35話「夕夏家総統継承式!②」
オレの時とは違って、今回の総統継承式は卒業式みたいな感じだったぞ。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!!
拍手の最中、ヤミザキが第三王子ダグナへなにか贈り物を渡して、二人ともペコペコ丁重にお辞儀を繰り返し合っていた。
そして今度はヤミザキが引き下がり、ダグナが壇の前に立ちペコリとお辞儀。
色々丁重な挨拶を述べて、再びお辞儀すると総統の椅子へ初めて座り込んだ。湧き上がる歓声と拍手。カメラのフラッシュも繰り返された。
ヤマミがかいつまんで説明してくれた。
これまでのようにヤミザキが器を乗り換えていく儀式じゃないので、正式に二代目総統としてダグナが新しく夕夏家を次の世代へ引き継ぐ事になっていくらしい。
そしてヤミザキはダクライと共に総統を補佐する役目となり、新総統ダグナを支えていく事にした。
それに第一王子コクアと第二王子ブラクロは継承資格を辞退していた。
むしろダグナが引き継ぐ事に賛成していたので、これといったトラブルもなくスムーズに継承が行えた。財産も権力もダグナが持つ事になるが、みんなから信望が厚い人格者である為に何らも問題もない。
「終わったな……」
「そうね」
ホッと胸を撫で下ろせた。
当然ながら、オレが夕夏家総統になる事もない。器の継承もない。夕夏家はこれから新しく家系を築いていくのだ。
あの後、色々と長々と繰り返してたが継承式は無事に終わった。
別の会場で豪勢な料理が並んである所へ案内されて、ワイワイガヤガヤ盛り上がっていた。
オレもヤマミも美味しい寿司をパクパク食べて堪能した。うまいっ!
骨付き肉も唐揚げもトマトもウィンナーもサラダも色々あって、腹いっぱい食べれた。
アルコールは控えたいので、オレンジジュースと茶を飲んでノドを潤した。
なんかヤマミとコクアが長話始めて、割っては入れなくなったオレは尿意を催し離れる事になった。
会場を出てやけに静かな通路を歩いてトイレへ入り込んでいく。
「ふー」
出してスッキリ。トイレを出ると、目の前のマミエがビクッと竦んだ。
オレは「お、お邪魔しています……」と頭を下げる。
確かヤマミの妹にあたるんだよな。仮想対戦後でリョーコと暮らしてたけど、来てたんだな。
しかしオレの事を嫌悪していた。
ヤミザキが乗っ取ったオレの肉体で交配する為に育てたらしいので無理もなかった。
マミエはじーっと見つめてきた後、ぎこちなく頭を下げてきた。
「あ、あの……」
「なにかな?」
緊張しているのか、どもっているようだ。もじもじ両手の指を絡ませている。
「すみません!! 妖精王見せてください!!」
「え??」
勇気を出しているのか大声で頼んできて、オレはビクッと怯んだ。
「妖精王……見たい…………!」
まだ幼げに頼んでくるのを見て、オレは戸惑った。するとどこからかウニャンがオレの肩に現れてきた。
《じゃあ『空間結界』へ移るよ》
「え? ちょっ……」
そのまま空間が歪んで、海底の底のような青い空間にオレとマミエは引きずり込まれた。
美しい珊瑚礁に囲まれた広々とした海底。そして上は放射状に光の帯が篭もれでる水面。見とれるほど美しい光景だった。
《ここでなら誰にも見られなくて済むよ。さぁさぁ》
「なんでまた唐突な……?」
《元々はナッセが起因となって心を閉ざした少女。なので逆療法で心を開いてもらう寸法さ》
マミエを見ると、こっちをキラキラした目でそわそわしていた。
「しゃーねーな……」
足元に花畑をポコポコと広げていく。先送りするかのように咲いては散っては咲いては散ってはを繰り返しながら花吹雪を吹き荒れさせていく。
そしてオレの銀髪が後ろへスラッと流れるように伸びて、両目の虹彩に星マークが浮かび、背中から花が咲くと四つの花弁が離れながら大きく拡大化。
四つの拡大化された花弁が翼のようにオレの背中で浮遊。全身から暖かく溢れ出るように膨大なフォースが高々と噴き上げていく。
「これが星天の妖精王だ」
「おおお~~~~~!!!」
マミエは更に目をキラキラさせて感激していく。
彼女にとって幻想的な天使に映って見えた。美少年で優しい笑み。純白のイメージが焼き付くほどに美麗な風貌。
「あくしゅあくしゅー!!」
「あ、うん……」
幼い女の子のように手を差し出してきたので、軽く握るとブンブン振ってくる。
なんか緩んだような幸せそうな顔だ。
「抱いていい?」「い、いいけど……」
マミエはオレに抱きついて、顔をスリスリしてご満悦。
花畑の上で花吹雪が舞っている最中、彼女にとっては本物の天使に抱きついたくらい恍惚な体験だった。
《英才教育だけ受けさせられて閉鎖的に屋敷の中で育ってきた彼女なんだ。実際の年齢より幼いのも無理ないよ。今はもう自由になってるから、心を開放させれば未来も開かれる》
「なーなー聞いていいー?」
「いいけど……?」
マミエは満面の笑顔で嬉しそうだ。
「長生できるの??」
「えっと……」
《うん。今の彼は精神生命体に近いので、エルフのように数百年も長生きするよ》
「へー!! しゅごーい!!」
オレはウニャンへ顔を向けて「そうなのか?」と聞く。
《今はまだ妖精王としては誕生したてだから、ベースとなる肉体を覆って顕現化されてるからエルフと同じような状態になっているんだ》
「ちょっと待って! 本物のエルフもそうなのか??」
《うん。仙人のように精神界に踏み入れてる状態だから、実際の肉体にも影響を及ぼして寿命が延びるんだ。人間でも熟練した魔道士なら一五〇年そこそこかな》
「そうなのか……」
エルフも実際肉体だけなら、オレたち人間と同じ寿命なんかな?
《あ、そうそう。物質界の肉体は脆いからね。そのままで数百年も生きれるワケないよ。亀のように心拍や代謝をコントロールできる生き物でもない限りね》
「初めて聞いたぞ……」
《あくまで妖精王状態でのみベースとなる肉体の寿命が伸びるだけだから、人間の状態だと熟練した魔道士のようにちょい長いだけかな?》
なんかホッとした。
もしこれから長生きするんだったら、オレとヤマミ以外は年老いていなくなってしまう。そういうのは嫌だ。
「ねぇ、妖精王もハゲたり太ったりするオッサンになるの??」
「え?」
不安そうなマミエの質問にオレは目を丸くした。オッサンって……。
《ならないよ。妖精王という種族の為、エルフのように美形のまま天寿を全うする運命だからね》
「それすごーい! ずっとイケメンなんだねー!!」
《そうだよ》
ぎゅうっと強く抱きついて顔をスリスリして堪能しまくってくる。
元いたオレはオッサンになっていったなぁ。ヒゲも生えてきて……。
「あ、そういやヒゲ生えてこないな」
《身体の作りも変わってしまったからね。ヒゲやワキ毛は永久に生えないよ。銀髪になったのもそういうワケさ》
「じゃあヒゲ処理しなくてもいいんだな……」
せっかく買い置きしたヒゲ剃りが無駄になったなぞ……。
「どういう事!?」
なんと黒い花吹雪の渦から現れたヤマミが厳しい顔に!! キッ!
やっべー修羅場不可避!! ひえええ!!!