296話「目の奥の並行世界……!?」
二〇一一年二月九日! ←もうこんな年w
大阪アニマンガー学院……。
現在では『仮想対戦・甲子園』の優勝旗一つと、『仮想対戦・明治魔導聖域』の優勝旗が二つ飾ってある。
「へぇ、優勝しまくってるのね」
訪れるは久しぶりのウニ魔女クッキー。
ナッセたち生徒が頑張って春秋大会を優勝した証に感心していた。
クッキーもテレビで観戦していたが、こうして豪華な優勝旗を見ると自分の弟子がどれだけやってきたか感慨が沸く。
「あ、師匠!?」
「クッキーさま?」
ナッセとヤマミが来るのを見計らっていたので当然ではある。
その後、喫茶店へ同行……。
「明治魔導聖域の連覇おめでとう」
「へへ、ありがとうだぞ」
師匠から祝ってもらえるのは嬉しい。
レキセーンモサ学院もジャキガン学院も優勝候補の猛者が卒業したせいで、全体的に弱体化してたっぽい。
この辺は無駄に現実っぽいな……。
それなりに強いヤツはいたが勝てない相手はいなかった。
「二年生の学院生活は順調のようだね」
「まぁ……」
「インドでの戦いと比べると緩い感じもするわね」
白猫のウニャンがトコトコ入ってくると、ピョンとクッキーの肩に乗ってくる。
くつろぐかのように座って前足をペロペロ舐める。
同じ分身なのに、別個体に見える。
「っていうか、オレたちだけは並行世界を周回してっから、ズルしてるようなもんだけどな」
「そんな事ないよ」
クッキーは首を振って否定する。
「私は視えているんだよ。過程がどうあれ、結果は大して変わらないよ。結末はハッピーエンドだから」
オレたちと違って重い制約を負わずに並行世界を渡れる彼女の言葉に重みがあるような気がした。
彼女の目には何が映っているんだろう?
そんな目を見つめていると、なんだか幻術でもかけられたかのように周囲の風景が拡大していって、目の奥の世界へ引きずり込まれる感覚を覚えた。
ズズズズズズズズズズズズズズ……!
「やったぁ!!」
「うおおおおおお!!」
リョーコと一緒に喜びを分かち合う自分。
気づけば『仮想対戦・甲子園』を優勝した時のシーンとそっくりだ。
「じゃあ約束ね」
なんとリョーコにキスしてもらった。チュッ!
胸が歓喜に跳ね上がる。抱きつかれてて大きい胸の柔らかい感触で更に嬉しい動悸。
むにゅむにゅーん。
「続きは夜かな~?」
にひひ、とリョーコの艶かしい笑顔。ヤバい! すげーエロい!
「まったく妬けちゃいマース……」
「はっはっは! ワシの若い頃もそうだったわい」
ノーヴェン、フクダリウスも拍手。
モリッカもコハクもマイシも祝ってくれている。
……しかもリョーコとヤッた記憶が浮かんできて、思わず赤面。
あんな事やこんな事……、ヤマミとは違った色っぽさと感触は忘れようがない。
「さー! 今度は異世界行きましょ!」
「お、おう!」
卒業してからリョーコと一緒に念願の異世界へ行く予定なのだ──っ!
次はどことも知れぬ岩山の荒野でオレはマイシと睨み合いをしていた。
しかもマイシは男で、赤髪がベ○ータみたいに逆立っていた。えー……。
「フン! エリート創作士に勝てないって事を教えてやろう」
「へへ……! オレだって負けねぇぞ!」
腕組みしていたマイシがス……と腰を低く構え、オレも腰を低く構えて、しばしの睨み合い。
シュバッと地を蹴って、ガッと剣を交差!
大気が爆ぜて、周囲に烈風が巻き起こった!
ガッガガガガッガガガガッガッ!!
