42話「ついにリョーコの夢は叶った!!」
ステージのセンターでアイドル衣装を着たリョーコが「待たせちゃったかー!」とポーズを決めながら笑顔でウィンク!
「待ってたぞー!!」「待たせんなよ!!」「その分、盛り上げろよー!!」「うおおお斧女子! 斧女子!!」「斧・女・子!」「斧女子!!」
大歓声で湧き上がる観客はライトスティックを振りまくっている。
リョーコとトシエ、エリ、ナツミ、テルがステージでオモチャの斧を振るって踊って踊って踊りまくって歌を歌いまくる。この時の為に稽古をたくさんこなしてきたキレの良い踊りと歌……。これが斧女子グループだ。
「斧女子リョーコ!! いっくぞー!!」
明るい笑顔で踊って歌うリョーコはキラキラッと輝いていた。
……実は結構前から彼女はアイドルとして活動をしていた。そして意外にもヒットしていて、ライブ世界で斧女子が台頭してたようだぞ。
「もう、斧女子を広めるという夢叶えちゃったかー!」
カラフルな明かりが入り乱れる最中、オレは感無量と眩しいリョーコを眺め続けていた……。
彼女はいつだって明るく楽しそうで、どんな難関にもめげずに夢を叶えるまで頑張ってきたのを、一緒に見てきたからなー。
これからも輝いていきそうだ…………。
────その少し前!
オレが前座でライブをしている内に、ようやく回復できた斧女子メンバーの四人が駆けつけてくれた。
まさか二時間近くもライブさせられるとは思わなかったぞ。
終わった後、オレはイスに座ったままズ────ンと落ち込んでいた。
側で立っているアクトが「まァ、気にすんな」と陽気に背中を叩いてくれる。
「……ごめん。でも良かったよ。男とはいえ、あそこまで熱を入れられたのは君が初めてだったよ」
申し訳なさそうにジンはフォローしつつ謝ってくれた。
彼は沼田ジン。妖精王ナッセをも舞台で見事にアイドルとして操ってみせた『血脈の覚醒者』だ。これは終わった後で聞かされた。
まさかあんな強烈な操作系だとは思わなかったぞ。
「操り人形にしたのは済まなかったけど、こちらとしても落とす事だけはしたくないんだ!」
なにか強い決意を、その目から感じ取れた。
彼が話すに、ずっと前に活気あるプロデュースとして多くのアイドルを育てて見守ってきた。だがとある親しいアイドルが舞台へ行く途中で事故に遭って帰らぬ人となった。
スケジュールを無理に組み込んで、親しいアイドルを急がせてしまったが故に起きた事故……。
当然、その予定のライブは落ちた。
そんな事件が影響して、ジンは思うように仕事ができずライブを落とす事も多くなってきた。失敗を極度に恐れて慎重になりすぎた故だ。抱えるアイドルを失っていき、会社を辞めざるを得なかった。
家で閉じこもりながら親しいアイドルの事ばかり頭いっぱいになっていた。溢れる悲しみで繰り返し慟哭してきた。
ある日、泣くのも疲れて廃人のようになっていたジンは自分の部屋でボンヤリしていた。
《ジン! ジン……!》
錯覚か幻か、一度だけジンの目の前に親しいアイドルがボワッと現れてきて、明るい微笑みで抱きついてきた。
その感触が暖かくて、溢れ出すように感情が湧き、涙がとめどもなく溢れる。
《……ゴメンね。応えられなくて》
「い、いいや! これは僕の責任だッ…………!!」
《ううん。でもね、私を育ててくれたあなただもの。だから幽霊としてでも会いたかった》
ジンは見開き、そのアイドルの名前を呼んだ。
「ナッコ……!!」
《ふふ! 私は逝くけど、あなたは頑張って欲しいの。いつでも見守ってるから……》
天空へ遠のいていくナッコへ、ジンは縋るように手を伸ばし、その名を連呼し続けた──。
その時から、ジンは『血脈の覚醒者』になった。
前のようにプロデュースとして仕事はできないけど、舞台裏からアイドルを支える仕事をするようになった。おかげで成功の成功を重ねる事ができた。
その話を聞いてオレはジト目で、否定するように手を振る。
「とっさにナッコって名乗ったけど、オレ違うからね! 違うからね!?」
「分かってますよ……。けど、これは運命だと僕は思ったんだ」
「あー、さいですか……」
はは、と乾いた笑いする。
するとなんか体がムズムズしてきてオレは「う……?」と戸惑う。胸が膨らんできて、腰が細くなり、尻が大きくなっていった。後ろの髪が肩辺りまでに伸びてきた。違和感がして、股をさすると……!
