59話「ナッセの悪役令嬢TS転生編⑫」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
不穏な気配が徐々に大きくなってきて、その元凶となる悪しき存在がついに魔法学校へ訪れてきた。
オレはピクッと感じ取れた。
途方もなく巨大な威圧……。あのカイエンのパパさん級の…………。
「やはり来たか……」
そう、あのパパさんを倒した時からここを放置して去るワケには行かなかったからだ。
魔王勢力もここに目をつけるだろうと察していた。
だから事が終わるまで、元の世界へ帰る事はできない!
ズン!! 太く巨大な黒い馬のヒヅメがグラウンドを揺らす!
魔法学校内の生徒たちは恐怖に震え青ざめていた。教授が数人取り囲むが、冷や汗を流して歯軋り。
なんと巨大な黒馬を駆る首のない騎士が兜を脇に抱え、仰々しい剣を握って現れたのだ。
その兜の目の辺りがギラリと二つ眼が光る。
「うわあああ!! マジでデュラハンだぞ────ッ!!」
巨大な威圧を放つソレをみて生徒たちは戦慄した。
「総攻撃で畳み掛けろっ!!」「おお!!」
「フルフレア!!」
「フルブリザード!!」
「フルマウンテン!!」
「フルトルネード!!」
「フルエクスプロージョン!!」
手練の教授はそれぞれ上位魔法を一斉にぶっぱなす。
地獄の業火が燃え盛り、極寒に凍てつく吹雪が吹き荒び、鋭利に尖った岩山が地響きと共に突き出て、全てを巻き込んで粉々に砕く極太竜巻がうねり、稲光を伴う極大爆発球が地面を抉りながら目標へすっ飛ぶ!!
ズオオオォォォォオオオオンッッ!!!
しかしデュラハンが兜をかざすと、その中の黒い顔の口がガパッと開いて圧倒的物量の魔法を全て吸収してしまう。ズズズズ……!
口から煙がこもれでる。
「そ、そんな!」「バカな!! ありえんっ!?」「上位魔法を全て吸収だと!?」「こいつヤバいっ……!!」
それぞれ絶句する教授たち。
デュラハンは「もう品切れか?」と豪快に剣を振るって、衝撃波をブオアッと放つ。それぞれ教授は「ぎゃあ!」「ぐわあ!」「うわああ!」と吹っ飛ばされ壁や地面などに叩きつけられ横たわっていく。
たったの一撃で教授たちは立ち上がれずにいた。
「魔王の幹部であるこの伝説のデュラハン・パルサー卿だ! キサマらが束になろうとも勝つ事などありえんぞっ……!」
なんと脇に抱えられた兜が喋った!? いや、あれは顔だ!!
生徒たちはガクブルで尻餅つく人もいた。逃げ出そうにも恐ろしい威圧で足が竦んで動けない。誰もが死の未来しか見えなかった。
ロシュア王子すらも青ざめて震えるばかりだ。
この世の終わりのように絶望しきった学校の面々……。
「……ヴァンパイア・カイシュウ卿を倒されたと聞いて訪れたまでだ! 誰だ!? 倒した奴は!?」
「それはオレだー!」
タタタッと駆け寄ってデュラハンへ向き合う。
怪訝そうに「……小娘、お前がか?」と唸るような声で聞いてくる。まぁ信じられないよな。と、光の剣を伸ばした。
「命知らずは散れいっ!!」
馬を駆って大剣を振るうパルサー卿を、光の剣でガギンと弾く。
割と重い!
あの手練の教授たちを一撃で叩き伏せるだけの事はある!
「ほう? 我が一撃を捌けるか!?」
通り過ぎていくかと思ったら、こちらの周囲を回り始めていく。ドドッドドッドドッドド黒馬が更に速度を増して竜巻のように渦を巻いていく。
その風圧でスカートがめくれているが気にしてる場合じゃない。
「今度は手心などせん! 全力で斬り伏せようっ!」
神経を研ぎ澄まして待ち構えていると、四方八方から剣戟が襲いかかる。
ガギッギギギッギギン、ギン、ギギッギ、ギギィン!!
その猛攻を毅然と捌ききっていく。
かなり強い魔族であるのは確かだ。あのパパさんと同等なのだろう。
魔王の幹部ってたし、このレベルの強さなら人類は太刀打ちできないかも知れない。既に音速を超えて疾走っているからな。
あの図体で狭い範囲をグルグル回ってたら遠心力がハンパねーから、マトモに戦えるはずがないのだが平然と大剣を振るってくる。
しかも音速に乗って重くなっている剣戟はパネェ! 並の戦士じゃ粉々にされっぞ!
