39話「仮想対戦……、実質引退かぞ!?」
リョーコとアクトと一緒に、受け付けに創作士カードを提示した。
職員が機器に読み取らせている時、突然ブ────ッと赤く灯って鳴り響いたぞ。
「え? ええ? え?」
戸惑うリョーコ。オレは呆然。アクトは落ち着いている。
「私も参加するわ。お願いしていいですか?」
「……え? はい。かしこまりました。ではお預からせて頂きますね」
割り込んできたヤマミが創作士カードを提示して、読み取らせてもらう。すると先程と同じくブ────ッと鳴り響いた。
オレは目を丸くして、冷や汗をかいたまま硬直。
「エレナも提示しなさい」
「なんで!? 目線の上から~!」
「そう? 対戦したくないの?」
エレナは「ぐっ!」と悔しがりながらも負けん気で提示。これまたブ────と鳴った。
「誠に申し訳ございませんが、ナッセ様、ヤマミ様、エレナ様の三名は仮想対戦センターでの対戦はご利用できません! 観戦ならできますけど……」
オレもエレナも、更にリョーコも目を丸くして、間を置いてから「ええええええっ!?」と驚いたのだった。
ヤマミは涼しい顔で「やはりね」と呟いた。
スミレもカードを提示する。ピッピと鳴って緑に灯った。
「スミレ様は対戦施設をご利用できますね」
「……みたいだな」
「ええええっ?? ナッセは仮想対戦に参加できないっ!?」
焦ったリョーコが食い入るように受け付けへ押し寄せて、カウンターに両手をついてバン!
「どういう事?? 前までナッセ参加できてたじゃん!?」
「誠に申し訳ないですが、ナッセ様の現在の種族値が一定の数値を越えている為です。ヤマミ様も同じ理由です」
「そんな!!」
アクトは後頭部を掻いて「あー妖精王かァ……」となんか察した。
「ああ、そっか……! だからか!」
「そういう事ね……」
今度はエレナが「な、なんでッ? あたしはッ??」と受け付けへ詰め寄った。
「前回に来られた時と同じ理由で、エレナさんは『血脈の覚醒者』だからです」
「あ? あ、ああ────ッ!!!」
なんか思い出して飛び上がったぞ。
ヤマミのと違い、身体を金属化する生態能力で魔法など弾いてしまう強力なヤツだったっけ?
おかげでエレナは装備など付けなくても充分に格闘が可能だ。相手が剣など持ってても問題ない。むしろ装備は重りでしかない。
誰も真似できないからチートみてぇなもんだ。
「アンタ忘れてたでしょ? まったく……」
「うぐっ!」
ジト目で腕を組んだヤマミの一言に、エレナは赤面してプルプル震えていた。
スミレは察した。
だから、ヤマミは「嫌よ」と言いながらセンターへみんなで向かったワケか。エレナちゃんは自分で忘れているから、思い出させる為に……。そしてナッセには自覚させる為。
分かってて仮想対戦センターへ誘うとか、抜け目ねーな……。
「そんな~!! これじゃ三人でチームやれないじゃん!」
「まぁ妖精王だしなぁ……」
「対戦中は絶対妖精王にならないから、ってダメなの~??」「はいダメです!」
再び聞くリョーコに、受付の人は首を振った。
度重なる激戦で妖精王として進化してたもんなぁと、苦笑い。以前マイシが出禁になった話も聞いてたから、やはりオレにも同じ事が起きたのかぁ……。
同じバケモンみてーな強さのアクトは普通に参加可能だけど。
「いいもん! 二人でやろ!! 行くわよアクト!!」
「あァ……しょうがねェな……」
ムキーッと憤るリョーコはアクトと二人で『スター新撰組』として、仮想対戦へ趣いたのだった。
オレたちは観戦する事にしたぞ。エレナは茫然自失してて上の空状態だ。
仮想空間の住宅地。多くの家や小さなビルが並ぶ町風景。
「クラッシュバスタァ────ッ!!!」
ドゴオオオォォォォォン!!
怒りを叩きつけるように、リョーコの斧が道路を穿つと大規模のクレーターに崩壊陥没。広がる破壊の嵐が周囲の建造物を粉々にしていく。巻き込まれたチームが「うわあああ!!」と致命傷を受けてドドドンと爆発して棺桶化。
その隙を突くように鋭く刺さる一直線のスナイパーのビームがリョーコの顔に迫る。が、掠りもしない。
「もう一丁……! スラッシュスレイヤ────ッ!!」
即座にリョーコは斧を振り切って、三日月型の巨大な刃を飛ばす。それは並み居る住宅地を容易く上下に切断しながら、遥か向こうのスナイパーもろとも屠る! ドン!
他の生き残っているチームは戦々恐々にビビリ始めて行く……。
「これが……世界大戦で大魔王を倒したヤツらの実力……!!」
いつの間にか接近してきたリョーコに、思わず『衛星』からの最大威力の炸裂弾で爆撃の嵐。ドガガガンと大爆発を重ねるが、何事もなかったかのようにリョーコが爆煙を突き抜けてくる。
「な……ッ!?」
防御力も信じられないぐらい硬い! 気付いた時は胴を断たれていた!
「…………ッ!!」
ドン! 棺桶化の爆発を背景に、リョーコは凛々しく直立不動。
「こ、これが!! グレイドA級の『大阪杯』を優勝した一冠創作士!
そしてナッセと共に大魔王と戦い抜いてきた力なのか────ッ!? 威力値が二万以上のA級創作士たちを相手に、圧倒的力の差を見せつけてゲームセットだぁ────ッ!!」
「ううむ……。一冠創作士と言うが、実質的に世界レベルの創作士と言っても過言ではないでしょう」
「ですよねー! 完全にリョーコとアクトの独壇場ですー!!」
観戦していた創作士は戦慄して冷や汗滲む。
そしてほとんどのチームはこれが『試合』ではなく『捕食者の狩場』なのだと悟ってしまった……。
「さ、ドンドン行くわよー!!」
ストレス解消とばかりにリョーコは士気高揚と、次の試合に臨む。
アクトは冷静に「こりゃァ、止められねェな」と苦笑い。
すると仮想フィールドに出るなり、複数いた対戦相手チームが揃ってスタート時に逃亡という事態になり、試合が破綻……。
「ええええっ? なんでなんでーっ!?」
それ以降もリョーコとアクトが出ようとするたびに、全チームから避けられてしまう。
ペナルティで総ポイント減らしてでも、大魔王と闘った連中と戦いたくないって気持ちがアリアリだったぞ。
「あーもー!! なんでなのー!! 逃げんなー!!」ぷんぷん!
両拳を突き上げてプンプンするリョーコに、オレは「引き時かな」と苦笑い。
最初の試合でスカッとしただけでも、まだいいんじゃないかな……。
仮想対戦センターを出る頃は、既に真っ暗な夜になっていた。
煮え切らぬリョーコを筆頭に、アクトとスミレとエレナと解散して、オレはヤマミと一緒に帰路についた。
「……オレこっちで強くなりすぎた。もう異世界行くしかないな」
「そうなるわね」
某キャラの名台詞を真似たのだが気付かれない。夜の冷えた風は寒いぜ……。