「はああああ!? ない! ないぃぃぃっ!?」
男としてあるべきアソコが消えていた。代わりにあってはいけない穴が……。
オレは動揺しながらジンへ見やる。しかし否定するように首を振ってくる。
後ろからスタッフがカツカツやって来て、もう一人の人影が更に後ろからやって来た。
「な!? これは一体何ぞ??」
「ふっふっふ! これからの事態を考えて、性転換が可能な『血脈の覚醒者』を連れてきたわ」
「お見知りおきを……。私は盛典カン」
なんと背の高い青年。黒髪で肩幅が広く、スラリとした長身、着込んでいる服はピッチピチにはち切れんばかりである。するとスッと女性の体へ変わっていく。黒髪ロングに伸びて、胸が大きく膨らんで、大人な女性になってしまった。
気付けばオレは男に戻っていた。アソコも生えている。
「自分と相手の性別を入れ替える生態能力よ……」
「はた迷惑な能力だなぞ」
「私はねジンと同じように凄惨なトラウマを負って、この能力を持った。とある日────」
「待て待てっ!! 回想シーンへ入るなっつーに!!」
オレは慌てて突っ込んで遮った。
ズズイ、とカンは歩み寄って来て「コンビを組みましょう! 一流のアイドルを目指す為に!」とオレの手を両手で握ってくる。
確かにこれなら、男のオレでも本物の美少女としてアイドルをやる事は可能なのだろう。歌や踊りはジンに任せておけば完璧だ。
周囲のスタッフたちは「フフフフ……」と悪の組織よろしく不敵に笑み始めた。
ま、マジでアイドルにする気だ……!!
「いいんだ。望まない人を無理強いしても、なんにもならないよ」
なんとジンが制止の手を伸ばしてスタッフを抑える。
食い下がらず「でも……!」と言いかけるが、ジンは首を振る。そしてこちらを見てくる。
「君だって、目指したい目的があるでしょう?」
「ああ! 異世界へ行く! もっと広い世界へ旅立つんだ!!」
「……それはいい夢ですね」
キリッと夢を語り、お互い納得してオレは後腐れなく去る事ができた。その後、アクトと一緒に観客としてリョーコたちのライブを見ていたのだった。
本当はヤマミとアクトとリョーコで一緒に異世界へ行きたかったけれど…………。
「斧女子リョーコ! こっちで頑張ってな……!」
なんとなく寂しいけど、まぁいっか! 会いたい時にまた会えるさ!
またな!
────後日!
オレの携帯にリョーコからの連絡が来た。ピロピロリン♪
つい「おお、アイドルは頑張っ……」と言いかけたトコで!
「大変だァァァァァ!! トシエがまた闇鍋カレーをォォォォ!! そのせいで今日のライブが大ピンチなんだけどォォォォォォ!!?」
血眼で絶叫するリョーコの後ろで、死屍累々と横たわるアイドルたちとスタッフ。
オレは冷めた顔で携帯をそっと切った。プツン……!
斧女子メンバー紹介!
『小野寺リョーコ』(戦士)
金髪おかっぱ。巨乳。サバサバした明るくて元気いっぱいな性格。
斧女子を普及させるのが夢。斧がこだわりの武器。
三度の飯より、たこ焼きが好き。少年漫画が好きだが、密かにBLも好き。
仮想対戦の重賞大会であるグレイドA級の『大阪杯』を優勝した一冠創作士。
世界大戦で戦い抜いた高レベルの戦士だけあって威力値が高い。
必殺技は「いっせーの」でオーラを凝縮増幅させてからの三種の異なる技を繰り出す。更に「もう一丁」で連発可能。
クラッシュバスター(極限に高めた炸裂による一撃を繰り出す一撃必殺)
スラッシュスレイヤー(大きな三日月の刃を飛ばす遠距離攻撃)
ローリングデストロイヤー(風車のように自ら回転して連続攻撃をした後に最後の一撃で粉砕する)
威力値:148000
『佐松エリ(戦士)』
緑のパンチパーマじゃん。スタイル抜群で巨乳じゃん。あと金持ちじゃん。
二刀流の片手斧で戦う斧女子じゃん!
威力値:6600
『鶴岡トシエ(戦士)』
黒髪ロングってカンジ。スラッと長身で尻と胸がデカいカンジ。
剣の刀身並みに長い刃が特徴の斧を振り回してぶったぎる斧女子ってカンジー!
とんでもなく絶望的なメシマズってカンジ! 失礼しちゃうカンジ!
威力値:7430
『駿河ナツミ(戦士)』
ジト目っぽい据わった目が特徴。褐色肌。セミロング金髪。棒のついた飴玉を咥えている。
大男が両手で持つ超重量斧を片手で軽々と振り回す斧女子。
重量の影響を受けない&視界に映る物体の重量が視える『血脈の覚醒者』。
実はリョーコに次いでメンバー最強。テルの本当の正体を見抜いている。
威力値:42000
『佐々木テル(戦士)』
猫の獣人で異世界人。猫耳の栗色のミディアムボブの女の子。猫の尻尾で気持ちが出る。
ワケがあって特別に人語をしゃべれない。でも人語は理解できる。
未だ不明な部分が多い。
威力値:7000