69話「秋季大会編 ~メンバー選定②」
とある大会のメンバーを決める為にクラスメイト同士で仮想対戦のリーグ戦を行っているぞ。
ここは仮想世界の、とある神社前。入口前の大鳥居。参道が門へ続き、拝殿と本殿へ連絡している。
その参道を境に、ヤマミとエレナが静かな面持ちで対峙していた。
ヒュウウ……、砂塵が間を吹き抜ける……。
「相性が悪いんだろうけど、容赦しないッ!」
「ナッセの事で鬱憤晴らしたいから?」
「ぐっ!」
図星かエレナは悔しみを滲ませた。
モニターで観戦しているナッセたちクラスメイトはその会話までは聞き取れない。
ただ険悪な関係なのは火を見るより明らかだった。
「ダーリンの事はなんでも分かってるみたいなツラしやがってぇッ!!」
エレナは右足を振り上げて高く跳躍し「エレナちゃんヒールキック!!」とカカトを振り下ろす!!
轟音を響かせ、参道が陥没しタイルが剥がれ飛ぶ! 粉塵が巻き起こって放射状に吹き飛ぶ!
事前に避けたヤマミは屈んだまま後方へ滑っていく。ザザッ!
エレナは軽やかな動きでアクロバティックしながら回し蹴り、しかしヤマミは払うように手で足を叩き軌道を逸らす。
ビュンビュン絶え間のない蹴りの嵐がヤマミを襲う。
それでも負けず劣らずと捌き続けきっていく。そしてエレナの顔面に掌!
「ホノビ!!」
ゼロ距離でエレナの顔にドオンッと炸裂して、爆炎が全身を包むほどに広がっていく。
燃え盛る火炎の最中を悠然とエレナは歩いて抜け出す。
しかしヤマミは動揺する事なく至って冷静のままだ。
「ジャマミ! バカにしてるでしょッ!」
エレナは全身を金属化して反射光で煌めいている。
一切の属性魔法攻撃は受け付けない……、これが金属化──!
そうした反則級の『血脈の覚醒者』の生態能力。魔道士としてのヤマミには相性が悪い。
だが、分かってるからこそヤマミは撃った。
「アンタの魔法なんて効かないからッ!」
エレナは腰を低くして、俊敏に地を蹴った。瞬間移動のように間合いをあっという間に縮めヤマミへ前蹴りをブチ込む。身を翻したヤマミには触れず!
それでもエレナは軽やかな動きで連続の蹴りを見舞い続ける。
ヤマミは払う際に氷魔法を放つ。
エレナの猛攻を捌きつつ氷を次々と付加させていく度に、徐々に動きを鈍らせていく。凍結はダメージを受けざるを得ないのか?
最後にヤマミは拳に氷の塊を纏わせて、ガツンとエレナの頬を殴る。
後方へ吹っ飛ぶエレナはクルクルと宙返りして受身を取って地面を滑っていく。殴られた頬から顔半分を氷が侵食している。
「フン!」
しかしエレナはオーラを噴き上げて、全身にまとわりついた氷結を吹き飛ばす。
そして余裕と服をパンパンと払う。
何事もなかったかのようにヤマミへ静かな睨みを見せている。
「全くダメージねぇんか……?」
「ああ。凍結自体によるダメージはいい案だが、あれでは期待できんな」
唖然していると、フクダリウスは冷静に解説してくれた。
そういや彼も強靭な肉体持ってるんだっけ。凍結も効かなさそうだから妙に説得力があるぜ。
「細胞レベルで金属化してるから、凍結で傷むなんてのないからッ!」
ここから本番だと、エレナはエーテルを全身から噴き上げて大地を揺るがし始めていく。
さっきまでは軽い準備運動のようなもの。
ヤマミはため息をついて、カッと指輪の宝石を輝かせる。するとヤマミはくるくると回りながらパッパッと洋服が光の粒子となってスラリとした魔法少女らしい特殊な衣服に変換された。たゆたう髪の毛を波打たせ、両手を組んだ祈るポーズで凛とした表情を見せた。
パシュン、と後光のように放射状の閃光をバックにヤマミはクールな振る舞いで降臨。
紫を中心にした寒色のレオタード、黒いマント、両端にリボンを添えたカチューシャを頭上に、手には物質化された杖が握られている。
魔法少女形態へ変貌したヤマミに、エレナは気圧されそうになる。
「なら、こっちも相応の力で迎え撃つわ」
クルクル手元で回して、ビシッと握って杖の先端から刃を具現化。
エレナは「何をッ!」と大地を爆発させて、超速でヤマミへ襲いかかる。それに対してヤマミも杖を振るって、エレナの蹴りと交差させた。ガッ!
その衝撃波で地面が爆ぜて参道の破片とか弾丸のように吹き飛ぶ!
