかったんだい? 話を聞いて欲しかったんだが……」
「いやぁ……試合中だし、隙見せる方が悪いぞ?」
「君はそんな事言えるようになったのかい? 今はもう平気で誰かを傷つけられるようになってしまったんだね。とても悲しいよ……」
「極悪人のおまえが言うなよー! さすがに呆れっぞ!」
まさか糞餓鬼ごときに呆れられるとは思わなかった。
ならば友情で訴えるメンタル攻撃だっ!
「なぁ、俺たちは元いた世界からの友達じゃなかったかい?」
「いや全然! おまえ、いつもドラゴリラばっかじゃんー」
迷いなく首を振って否定しただと!? 馬鹿なっ!?
「ヤマミー! 終わったぞー!!」「当然ね」
これだから糞餓鬼は大嫌いだ! 俺の気も知らず女のトコへ行きやがって!
くそ~~~~!! まさか最初に黒星つけられるとはっ!!
リベンジを果たし、なおかつ再起不能に陥れてやろうと思ったのに!!
糞が!
次はマイシか……。今回一番注意すべき相手である。
だが二回戦で来るのはかえって好都合だ。フィジカルがクラスメイト最強なので、早めに初見殺しで片付けたいからだ。
「ザコはさっさとぶっ潰すし!」
「果たしてそう上手くいくかな?」ニヤ……!
マイシと一緒に仮想世界へダイブ。また住宅地だ。ビルなど高い建造物が多い。
彼女も馬鹿だから大雑把な攻撃と広範囲攻撃ばかりだ。マトモにぶつかるのは得策ではない。まず地形を利用して彼女の攻撃を防ぐ。幸い密集している場所もある。
狭い路地へサッと身を隠し、懐からヤバい劇薬を取り出す。
これで心身を破壊して廃人にすれば、寝たきりになって二度と表に出れなくなる……。
表向きで「事故だった」と誤魔化せば完璧だ。
「火竜の爆裂波動砲ッ!!!」
ズオゥアッ!!
突然眩い灼熱に押し流され、気付いたら灰にされた……。
こうなったら地形による障害は意味をなさない!
こいつ規格外のバケモノ過ぎてダメだ!!
糞が!
次はエレナ。所詮はメスガキだが、金属化できる『血脈の覚醒者』は厄介だ。
それに身軽で体が柔らかいので体術は秀でている。こっちも接近戦でも負けまいが効率悪い。
「さっさと終わらしちゃおッ!」
「ほうほう。それは自信満々だね。それじゃ行こうかい……」
話を聞かない脳筋ナッセ君や、ガチ化物のマイシと比べれば全然ザコだ。
コイツ自身の体重は軽いので動きさえ止めればどうにでもなる。マイシのような範囲攻撃もない。馬鹿一つ覚えの体術オンリーだ。所詮は馬鹿。
なので搦手で徐々に心身ともに疲弊させて、金属をも溶かす強酸による残忍な拷問で恐怖を与える事で金属化を鈍らせて惨殺する。
もしかしたらトラウマで創作士辞めるかもしれんが、戦場は常に非情だ。悪く思わないでくれっ。
住宅地を駆け抜けて、あちこちワイヤーをしかけまくった。
クモの巣のように縦横無尽に張り巡らせているので、体術オンリーの創作士にとってはやりづらいだろう。動きを阻害されて苛立つあまり判断力が鈍っていくはずだ。
「……これで馬鹿なエレナちゃんは詰みだ」フッ!
「えーいっ!」
だが、木の上のサルのようにエレナはワイヤーをも利用してビュンビュン軽やかに動き回って、こちらが逆に攪乱されていく。速すぎて目で追えない!
まさかワイヤーが逆にメスガキにとって利になるとはっ!!
「エレナちゃん・ムーンサルトヒールキック!!」
ガツン!!
前転宙返りカカト落としを喰らい、杭のように地面に埋められた。
ダメだ……余計動きが良くなって逆効果だった……。糞が!
ドン! 爆散して棺桶化!
コマエモンの横一閃するしかない抜刀術は真上へ飛べば封じれる。
だが、その抜刀術が速すぎて気付いたら胴体が真っ二つにされていた。飛ぶ暇もない。糞が!
リョーコ。コイツもダメだ。ナッセ同様初手でスパッと両断された。糞が!
コハクも「サクッといきますか」と瞬殺してきた。糞が!
モリッカは気弾撃ってきてドカーン! 糞が!
ミコトは言ったもん勝ちなカード戦法ばっかで対処できない! 糞が!
ヤマミにはナッセの嫌な部分を暴露して修羅場を目論んだが、逆に怒りを買ってボッコボコにされた。土下座して乞うても止めてくれなかった。糞が!
「あんさん無敵無敗なのに、珍しく全敗やなー! ワイもやけど……」ははは……!
ドラゴリラの苦笑いは陰鬱した気分を吹き飛ばしてくれる……。
「フッ……俺もまだまだ未熟者さ。だがベストは尽くすぜっ!」
「ワイもや! あんさんと戦う方が楽しいやね」
分かってくれるのは相棒しかない!
ドラゴリラは俺が愛した熱血漢。唯一無二の恋人。石版の誓約をさえ打ち勝つほどの愛情が届きうる大事な人!
何故か石版によって得た強さは無くなったがなっ!
「殺人進撃ッ!!」「殺人連撃ッ!!」
二人は笑みながら互角の連打を繰り返し続けた。
血湧き肉躍る激戦は熱血漢として漲る。互い認めて己の想いを乗せてぶつけ合える。誰よりも何よりもドラゴリラが一番だ!
生涯、共に夢を目指して歩める最高の相棒!!
これからもずっとずっと……一緒に燃えていこうぜっ…………!!
ゴリラ状態ドラゴリラは相手の股間を揉むべき下手投げのような手(クサい)を前方に突き出しながら下半身露呈でウホウホ全力疾走だ!
その手を覆うように、ギャグ漫画でよく見るエロ目のブサイクな龍の造形付加が表れたぞ!!
「ドラゴン男根揉みぃ────!!!!」
対してオカマサはズボンを脱ぎ捨てて、尻穴に詰めた「禁忌の連装爆弾」で爆進ブボ────ッ!
そして銃剣を構えてバンバン射撃しながら高速突撃!!
「ガンブレードロ────ドォォ!!!」
ズガガ────ン!!
さすがだっ! それこそ俺の相棒でありライバルだっ!
熱く滾る漢らしい最高の闘いになったぜっ!!
二人は熱中してて気付かなかったが、クラスメイトたちはドン引きしていた……。
「あのさ……そーゆー下品なの止めてくれない?」
「あと熱血が悪いイメージになるから……自称すんのも止めろよ!」
フクダリウスに至っては「レギュラーは無いな……」とため息。