53話「ナッセの悪役令嬢TS転生編⑥」
「エリゼ様! 稽古に付き合って欲しい!!」
なんと朝一番に、目の隈を付けたロシュア王子様が、二本目の木刀を突き出して受け取れと催促してくる。
「えー嫌だ」
「ふざけるな!! 俺など眼中にないって言うのか!」
「いや別にそんなんじゃねぇよ」
すると褐色イケメンことマノリアがやってきて「やってあげればいーじゃん」とかんらかんら笑いながらやってきていた。
戸惑いながら「わ、分かった……」と木刀を受け取る。
なんか銀髪クールのメルキデスまで合流してきて、更に茶髪イケメンのギュサーまで加わってくる。ぞろぞろイケメンたちが付いてきて気が散りそうなんだが……。
青空が見える広い稽古場で、オレとロシュアは間合いを離れて対峙する。
それを離れた所でイケメンたちが興味深そうに観戦。
騎士の礼を取り、ロシュアはザッと身構える。オレは突っ立ったまま。
「……なめてるのか?」
「今日は王国の図書館行こうと思ってたしなー。ちょい早く済ませて」
「余裕ぶりやがって!」
地を蹴って、一瞬にして頭上からロシュアが木刀を振り下ろしてくる。
しかし木刀をかざして受け止めた。ガッシィン!
ロシュアは「うおおおおおああああ!!」と鬼気迫る勢いで剣戟を振るい続けるが、こっちは突っ立ったまま捌ききっていく。
本来なら並の戦士をバッタバッタ倒せるほどの腕前なんだろうけど、目に留まって見えるし一撃一撃軽い。
軽く振るうとロシュアは剣で受け止め、後方へ弾かれる。
体格的にも体重的にも向こうが全然重いんだが、それさえ覆すほどの力がオレにある。
レベルも経験も雲泥の差だ。こちとら大魔王と戦ってるし。
ロシュアはこれ以降も必死に殺す気でバシバシ木刀を振るってくるが、相変わらずオレに全部捌かれてしまう。息を切らしてゼェゼェ睨んでくるけど、オレは困惑するしかない。
「ロシュア様は本当に強いぞ。オレが人外レベルのバケモンなだけで……」
ギリッと歯軋りしてくる。
「た……確かに……おまえの父は由緒正しき剣聖……。父の下で相当鍛えこまれたのだな。まさかここまで才能があるとは、前から婚約関係を持っていたのに俺は知らなかったな……」
「まぁ、そういう事になるかな?」
「すると父はもっと強いという事か……」
「あ、あの、いや……」
なーんか勘違いしだしてきた。
実際は縛りがあったものの父にも勝った。でも黙っておこ。余計ややこしくなる。
「だからこそ! 婚約者として、未来の妻となる方に負けられるか!!」
再び剣戟を交わしていく。
ロシュアの剣にはプライドと誇りを乗せて打ち込んでいるのが感じ取れた。
王族だけあって、しっかりした太刀筋している。
オーラも魔法力もバランスいいし、それを混ぜてエーテルに変換する技術も相当なもんだ。
「王様は強いの?」
「当たり前だ!! 代々伝わる勇者の家系!! 俺はその第三王子だ!! 第一王子はもっと強い!!」
「すげぇな! オレより強いのか?」
ロシュアは剣を止め、なんか戸惑いながら「……うん、たぶん?」と自信なく答える。
「必死に打ち込んで強いのもわかる。だが今はまだ戦争などの実戦の経験がない。稽古されただけの剣では素直すぎるかなぁ……?」
「知った風な事を!! 王国剣!! 烈光閃剣斬ッッ!!」
本気で人を殺しかねない必殺技を放ってきた。閃光がごとく眩い超高速のひと振り。
それは分厚い鋼鉄すら切断するほどの威力だァァァァ!!