苛烈にエレナの猛攻で周囲が荒らし尽くされるほど嵐が吹き荒れ、ヤマミは苦い顔を見せながら奮起して捌き続けていく。
縦横無尽と二人は神社を戦場に、駆け抜けながら幾度も激突を繰り返していく。
意地と意地のぶつかり合いと、エレナの足とヤマミの杖の刃が交錯し続ける。
「ダーリンはあたしのモンだーッ!!」
転生する前から一目見て、守ってあげたくなるような銀髪の少年にときめいていた。
意外と果敢に攻めるタイプと分かったけど、それはそれで心に響く心地よさ。でも、転生してから会ってない内にヤマミが勝手にフラグ立てて寝取っていた。
どうしようもない嫉妬と悔しさで胸を満たし、その鬱憤を晴らさずにいられない。
「エレナちゃん進撃!! 五十連脚ッッ!!」
更なる猛攻エレナの鋭く繰り出される連続キックを前に、ヤマミは防ぎきれず全身を突き抜けるような衝撃を受けて吹っ飛んで屋敷をガンガンガン連続で貫いていってしまう。遥か彼方で粉塵が噴き上げられる。
「八つ当たりはなっさけないって自分で思うけど、荒ぶる感情は止められないッ! でもヤマミなら受け止めてくれると思ったから全力を出せるのッ!」
スミレには今のような八つ当たりはしない。
これまで激戦をくぐり抜けたヤマミが相手だからこそ、思いっきり気持ちをぶつけても安心できる。
寝取られて憎いから、ってのは無い。
ヤマミも純粋にナッセが好き。腹が立つけどその一途な想いは認めている。同じナッセを好きな人として互いにぶつけ合えると思ったからこそ!
「ちょっと前に、私がナッセの事なんでも分かってるみたいな事言ってたけど訂正してくれる?」
気付けば、風穴を開けまくられた屋敷を通ってヤマミが悠然と歩いてくるのが見えた。
痛々しく額から血筋を流し、あちこち打撲傷で青くなってる部位もある。ダメージは軽くないのに、彼女は真剣な顔で一歩一歩前進している。
「そう思ってたけどッ?」
「……前はそうだったわ。けど全然だった。単なる思い上がりだった…………」
ヤマミは地を蹴って杖の刃を振り下ろして、エレナのかざした腕と交差。
「私はナッセの事、分かってない! 完全に分かっていないっ!!」
鋭く煌く刃の軌跡が入り乱れて、エレナはそれでも腕、足で軽やかな体術で捌ききっていく。
そして返しとして膝蹴りをかますが、ヤマミは杖を盾に腹をガード。
「分かってないから何ッ!?」
「……だから行き違って、取り返しのつかない失敗をしそうになった」
ヤマミの爆発魔法でエレナはボカンボカン爆発の嵐に押されて後退。すかさずヤマミは「マジカル・フォール!!」と上空から杖の刃を振り下ろす。
「エレナちゃん・バックアッパーヒールキック!!」
なんとエレナは振り返って逆立ちに等しい後ろ蹴りでカカトを振り上げた!
急上昇してくるヒールキックと杖の刃が激突して、爆ぜた衝撃波が周囲に荒れ狂った!
「これからもナッセを分かろうとするけど完全には分からない! 失敗も多くするかもしれない! それでも共に歩み続けるっ!!」
「ジャマミ……ッ!!」
ヤマミが激情するのをエレナは初めて見た気がした。
込められた攻撃も重い。そんなナッセの事を必死に理解しようとしている一途な想いが伝わってくる。
ジャマミも恋に真剣なのねッ……!
直情になりつつあるヤマミの突きを見切って、エレナは巴投げのように背中から倒れ、その遠心力に任せてグルリと二人の位置は入れ替わり、ヤマミは逆に仰向けに倒される。
そしてエレナは上空へ高らかに振り上げた光り輝く両膝を、ヤマミのみぞおちに全体重を乗せて振り下ろす!!
「エレナちゃん・ハイアングルニーキックゥ!!」
「マジカル・ライズーッ!」
仰向けになっていたヤマミも負けじと杖の刃を地面に突き刺して『炸裂』を放って、その反動で飛び上がる!
互いゼロ距離でガンと激烈衝突し、激しい衝撃波が吹き荒れた!!
巻き起こった煙幕が収まっていくと、二人は息を切らしたまま対峙。
「全く羨ましいわッ! あたしの知らないトコで長い付き合いしてきてッ!」
「でもね、私はあなたを羨ましいと思った事がある」
「え? 嘘ッ……!」
両者は激しく格闘を繰り返し、周囲に吹き飛ぶ煙幕と共に破片が流されていく。
「エレナちゃんって今の体も、前の体も、魅惑的なスタイルしてる。綺麗な髪の色をしてる。元々胸も大きいポテンシャル。肌のハリもいい。明るくて積極的で、楽しそうに話する。喜怒哀楽も楽しそう。タイミングが良ければナッセも惚れると思う」
「おだてたって何も出ないからッ!! ダーリンってばそういうの無関心そうだしッ!」
エレナの渦を巻くような後ろ回し蹴りをヤマミは杖の柄で防ぐ。ビリビリと衝撃が突き抜ける。
「ああ見えてナッセはロリコンよ! 関係ないと思う!」
ヤマミの衝撃的発言に、エレナは「はあッ!?」と驚いた。