34話「夕夏家総統継承式!①」
夏休みも終わって残暑の九月。秋へと移行していく季節だ。
オレとヤマミはいつもの通り、アニマンガー学院から帰ってきてマンションの玄関へ入っていくと無数の郵便受けに目が行く。オレとヤマミのトコに封筒が届けられていた。
共に同じ封筒だったので手に取ると、夕夏家本家からだった……。
「『総統継承式』の招待状ね」
「げっ! ま、まさかオレに??」
嫌な思い出しかないぞ。
かつて四首領ヤミザキがオレの体を器にしようと、強引に総統継承式に召喚して狙われた事があった。しかしノーヴェンの機転とヤマミの時空間魔法で辛うじて逃れられた。
もしあのままだと、オレの体はヤミザキに乗っ取られて死んでいた。
……でも上位生命体である妖精王には乗っ取りが効かないんだったっけ?
結局、世界大戦でも強引に乗っ取ろうとしてきたが、オレの中の『運命の鍵』ことヒカリがルールに則って弾いてくれた。
失敗したとは言え、ヤミザキの異常な執着には身震いしてしまう。
そのせいで少なからずトラウマがある。
「嫌なら、見ずに破いてもいいわよ?」
ヤマミに言われて迷った。間を置いた後、首を振った。
そしてオレの部屋でヤマミと一緒に封筒を開ける事にした。ゴクリと生唾を飲み込み、緊張感のままに中の用紙を取り出す。折り畳みを広げると、やはり総統継承式の事が書かれていた。
「参加は自由。出席か欠席かどちらかにマルを付けて付属の封筒に入れて送り返す、って事ね」
確かにもう一つの封筒が入っていた。送り返す用のだ。
内容を恐る恐る読んでみたが、継承する相手は決まっていたようで安心した。しかしまさかあの人とは……。
終戦後に夕夏家の身内で色々話し合った結果らしい……。
継承式において、当の現総統のヤミザキによる『赤い刻印』による器の継承は撤廃されているなど前提も書かれていた。
つまりヤミザキは今の器を最後に、自ら天寿を全うする気だ。
「一日千秋の想いの果てにヒカリと再会できたもんな……」
「ええ……」
なんとなく安堵し、口元が綻んだ。それにヤマミも快く頷く。
ペンを手に取り、出席にマルを描いた。送り返しの封筒に入れて、マンション付近のポストに投函しておいた。
その頃は晩になっていて、ふうと一息。
────九月五日土曜日。総統継承式当日。
厳かな雰囲気の下、オレとヤマミは正装を着て出席した。
スーツを着て、ネクタイ締めて、髪の毛を整えるとか、慣れないなぁ……。
なんか殴り込みが嘘のように思えるくらい、広大な屋敷には多くの人が集まってきていた。
ハゲのコンパチ男だったものも多かったけど、今はもう『赤い刻印』を解除されているので参加したい人なんだろう。それにしても多いな。
「緊張するなぁ……」
「そうね。私も」
「そうなのか?」
「うん。よくこうした身内の行事は少なくなかったけど、私は夕夏家へ反旗を翻して一人孤独で動いてた時期もあったから、久しぶりに参加するみたいな心境だからね」
「あー、そうだったな……」
オレを殺した後、ヤマミは死んで精神生命体となって一人寂しく過ごしてた時期があった。
今の並行世界で最初っから夕夏家へ謀反をチクチク繰り返してきた。今のヤマミと融合して一人になったとはいえ、さっきまで敵対していた本陣へ出席するからなぁ。
「ほっほ。これはこれは……ヤマミ様とナッセ殿ではありませんか」
「あ! あなたは……ダクライ……さん?」
なんと受付の場で黒いスーツを着た背の低い老人がペコリと会釈してきた。
大戦でアクトと死闘をしてきた超強い爺さん。その戦闘力は四首領にも匹敵する。好戦的で一時的に全盛期の肉体へ戻って戦える能力がある。更に自分だけ停止したような時間の世界へ到達する奥義まである。
「まさか御二人共出席とは感激ですぞ。きっとヤミザキ様も喜ぶでしょうな。……して可能であればお手合せもしたいものですな」
「あ……いえ……」
オレは青ざめて首を振る。
冗談じゃねぇ! アクトもギリ勝利したヤツとやりたくなんかないぞ!
