62話「デスゲームに参加しちゃった!①」
気付いたら、見知らぬ部屋にいた。
ベッドや机にノートパソコン、そしてトイレ以外は何もない部屋……。
「こ、これは一体……?」
────そう、こうなったのは梅田ヨドバシカメラへヤマミと一緒に向かう途中の事だった。
するとマンホールのフタと同じくらいの魔法陣が足元で輝いて、瞬く間に風景が切り替わって、ここにいた。
恐らく踏み込んだ者を無差別に召喚対象にする魔法陣だ。
壁をコンコン叩くと、分厚いコンクリートで容易には壊せないようになっているみたいだ。
扉は分厚い鋼鉄拵えで頑丈そうだ。内側、つまり部屋からは開けられない。
《諸君。居心地はどうですかな?》
突然パソコンのモニターに仮面をかぶった男が映った。
どこかニヤケたような仮面で、奇妙な印象を受けるぞ。道化師って感じか。
《君たちは選ばれし者。これから楽しいゲームが始まるよ》
「ゲーム?」
《ちなみに君たちの部屋は中継でネットで流れている。閲覧者は君たちの動向を見て楽しむ。ほら見てよ閲覧者が見る見る内に増えていくよ》
確かに仮面の男が映るウィンドウの他に、自分がいる部屋を映したウィンドウに閲覧者の数が添えられていて、ドンドン増えてきている。
なんか右から閲覧者のコメントが流れてくる。
面白半分にヤジを飛ばしている感じだ。あんまり気分良くないな……。
《ゲームはカンタン! この密閉された牢獄から、脱出する事!》
ここまで脱出できなさそうな牢獄に閉じ込めておいて、そういうゲームか。悪趣味だなぁ。
そう思っているとプシューッと扉が開いた。
じっとしてても仕方ないのでゲームに参加するつもりで扉をくぐる。するとカーブを描く通路が無機質で不気味に見えた。上の方で変な機械が巡回している。そんな通路を歩いていると、大きな広間で数人がゾロゾロと集まってきていた。
オレと同じように無差別にここへ召喚された人だろうか?
《ようこそ! いらっしゃいませ!! この『死の悪魔牢獄』へ!!》
なんと広場の天井近くに大きなモニターがあって、仮面の男が丁重な礼儀をして歓迎してくれた。
しかし集められた人はザワザワと不機嫌そうだ。
「どういう事だ!! こんな所で何をすればいいんだ!?」
「こんな寒い所だなんて! 早く帰してよっ!」
「……なんで、こんな回りくどい事するのかな?」
「えーヤダヤダァ☆ ミャハ何するツモ☆」
実に個性的な人が集められたと思う。
《ここを脱出できた人には更に3億円が手に入ります!!》
すると不満を言っていた人はピタリと黙った。
わっかりやすいなと思いながら、続けてモニターの仮面の話を聞く。
《まずは今日のクエストを提示しましょう! それをクリアできれば自分の部屋へ帰れます!》
「クエストだって??」
「……部屋へ帰れる?」
「ヤダヤダー☆ あたしワ分かんなーい☆ ミャハ☆」
《制限時間は3時間! それまでにクエストをクリアしてください! さもなければ、自分の部屋の扉が閉じて帰れなくなり、この辺りが危険地帯に変わってしまいますよ……》
なんと広間が赤く染まっていく。天井のレールを伝って変な機械が集合してきて警告音を鳴らしてきた。
思わず参加者は萎縮し、息を呑む。
しかしほどなくして赤い光は収まっていき、落ち着いていった。
《まずはこの広間で『免罪の鍵』を手に入れることです!! ただし、その数は六個!!》
「ええええっ!!?」
騒然とした。そりゃ、ここにいるのはオレを含め七人だからだ。
確実に一人は落ちる!! 六個を誰かに取られれば、余った人は変な機械に襲われるって事か!
急いで他の参加者は動き出して、どこかにないか探し回っていった。必死にあちこち調べて走り回るのが窺える。
すごいバラエイティ番組だな。ガチっぽく見えるぞ。
《あの……呑気にしてていいんですか? 早くしないと脱落しますよ?》
仮面の人が心配そうに言ってくれてる?
まぁ所詮ゲームだしな。探すっか。オレも歩き出した。
「ぬおおおおおおお!!!」
なんと大柄な男が荷物をどかしていく。すると奥に宝箱が!