……コイツ、相当な強さだ!
「よーし! なら、遠慮なくやっちゃうぞ!!」
「何をほざく……!?」
居合い斬りのように「スパーク!!」と横薙ぎ一閃。外側を回っていたデュラハンの腹に痛烈な一撃をめりこませた。そのまま馬もろとも、一部砕けた鎧の破片が四散させながら吹き飛ばす。
デュラハンは「がはあああっ!!」と地面を思いっきり転がりまくって向こうで粉塵を高々と巻き上げた。
「相当な速さで走ってたなら、逆に攻撃されても大ダメージだぞ」
血を垂らすデュラハンが「クソが……!」と震えながら馬と共に立ち上がり、怨嗟満ちた形相で乗馬して突進してくる。
「この痛み、万倍にして返そうぞっ!!」
音を置き去りに超高速で一気にビュゴ──────ッと加速!
一マッハ! 三マッハ!! 五マッハ!! 一〇マッハ……ッ!!
更に馬とデュラハンがダブルで盛大なオナラをブボッと噴出させて四〇マッハをも超えた────────────ッ!!
「そんな!! オナラを推進ロケット代わりに!?」「あれほどの速度なら重量は数十倍にも上る!」「マジ速すぎて見えねェ!!」「マトモに食らったら跡形も残らんぞっ!!」
「エリゼ────────ッ!!!」
一秒にも満たない間でみんなのコメントが次々聞こえて、なんかツッコミどころ満載だけど今はそれどころじゃない!
オレは剣を構え気力漲らせ────! カッ!
「流星進撃!! 二十連星──ッ!!!」
四方八方から鋭く斬り込む怒涛の流星が巨躯のデュラハンを完膚なきまでに滅多打ちにし、轟音が鳴り響く。鎧とか完全に粉々になってオレを通り過ぎた後に地面に散らばった。
頑丈な黒馬さえも木っ端微塵に肉片を爆散させた。バゴーン!
転がる兜っていうか顔が「ば……バカな……!? こ、この私が……」ゴフッと吐血。
まさか華奢なお嬢様に滅多打ちされるとは思わなかったのだろう。
「普通なら頑丈さでこの程度耐えられたのだろうが、速さが命取りとなったなぞ。これで決着はついた。もう二度とここに──……」
「パンツは……黒か…………」
羞恥心で思わず「バカ見んじゃねー!」と刀剣波で爆殺! ドガーン!!
馬や鎧の破片も、本体が死んだ事により黒い煙となって空へ流れて消えていった。
グラウンドが見る影もなく悲惨な事になってっけど大丈夫だ。教授たちで何とかなる。
その一部始終を水晶玉で見ていた黒いシルエットだけの魔王は「……面白い小娘だ!」と呟いた。
跪いていた二人の幹部は「いかがいたします?」と含み笑いしていく。
「よし! お前らまとめて行け!」
「え?」「え?」
まさか無策で放り出すとは思わず、幹部の二人は冷や汗を垂らし素っ頓狂に見開いた。
────────後日!
「よし! 勝った!」
銀河の剣を手に、ガッツポーズ。
ボッコボコにされたキマイラと死神っぽい出で立ちの幹部は「そんな……名乗りやバトルはおろか、倒されるシーンすら省略された……」とグッタリ。
ボシュンと煙に流れて散っていく。
「さっすが“剣姫エリゼ”様だァ!!」おおおおお!!!
学校から生徒たちの歓声が湧き上がる。いつの間にか二つ名もらってるし!
シンシアが「やったー!!」と抱きついてきて頬ずりされる始末。
それを魔王は水晶玉で一部始終を見て、ニヤリと笑んだ。
「フッ! 久々にやりあえる相手が現れるとはな……! そして四天王幹部など余興の一つに過ぎん! 元々、幾千年も前から余一人で充分だったのだからなっ!」
魔法の設定w(なげやり)
火の魔法「ファイア」「ハイフレイム」「フルフレア」
氷の魔法「アイス」「ハイアイシクル」「フルブリザード」
地の魔法「アース」「ハイストーン」「フルマウンテン」
風の魔法「ウィンド」「ハイストーム」「フルトルネード」
爆発の魔法「ボム」「ハイバースト」「フルエクスプロード」
光の魔法「ライト」「ハイフラッシュ」「フルシャイニング」
闇の魔法「ダーク」「ハイシャドー」「フルアビス」