ヤマミは「式場でそれは無理でしょう」とフォローしてくれて、爺さんも「そうでしょうな」と引き下がってくれた。ホッとした。
なんか好奇満ちた視線が外れない気がするんだが……、まぁ式場だしひとまず大丈夫かな。
急に暴れ出してきて「勝負しろ」とか、マイシみたいなヤツだったら怖いわ!
「おお!! 来てくれましたね!! 僕は嬉しいです!」
屋敷に入って、通路を歩いているとなんと白いスーツでコクアが嬉しそうな笑顔で駆けつけてきた。
大戦時でもアクトとリョーコと一緒に戦った相手だ。
最初はオレがヤミザキの器だから敬意を払ってるみたいな態度だったんだが、本性はオレ自身には全然敬意を払ってなくてゴミを見るみたいな感じだった。
奥義で打ち負かした後に、恨みを買っている他の創作士に命を狙われている時に、妖精王の鈴で怨念を浄化してからは、オレを尊敬するみたいな感じに変わっちゃった。
パシャッ!
なんか高そうなカメラでオレを撮った。
思わず怯んだが、コクアはにっこにこで「直撮りやりました! 僕の部屋に大きく飾れます!」と言い出してきて、引いた。
「あ、ブラクロさんとスミレさん??」
なんか男のスーツを着たスミレに女性のドレスを着たブラクロが絡んでいるようだ。
衣装があべこべだが、無理もない。
スミレは心が男で、ブラクロは心が女という話を終戦後に聞いた事があった。
「ああ。ブラクロさんがどうしても、という事でスミレさんにも招待状送ってたみたいですね」
「全く……」
「スミレさんがまさか、男だったとはなー」
体は本物の女性なんだが、まさか心が男とは思ってなかった。
やけに巨乳のリョーコに絡むのも分かる気がした。
「ああ! ち、ちょっとナッセヤマミー助けてくれぇ! あああぁぁぁ…………」
スミレがこっちに気付いて手を向けたが、ブラクロにグイグイ引っ張られていった。
多分、ブラクロの部屋へ連れ込んでいったのだろう。
…………うん、見なかった事にしよう。
「マイシ来ないのか……」ガックシ!
「カゲロ元気出せよー」
なんかカゲロ落ち込んでて、側の幼いライクが励ましている。
マイシにも招待状送ってたのかな? そんで蹴られたと?
彼女を気にかけているのは同じ竜王だからなのか、それとも…………?
ヤマミとコクアと一緒に、ぞろぞろいるコンパチ男に流されるように通路を歩き続けていった。その間も少々談笑もしていた。
なんかコクアとヤマミがオレの事で話題盛り上がってる気がしたが、なんだかなぁ。
いつも一緒のヤマミを羨ましがっているコクアも大概だよな。
式場は屋敷の中の大きな広間。
映画館のような構成で、舞台を多くの人が見れるように階段式の座席で並んでいた。違うのは座席の前に白いシーツを敷いた長机がある点だ。
そこに名前が書かれていて、オレとヤマミは隣になるようになっていた。
「僕は夕夏家王子なので、舞台の方で座るんですよ。ゆっくり見ててください」
コクアは上機嫌でバイバイと手を振って別れた。
ぞろぞろと多くの人が席についていく最中、オレは緊張しながらヤマミと静かに座っていた。長く思える時間の果てに、落ち着いた後で舞台に王子たちが並んで座り始めた。
最後に静寂の下で、ヤマミのお父さんであるヤミザキが歩いてきて壇についた。そして礼してきた。