すかさず大柄な男は宝箱を開けて『免罪の鍵』と思わしき銀に輝く鍵を手にした。歓喜に満ちていく。
「むっ? 渡さないぞ?」
「いやいいよ」
大柄な男は疑り深い目を向けたまま、鍵を大事そうに握って去っていく。
『熊木バシラ』
黒髪の大柄な男で筋肉質。怪力が自慢だ。性格は大雑把で傲慢な態度が窺える。
力が全てだと思っている脳筋。
今度は暗そうな細長い男が何かパスワードを打ち込んでいるのが見えた。
すると当たったのか、ガチャリと金庫みたいな箱が開けて宝箱が中にあった。やはり『免罪の鍵』が入っていた。
「ん? 渡さないよ……。早い者勝ちですからね」
こちらを睨めつけるような沈んだ視線。根暗な印象を受ける。
『三峡シクラム』
根暗で細長い男。洗っていない青髪はワカメのようになっている。猫背。疑い深くて誰にも心を許さない。
頭が良くてハッカーなどをやっている引きこもり。
「誰か助けてー!!」
なんとこちらへ女性が駆け寄ってきたぞ。地味そうな黒髪メガネのOLだが体は豊満で、走るたびに胸が揺れる。ぼよんぼよん。
「どうしたんだぞ?」
「あのね、頼まれてくれる??」
「……いいけど?」
後を付いていくと小部屋があって、扉の窓を覗くと中に宝箱がある。
扉に手をかけても硬そうで容易には開かない。
「一緒に入らないと!」
「え?」
「二人で入らないと開かないの! ホラ、足元のパネルに乗らなきゃ!」
とか言われて、オレと一緒にパネルを踏むと扉が開く。そのまま一緒に入ると、女は素早く宝箱を開けて『免罪の鍵』を手に取って小部屋をサッと出てしまう。すると扉が閉まってしまう。
ガシャン!
呆然していると、女は窓からにこやかに「おバカくん! ありがとー!」と手を振ってきた。
小部屋にはプシューッと煙が噴き出してくる。
これガスだ!
「あはっははははははははぁ!!! ばっかばっかばぁぁあ~~~っかっ!!! まぁぬけぇぇ~~~!!」
なんバカみたいな顔であざ笑ってくる。
しばらく大笑いを続けると、気が済んだか「じゃあね」と去っていった。
『白田マモ』
黒髪セミロングでメガネをかけた大人しそうな地味っ子。だが狡猾で誰かを出し抜く事にかけてはプロ級。あらゆる男女を陥れて利益を得ていた。
大人しそうな態度は計算された演技で、手馴れている。
地獄に落ちていく男をあざ笑うのが趣味。
通路を歩いていくと、褐色ぶりっ子が「キャハ☆」とぶりぶり腰を振って壁のカメラに胸をベロンと見せて、足元の宝箱が開いた。エチチチチチ!
やはり中には『免罪の鍵』が入っていてぶりっ子は「やったり☆」とはしゃぎながら、オレの横を通り過ぎていった。
『御船アイキ』
金髪ショートの褐色ギャルで現役大学生。ギリギリミニスカ、ニットに胸の谷間が見えるはだけたブラウス。
はっちゃけた性格で多くの男を魅了してきている。
既にイロイロしちゃって経験人数は多い。彼女に貢ぐ男も少なくないが搾取されてる。
なんかデブがテレビゲームをクリアする事で『免罪の鍵』を手に入れた。
『大輝マロキョ』
ゲームオタクで卑屈な性格。ボサボサ頭にチェック柄のシャツでファッションセンスは皆無。肉が大好きで一日五食でデブを維持している。更に体重増加の新記録を更新し続けている。
フィギュア収集も趣味。
最後の六人目は「あ?」とドスが効いた強面のヤクザだった。
顔面の傷が歴戦っぽく見える。
「鍵は手に入ったのかぞ?」
「……渡さんよ」
と、ポケットから鍵を取り出して見せつけると再び入れて去っていく。
これで六個かぁ……。七個目はないんだよな?
『剛毅イワン』
正真正銘ヤクザ。強面で修羅場をくぐっている。銃とナイフで抗争を生き抜いてきた。
かなり悪い事しているが表向きでは善良な市民。
《おやおやおやぁ~~!! 皆さまお疲れ様でした~~!!》
オレを含む七人は集まってた広場でモニターの仮面の男を見ていた。
なんかバカ笑いしてくれたマモとかいう地味っ子が、こちらを見てギョッと「え? 出てこれるの? やば……」と、そそくさと人影へ隠れていく。
《手に入れましたかァ~~~~~~???》
なんとオレを除いた六人はニヤッと笑いながら鍵を見せつける。
まぁ、みんな自力でそれぞれの方法で手に入れたもんな。横取りするワケにはいかないっか。
《さて今日はお疲れ様でした!! 『免罪の鍵』を自分の部屋の扉前で提示してください! これで自由に自分の扉を開けられるようになりまーす!!》
六人はそれぞれぶてぶてしく自分の部屋へ戻っていった。
取り残されたオレに、仮面の男は愉悦そうな雰囲気でふざけた踊りをし始めた。
《ざぁ~~んねんっ!! 資格なき愚者はァ~~だっつらくぅ~~!!!》
プツンと消えると、呆然してるオレが映った画面に切り替わって閲覧者のコメントが流れる。
コイツ何もしてなかったwwwwww
救えねぇ馬鹿wwwwwww自殺願望者うぇwwwwwwwwwww
wwwwwwwwwwwwwwwwww
これはwwwwwwwwww
一人だけ傍観者wwwwwww立場分かってんのかよwwww
マヌケが一人みっけwwwwwwwwwwwワロスwwwwwwwwwww
何しに来たんだコイツwwwwバカwwww
わらwwwwwwwwwwwwww
そして辺りは不穏に赤く染まっていって、変な機械が殺意の音を鳴らしながら抹殺するべき、無慈悲な銃殺刑が行われたのだった…………。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダン!!!