「まぁ、全然大丈夫だけど」
軽々と払い除ける。あっさり破られロシュアは「ぐう!」と呻く。
「くそおおおおおお!!!」
必死に歯を剥き出しに激しい剣戟をバシバシ打ち込んでくる。それを捌き続けていると、だんだんダレてきた……。
「こら!! お前ら何をしているか!?」
びっくりして振り向くと、赤髪のイケメンがズカズカ歩いてきた。
ロシュアは舌打ちし「稽古をつけてもらっている! 邪魔するな!」と返す。
「済みませんですわ。どなたかご存知じゃありませんけれど」
「うん? ああ、オレはカイエンだ。しかしロシュア様。王子として少々大人気ないではないかな? しかも相手は女性であり婚約者だろう?」
「コイツ強いんだよ! 全力出してるのに全然平気なツラしてんだよ!」
カイエンはこちらを見やる。うわ、緊張する。
「そうか? 確かに見た目はそんな強そうには見えないではあるが、相当な手練と見える。しかし今日はここまでにしておけ。婚約者がキズモノとなったら諍いが起こる」
「いやぁ気にしねぇぞ?」
「ほら! そう言ってるじゃないか!!」
つかロシュア取り乱してて王子様らしからぬキャラになってるな。
仕方ないな……。
「一本取られるまで付き合うぞ!」
「ああ。そうこなくちゃな」
ため息をつきながら引き下がっていくカイエン。すまねぇ。
ロシュアは「ぬうおおおおああああ!!」とキャラ崩壊するレベルで吠え、大地を揺らすほど凄まじいエーテルを噴き上げた。たちまち木刀が輝きだしたぞ。
そして全身全霊の超高速疾走による突進で大地が爆発。エーテルの尾を引きながら凄まじい一太刀が振り下ろされてくるが、オレは構えぬままだ。
「きええええいっ!! 王国剣最大奥義・烈光天降剣斬っっ!!!」
「いたっ!」 バベキッ!!
オレの頭上でロシュアの輝く木刀が折れ、切っ先が超高速で飛び散る。
カイエンはそれをパシッと受け止める。シュウウ……煙が漏れる。
「はい一本取られましたわ。これにてお邪魔しますわ」
礼儀作法で礼して、引き下がっていく。
「待て!! わざと受けたな!!」
「わかる?」
とぼけ顔で舌を出す。ロシュアは悔しくてたまらずワナワナ震える。
全身全霊の奥義食らっても平然としてるものだから納得いかないんだろうけど、いい加減にして欲しい。
「ロシュア様はシンシアと結ばれるべき存在。オレなどのような悪役令嬢に構ってもしょうがないはず」
「悪役令嬢? 何言ってんだ? っていうか平民などと結ばれるとか、ふざけているのか?」
あーそっか。オレはここをゲームの世界だと思っている。
けど、こいつらには本気の人生。ゲームじゃシンシアと恋仲になって結ばれるハッピーエンドになるはずが、フラグも何もないから平民にしか見えていないのか……。
あくまでオレが悪役令嬢だからこそ成り立つフラグであって、それがなくなればシンシアとのハッピーエンドがなくなるのは必然。
「ふっふっふ! おーっほほほ!! シンシアなど平民ですわね!! いつもいじめてますわ! 助けにいらさないんですの?」
「ウソつけ、おまえら仲良しこよしだろ! 見てたぞ! 楽しそうにしやがって!」
「……そーですよね」
しまったな。そのまま悪役令嬢やりきって、捕まる時に逃げればよかったのに!
オレほどのレベルならそれも容易いだろう。そこまで考えてなかったや。
「あっはははは!!! エリゼお嬢さん、おもしれぇ!!」
「あの奥義でも無傷とは、ますます気になりましたよ」
「オイラもビックリだぞー!! すっげぇ強いんだな!」
なんかマノリア、メルキデス、ギュサー笑ってるよ。
ワイワイ和気藹々だ。カイエンは「もういいだろ? ここまでにしな」と首を振る。
ロシュアは「分かった」と木刀を落とす。カラン!
「婚約破棄していい。オレじゃ王族のロシュア様には合わねぇ……。もっとそれ相応の気品溢れる人と結ばれるべきなんだ」
「破棄などするか!」
「へ?」
ロシュアは固く拳に握ってメラメラ燃えてきて、睨んでくる。
「俺が、俺が!! お前にふさわしい婚約者となってやる!! だから待っておれ!! お前はもう俺のモノだ!!」
「おい! ちょっと待て……! 待て待て待てーっ!!!」
そのままロシュアはプンスカプンで歩き去っていった。
……なんかこじらせてねぇ?
思ったよりめんどくさい方向へいってないか? これ?