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52話「ナッセの悪役令嬢TS転生編⑤」

 魔法学校の中央広場に花園。華やかな彩りの花がたくさん並んでいて、蝶々が舞っている。

 その辺のベンチに座って気分を落ち着かせていた。


「……気付いていないフリすんのも疲れるしなぁ」


 ロシュアが柱の影からこちらをギンギン凝視するように見ているからだ。ストーカーかよ。



「おやおや、君はエリゼ様でございますかな?」


 気付くと、銀髪ロングのクールイケメンがニヒルな笑顔で見下ろしてきていた。

 思わず「おめぇ誰だ?」と言いそうになるが手で口を塞いでこらえる。


「あら、どなたかご存知しませんので済みませんが……」

「僕はメルキデスです。今後お見知りおきください」


 紳士の礼儀作法で丁重に頭を下げる。


「おっほほほ。よろしくてよ。うん。メルキデスさんよろしくお願いしますわ」

「……とんでもない必殺技を披露されるとは思わなかったものでね、君に興味を持ったんだ」

「色々あってな。まぁ簡単に説明できねぇ……」

「ふふふ! 素は男勝りなのですね」


「あ! しまった! 説明できませんわ……」


 しかし腹を抱えて笑いをこらえたままメルキデスは「そんなのはいいですよ」と快く気にしないでくれた。

 ってか、これ主人公シンシアがやるイベントじゃなかったっけ?


「ってかシンシアさんと仲良くやらなくていいの?」

「ああ。シンシアさんか。それよりも君に興味が沸いてね……」

「えぇ…………」

「心外だな。でもまぁ無理もないか。ロシュア王子様の婚約者だそうですし」

「いや関係ねぇぞ? あんま仲良くないし、いずれ婚約破棄されるんじゃねぇかな?」


 メルキデスは「ほぉ?」と益々興味深そうだ。

 その話を聞いていたロシュアはガガ────────ンと電撃が迸るくらいショックを受けた。相手にされていないと動揺していく。

 先ほどの奥義もあって、自分など取るに足らない存在と見下しているんだ……。

 もはや自分のプライドを打ち砕かれたロシュアは恐ろしい形相で歯軋りして、歩き去っていった。



 その夕方。ロシュアは「うおりゃあああああっ!!」と一人、稽古場でめいいっぱい模型に剣を打ち込んでいた。


「絶対、エリゼ様より強くなって見返してやるーっ!」


 もはや盲目的になって、自分が汚れているのも忘れて「うりゃああああああっ!!」とバシビシ!

 通りかかった生徒はビクッとおののいていた。



 その夜。妙に手を繋いでくれるシンシアと一緒に、学生寮の廊下を歩いていた。

 なんか懐っこく身を寄せてきてるけど、女友達として普通なのかな……?


「明日またな、ですわ」

「ええ。名残惜しいですが、おやすみございます……」

「ああ。いえ、おやすみでございますわ。シンシアさん」


 するとシンシアは首を振る。


「シンシアって呼んでくれる?」

「ああ、うん……。シンシア」

「えへへ! やったー!! ……エリゼ! また明日ねっ!」

「また明日ー!」


 シンシアと手を振り合って、自分の部屋へ帰っていった。

 なんだかんだ友達になれたようだぞ。まぁシンシアは平民生まれだから、他と馴染めなくて困ってたしな。オレだって平民なのになぁ……。エリゼ自身は貴族の設定だけど。


 自分の部屋のベッドへ腰掛けると、ゲームもなにもない事にガックリ。


「……ヒマだ! 週末に図書館行こか。なにか方法あるかも知んねぇ」


 ばったりベッドへ寝付いてぐーぐーグッスリ…………。

 その間もロシュアは満月を背景に「うがああああああああっ!」とビシバシ!




 流れるように日々が流れ、週末の休みになると図書館へ歩いていく。

 取り巻き悪女トリオはオレを見るなりヒソヒソ。気にせず通り過ぎた。


「そういやロシュアって、サボるようになったなー。ゲームじゃそんなキャラじゃなかったのにな」


 するとドン、ぶつかった感触がして「うわぁ!」と茶髪のチビが吹っ飛んでコロコロ床を転がった。


「大丈夫か?」

「ああ。すまねぇ……」

「考え事してて悪かった」


 手を貸して、立ち上がらせる。すると腰あたりをパンパン払って、こちらへニカッと笑う。


「初めまして! オイラ、ギュサーってんだ! よろしくなー!」

「オ……あたしはエリゼでございますわ。よろしくお願いしゅうございますわ」


 ギュッと握手。


「おまえ、貴族様なのに変わりもんだなー! でもその方が話しやすいぞ」

「ああ。オレもそう思う」

「へへっ! いいなそれ、今ヒマかー?」

「……いや図書館へ行こうと」

「へー! さっすがお嬢様だなー。オイラ勉強苦手だというのに立派だなー。ヒマだったら遊ぼうぜー!」

「ああ!」


 互い友達のように手を振って別れていった。


 なんかいい気分がしたまま図書館へ着くと、膨大な本が詰まった高い本棚の多さに驚かされた。

 ……なんか幸先不安。すぐにでも元の世界に戻りたいのに!

