64話「デスゲームに参加しちゃった!③」
仮面の男は青ざめて絶句していた。
「こ、こんなはずでは……!」
たくさんモニターが拵えた放送室みたいな部屋で、仮面の男は沈むようにうなだれて頭を抱える。
城路ナッセ。この名を知らぬ権力者はいない。
見た目は銀髪のガキだが戦闘力が恐ろしいほど高く、三大奥義をも取得している。
最も要注意人物で、四首領と同格に注意を払わなければならない。
なのに気付かずにデスゲームに招いてしまった……。
天井を巡回している警備ロボも壊され、絶対開けられぬ小部屋も壊され、挙句の果てに武器も壊された。
第二クエストでもうメチャクチャだ。これではデスゲームどころではない。
《おい!! 話が違うぞ!!》
今度は別のモニターからヤクザこと剛毅イワンが怒鳴りつけてきた。
《まさか城路ナッセをゲストに呼び込むとか、てめぇ裏切るつもりか!?》
「い、いいえ!! あ、あれは想定外ですっ!!」
《本当か?》
「あれは一般人をランダムでゲストに召喚されるはずなので、まさかナッセが来るとは……」
イワンは納得したか溜息をついて、その辺のイスに座り込んだ。
足元にガスが立ち込めている。もわもわ……。
《道楽に付き合ってやってるんだ。そもそもこのデスゲームは出来レース。ゲスト以外は凶悪犯罪者。もとより死刑囚。そのまま死刑にするよりゲームに使った方が面白いと企画しただろう? 全く……》
仮面の男は頷く。そうヤクザとはグルだったのだ。
ここはヤクザの言う通り、道楽の為に莫大な額をはたいて建てた特注の施設だ。
そして六人以上の参加者によるデスゲームを幾度もなく開催してきたのだ。
ナッセは実は無作為に選ばれた一般人枠のゲストだった。
後の参加者は無期懲役や死刑を受けた極悪人だけの囚人。つまりゲストは生け贄。デスゲームを盛り上げる為のな。だから何も知らぬ一般人を選んでいたのだ。
その素人リアクションで閲覧者を楽しませてるスパイスになっていた。
そして囚人には予め、ゲームに参加すれば無条件で釈放する事を知らされていた。
『熊木バシラ』住宅に押し入って強盗殺人&暴行殺人を行ってきた。
『三峡シクラム』凄腕のハッカーで外国や銀行へ侵入して莫大な利益を得た。そして捨て犬やさらってきた犬などを虐待して動画に流した。最後に飼い主とトラブルを起こして刺殺。警察一人を殺害。
『白田マモ』数え切れない結婚詐欺&保険殺人&毒殺。
『御船アイキ』イジメの繰り返し殺人。不良たちで気に入らない生徒を暴行殺人。薬の売買。
『大輝マロキョ』引きこもりに抗議した両親を殺害。住宅に押し入って強盗殺人。
私欲や保身の為に人を殺してきた者どもだ。面構えが違う。
しかしヤクザの人だけは開催者とグルで、最初っから死刑囚は皆殺しするという筋書きになっていた。
『剛毅イワン』筋金入りの極悪ヤクザで罪状は多いが、全てコネで揉み消してきた。表向きは善良な市民として扱われている。
手術で外見を常に変える為、本来の姿は本人も忘れた。名前も偽名。
《なぁ、ナッセというガキを謀殺しないか?》
「な、なにっ!? ほ、本気で言って……!?」
《あのガキを殺せば俺ら一躍有名人になれるぞ! あの網目レーザーなら確実に殺れる! お前にも悪くない話だろう? フフッ》
不敵に笑むヤクザはタバコを取り出し、ライターをカチッと!
ばがあああああああああああんっっ!!!!!
突然轟音が響き渡り部屋が振動して、思わずビックリしたぞ!
どっか爆発したみたいだぞ? 何があったんだ??
