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41話「ナッコちゃんの殺陣ライブ!」

《では今から新人による前座ライブを行います!!》


 さらっと新人にしやがったな……! あの野郎……ッ!

 しかしライブ場は起伏が起きるように歓声が沸き上がってくる。なんだかんだで楽しみらしいのが分かってくる。やれやれしょうがねぇな。

 アクトは壁で大の字になってるし。


 オレは腹をくくって深呼吸した。すーはー!



 ステージに色々な明かりが付き、いくつかのスポットライトが目標を探すように泳いでいる。

 オレは側面からゆっくりと歩きながら出てくると、足元の花畑も続くように咲き乱れ続ける。観客は「おおっ!!」と声があがっていく。

 中心へ来ると立ち止まって、観客の方へ向き直ってペコリとお辞儀する。そして女性っぽく首を傾げながら微笑みつつ手を振る。


 観客の目には、ちっちゃくてスレンダー体型の、銀髪ツインテール美少女。アイドル衣装は白い花を象徴するかのような純白なミニスカ。裾が花びらのように分岐している。花を模したブーツ。背中からは妖精にも見える二枚羽。そして足元の急速に咲き乱れ続ける神秘的な花畑……。


「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 観客は完全にオレを美少女だと思ってて、興奮して大歓声で湧く。まさか男だとは思うまい……。

 リョーコはどんな歌でも踊りでもなんでもいいってたけど、どうすりゃいいんだよ!? 歌も踊りも何も知らんぞ!


「オ……あたしは朝春(アサハル)ナッコです! し、新人だけど落ちるの確定で力不足で」

《バッチ大丈夫でーす!! 採用の大大大採用でーす!!》

「「「当たり前だろおおおおおおおおおお!!!!」」」


 スタッフてめぇ……! どさくさ紛れにアイドル加入させようとしがる!

 便乗する観客も観客だ!

 くそ! こうなったらドラゴンオーブの必殺技『つるかめ波』の真似事でぶち壊すぞ!!



 舞台裏にいるスタッフ数名が、とある人にボソボソ。


「……任せて。この『血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)』の生態能力で」


 彼は沼田(ヌマタ)ジン。落ち着き払った青年で、沈んだような表情で目元にクマが窺える。

 決して表には出てこないが、アイドル事務所にとっては欠かせない存在。これまで会社を支えてきた生態能力は恐るべきものがあったからだ。


朝春(アサハル)ナッコちゃん……踊るよ! 奏でるから!」


 ジンは両手を掲げると、指揮者になったかのように軽やかに複雑に踊らし始めた。

 すると表舞台にいるナッセは踊り始めていく。



「な、なんだぞ!?」

《歌うよ! その口で!》


 どこからか聞こえた声。頭に響いてくる。

 オレの体が勝手に踊りだしていく。まるで何年も研鑽された滑らかなダンスで手足が踊っていく。と同時に自然と口から歌が流れ始めていく。

 タ、タ、タン! タタタッタン! タッタッタタン!

 まるで最盛期アイドルのように洗練された踊りで、マイクを手に明るい笑顔で美しい歌声を奏でていく。

 それに同調するように観客は賑わってライトスティックを振り続けていく。


 な……!? なんなんだぞ!? 勝手に踊るし歌ってしまう!!

 つか歌詞も踊りをあたかも知ってるかのように動いてしまう。しかも声色が美しく奏でられてて自分でもウットリしてしまうほどだ。



 舞台裏のスタッフたちは怪しく微笑む。


「これこそジンさんの『血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)』の生態能力よ」

「ああ。これによってアクシデントが起きても見事成功を収めてきている」

「ジンさんは歴代のアイドルを網羅し、数多のライブを熟知しているほどの重度オタク。男ゆえに自らアイドルになって踊ったり歌ったりできないが、この生態能力によってセンス皆無のオンチなアイドルも、踊りが壊滅的にヘタクソなアイドルも超一流並に活躍できるのよ!」


「まぁ……確かに超強力だけど、ジンにとって魅力的ラインを超えたアイドルにしか操作の対象できない上に、操作の言動はアイドル活動のみに限定される」

「それでも複数人のグループをまるごと操作できるってのも相当なものよ」

「……だな」



 オレは焦っていた。これほど強力な操作系は未だ見た事がない。

 上位生命体である妖精王であっても逆らえるような動きができないのだ。できなくもないが、かなり無理しないと抜け出せない。


 ってか、いつまで続けんの? 小一時間やらされてシンドいんだけど??



 すると、遥か後ろで闇に紛れてストーカーっぽい怪しい男がバズーカ砲みたいなの構えているのが見えた。誰も気付いていない。オレだけが暗視できる。やべぇ!


「俺を愛してくれないアイドルなんか死ねぇぇぇぇえ!!!!」


 ちょっと待たんかい!! オレとばっちりや!!


 ドカンと発砲音を響かせ、一直線に光線が伸びていく。

 しかしオレの手がとっさにかざされて光線は弾け、煌びやかな放射状の花火となってキラキラ広がっていく。

 観客もそれに同調して歓喜して「うおおおおおお!!!」とライトスティックを振りまくる。

 何度もドカンドカン撃たれたが、勝手に攻撃無効化が発動されて、逆に演出の糧となってしまった。


「…………ナッコちゃん参りました。俺、ファンになります」


 ガクリと諦めて、爽やかな笑顔でストーカーさんは涙をこぼしていく。


 おい! 勝手に自己完結すな! 感動すな! オレがやってるワケじゃないからね!?

 あと勝手にファンにならないでくれよぉぉぉぉぉぉ!!



「アイドルなど笑止!! 今ここで大惨事を起こしてくれようッ!!」


 すると、四方八方から数人忍者が飛び出してきて、オレへ一斉に襲撃してくる!

 アイドル憎しで殺気立っていて血眼だ。なんで!?

 しかし、オレは軽やかに踊ったまま『念力組手』を応用しながら、忍者たちの嵐のような手裏剣、矢、刀による猛攻を、オレは滑らかに回避し、払い、受け流す。


 そんな過激なライブに観客は興奮して大音響で応援してくる。


「くそー!! 新人のクセにッ!!」

「ライバル会社の依頼を失敗してたまるか!」

「なんとしても始末しろ!」

「斧女子アイドルを潰そうと思ってたのに、新人一人に踊らされるなど!!」


 踊らされてんのオレもだよ!! つかアンタら、このタイミングで襲撃しないでくれる!?

 いつから殺陣(たて)ライブになってんだよ!!?

 いい加減イヤになるんだけどぉぉぉぉお!!?


 ヤケになってかかってくる忍者どもを『念力組手』を応用して軽やかに投げ飛ばし、ことごとくステージ上に転がしていく。見た目的に合気道のような挙動だ。

 踊りながら物騒な手裏剣や刀などを拾い上げると、ポンとハトや花に変えて演出の一環に変えてしまう。


「がふっ!」「くそ……!」「む、無念!」「し、しかし……」「ああ!」


 武器も無効化されて完敗した忍者たちは感動して涙を流していく。

 こういう殺気立った暗殺をもモノともせず、明るく輝く美少女ナッコの楽しそうなライブを続ける姿に心を打たれたようだった。


「ナッコちゃん……参りました……! ファンになります…………!」


 仰向けのまま爽やかに微笑む。


 勝手に感動して、勝手にファンになるの止めろぉぉぉぉお!!!

 オレ困るんだけどぉぉぉぉぉぉぉおおお!!?

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