 司書の婆さんがカウンターで静かに佇んでいる。


「済みませんわ。異世界に関する本はないですか? ないでございますか?」


 なんか瞑っていた目がチラリとこちらを見た。

 挙げた杖である方向へ指してくれた。


「ありがとう。おばあさん」

「ここでは静かに」


 っと、走りそうになった。

 杖が指した方向へ行くと、見慣れない文字ではあるが確かに異世界と書かれている。本棚が高すぎてハシゴがいる状況になった時、周りを歩いたが使っている人が多くて借りれなかった。

 元の場所へ戻って、キョロキョロ見渡して誰もいない事を確認して意を決して気合いを入れた。


「んっ!」


 足元にポコポコと淡く灯る花畑が広がり二枚の羽を背中から広げて、金髪が銀髪へと変わってロールがスラッとロングに解けてしまう。

 フワーっと浮いて、高い本棚まで届くと本を取り出してパラパラ開く。

 浮遊手裏剣は一瞬、足場替わりの盾も数十秒しか持たないし、浮遊するしかないから妖精王が適正だった。


 今更だが、オレは妖精王になれるんだ。

 変身すると足元に不思議な花畑が泡のように咲き乱れ続けるってエフェクト出てくる。人外だって明らかに分かるぞ。

 この状態のオレは通常形態(ノーマル)の三倍も強いぞ。

 更に不思議な能力を秘めてるぞ。第二の能力とか、そんな感じな。これは後ほど。


 手の届かない本を取る為だけに変身したけど、まぁいいや。

 今の内に調べとこ。



 なんか取り巻き悪女トリオがこそこそ本棚の物陰から覗いてきてる?

 殺意を込めて小言で「せいぜい苦しみなさいな」と吹き矢で毒塗りの針を射ってきた。物騒だな。

 でもオレの皮膚に当たる直前でパンと矢は弾け散ったぞ。


「なっ!?」

「どういう事!?」

「きいい~~!! しかも気づいてないですって~~!」


 ふっ、上位生命体に物理系の技など効かーん。

 吹き矢の針をフッフッフッフッフッと連射してきたけど全く効か──ん。


「ぜぇぜぇぜぇ……。お、覚えてなさ~~い!!」


 取り巻き悪女トリオそそくさと退散。おもしろいな。



「……うーむ。オレみたいなケースはないらしいな」


 どれもこれも世界の構造とか云々。宇宙がどうたら、精神世界の想像なんたら、異世界はワームホールなんとか、難しいのばっかだぞ。

 人格だけ元の世界へ帰る方法なんてどこにもない。


「うわああっ!」


 思わず声のした方へ見下ろすと、灰色ボサボサメガネのイケメンが尻餅をついていた。こちらを指差して「よ……妖精だ……!」とぼやく。まずい!

 変身を解き降り立つ。元通りの金髪になって緊張していると、生徒たちが何人か来た。


「妖精がどうだって?」

「その目の前のエリセ様だ! さっき妖精になってた!」

「え? エリゼ様が!?」

「どこが妖精じゃん?」

「なんだよ! 幻でも見たのか!?」


 肩透かしと生徒たちは去っていった。


「……妖精さん?」

「い、いいえ……。変身魔法でございますわ」

「飛んでましたよね?」


 浮遊手裏剣で見えない階段を登るようにスタスタと駆け上がる。

 妖精王にならなくても、足裏から具現化した光の手裏剣で空中に固定する事で空中を歩けるんだ。

 ただ、この技は一瞬なので空中でしばらくとどまる事はできない。なので歩いたり走ったりしてるんだ。


「悪いな。こうやってたんだ。誤解させてしまったな」

「そうか……。そうだよね……。僕はまぁウソつき呼ばわりされてますし」


 なんか暗いな。落ち込んでるのが目に見えてヤバい。

 まぁ昔オレもそうだったしな。


「それより人格だけを異世界に飛ばす方法知らない? 知りませんですか?」

「…………呪術にはあるかな?」

「どこにあるんだ?」

「誰かを恨んでいるんですか?」


 首を振って「いや! そんなんじゃねぇ」と否定する。


「知らない人に聞くのは悪いけど、人格を飛ばして異世界を覗けないかなと思ってるんだ」

「これはまたすごい発想ですね……。エリゼ様でしたね。僕は……マロウです」

「ああ。よろしくな。よろしくお願いしますわ」



 呪術の所まで行ったが、やはり収穫はナシだ。

 人格を飛ばして一時的に他人を乗っ取るとかなら、色々な方法で載っていた。しかし人を乗っ取っている別の人格を追い出す方法とかはなかった。

 いずれも取り憑いた悪霊や魔族を浄化する事ばかりだ。悪しき存在を光の魔法でパーッて成仏させるってくらいだ。

 オレはそもそも光属性の妖精王だしなぁ。


「ありがと。この学校以外に図書館あったりしないかな?」

「……ああ。そうですね。遠いですけどギルガッシャ────ア王国の魔法図書館に目当ての知識が見つかるかもしれませんね」

「サンキュー!」


 手を振って、図書館を後にした。

 マロウは頬を染めて「妖精エリゼ様……」とトゥンク胸をときめかしていた。



 今日もロシュアは「うがあああああ!!!」と稽古人形を相手にビシバシしていた。

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