慌てて部屋を出ると、通路の向こうで黒煙が立ち込めていた。もわもわ。
「なっ! なんだっ!?」
他の人も恐る恐る出てきた。
なんかその内の一人が震えだして「こ、これはデスゲーム!! 油断はできませんよっ!」と言い出してきて騒然としていく。
無差別に凶行が行われるのだと畏怖したのだ。
『剛毅イワン』ガス爆発で再起不能!
黒コゲになって転がるヤクザだったものに仮面の男は愕然とした。
「はっ! ま、まさかっ!! こうなる事を見越して、小部屋に敢えて引っかかったのかっ!? こ……こんな策士とはっ!!!」
参加者の形で参入したヤクザと共謀って、ゲストの一般人や死刑囚を面白半分にリアクションさせながら徐々に追い詰めて殺していく。
そうする事で楽しめた閲覧者からの投資を受けて大儲けしていく。
それがガラガラと崩れていくのを仮面の男は感じていた。
「や……やばいぞ……! 早く国外へ逃げッ…………!」
反射的に逃げようと振り返ると、冷めた目をした黒髪の女が────!?
「ギエ────!!」
しん、と静まり返った牢獄内。
五人の死刑囚はそれを不気味に感じてか、怯えているようだ。
今まで仮面の男がひょうきんな仕草でクエストを提示し続けてきたのに、今度は打って変わって沈黙を守っている。
ヤクザが始末されて、これから本番なのだとビビっている。
「そういえば聞いた事あるわ……」
「な、なんだよ?」
地味っ子OLマモがおどおどして言い出す。もはや演技ではない。
大柄な男バシラもビクビクしている。
「デスゲームの動画はネットで流れているでしょ?」
オレ以外は頷く。
「……その生き残った最後の参加者、あれ以来見かけないでしょ? 実は秘密裏に殺されて賞金は仮面の男に戻る。そして毎回デスゲーム繰り返している、って話…………」
「う……嘘じゃねぇのかっ!?」
「まさかマジ☆ ヤバヤバ☆」
「でも確かに……ホイホイ三億円何度も出せるものではないですね……!」
一気に緊張高まって戦慄する四人。だがマモの言っている事も冗談ではない。
デスゲームの動画では次々と参加者が理不尽に殺されていって最後の脱出者もなぜか見かけない。
しかし実はヤクザが自分の容姿を手術で変えながらデスゲームに参加し続けていたのを、仮面の男以外知る由もない。
「結局みんな殺されるんだ────っ!!!」
デブのマロキョが涙目で叫び上がった。
それでみんなしどろもどろで慌てふためいて混乱に陥っていく。
すると床に水溜りがビチャビチャ広がっていく。
「ひいっ!!」
五人は竦み上がる。オレも思わず竦む。これがデスゲーム?
そうしている間に水位が徐々に上がっていってスネにまで及ぶと、みんな「うわあああああ!!」とバシャバシャ水飛沫を立てながら逃げ出していく。しかし、どこへ逃げればいいのか右往左往するしかない。
「はぁ……。仮面の男も人が悪いなぁ……。今度はひっそり水責めか」
壊れ魔法のテキオーラで溺れずに済む方法があるけど……。
目を瞑って『察知』を広げ、屋敷の構造を把握。
爆発のせいで水道が壊れていて溢れ出しているのも察したが、これも仮面の男が意図的に起こしたのだろうと推測。ヤクザは既に死んでいる。事故に見せかけて殺されたか……。えげつねぇな……。
ガチでデスゲームとかふざけてる…………。
そうしている内に水位はヒザにまで上がっていた。
今回のデスゲームぱねぇwwwwwwwww
爆発とかマジ?wwwwwwwww
ヤクザ爆死乙wwwwwwwwwwwwwwwwwww
うっひょおwwwwwwwうはwwwwww今回凝ってるwwwwwww
水責めとかやるじゃんwwwwwwwwwww
ガチで殺しにかかってるwwwwwwwwwww
はいはいどうせナッセ生き残るんだろwwwwwww
開催者どこ行ったwwwwwwwwwww
いいぞwwwwwwwもっとやれwwwwwwwww
マモのおっぱいたまらんwwwwwwwww