縦横無尽に岩山の荒野を飛び回りながら剣戟を繰り広げていった。
それがしばらく続くと、オレとマイシが降り立つ。
するとマイシがボウッと竜を象るフォースを纏い、最強形態に!
「これが灼熱の火竜王マイシだ! 死ね!」
しかしオレも「はあっ!」と気合いを入れてボウッと変身!
足元に花畑を広げポコポコと急速に咲き乱れ続ける。銀髪がロングに伸び、背中から6枚の羽を浮かす。
「こっちだって進化してるんだぞッ!」
マイシとニッと笑み合う。そして再びぶつかる!! ガァンッ!!
シトシト雨が降っている。
灰色の空、黒く覆われた廃墟の都市。オレは陰鬱な気持ちで見上げていた。
廃墟の尖ったビルの残骸の上でヤマミがいた。
「大人しく死の運命を受け入れる事ね……」
「悪い。できない」
オレが魔王化するって分かっているから、ヤマミは愛情ではなく殺意を向けている。
あの時からすれ違って仲が修復できず敵対するようになった世界線……。
「抗うなんて無様ね……。そのままだと世界を滅びに導く悪魔になるというのに」
「お前もこれ以上闇に沈んで欲しくねぇ……」
「愚問ね。もう覚悟しているから」
闇落ちしきったヤマミは揺るがない。それが痛々しくて胸が締め付けられる。
「だから、今回の並行世界で止めてみせる!」
例え遠回りになろうが、必ずヤマミを永久の闇から引っ張り上げてやる、と信念を込めてオレは変身していく。
もう手遅れかも知れない。
だけどな諦めたくねぇんだ……。
「だってヤマミが大好きだから!」
眉一つも動かさない冷淡なヤマミを見据えて、駆け出す────!
するとドンと肩を叩かれて、オレは身を起こした。
「居眠りはダメだぜっ!」
「せや!」
なんと気前のいいオカマサとドラゴリラが起こしてくれたようだ。
「あ、わりぃ……寝るの遅かったもんで」
良いオカマサとドラゴリラで、リョーコ、モリッカ、フクダリウス、ノーヴェンに囲まれてて充実していた生活を送っている世界線。
するとエレナが飛びついてきた。
「やっぱあの夜良かったよねッ!」
「そんな事してねぇってのっ!」
なんと成人の巨乳エレナが子供のようにオレにほおずりしてくる。
入学してから一目惚れされて、しっつこく誘惑してくるぞ。
するとリョーコが「抜けがけダメでしょー!」と食ってかかって、エレナとボコスカ喧嘩。
ふと見渡せばヤマミとマイシがいない。なんだか寂しげな雰囲気がする。
「ああ。そっか……ヤマミは四首領ヤミザキの……」
「スパイだとバレて退学したままデース」
これからヤミザキと戦う事になる。
その時、ヤマミは大きな壁として立ちはだかる。みんな覚悟しているのだ。
「グフフッ! 相手は四首領……! 気を引き締めよう」
「そうですね」
フクダリウスの決起にモリッカは頷く。
「エレナ! 負けないからねー!」
「望むところよッ!」
エレナとリョーコはオレを奪い合う仲らしい。
二年生になってもこんな状態だ。
しかも四首領が相手だからと、これまで長引いているようだ。
だから、これから決戦するって雰囲気だぞ。
まぁ万全の四首領だからなぁ。一筋縄で行かない。
「はっ!?」
我に返ると、喫茶店の風景に戻っていた。
今でも並行世界での記憶の残滓が脳裏に焼き付いている。
ヤマミへ振り返ると呆然していた。同じ状態だったようだ……。
「こ……こんな並行世界が……!?」
「あ、ああ。まだそういう世界線があるんだな」
「そういう事ね。でも最後は望んだ結末を迎えているから大丈夫よ」
クッキーはニッコリ。
リョーコと付き合った世界線では、普通に異世界へ行けた。
男のマイシとは決着をつけて、強敵を相手に戦っている時に「がんばれナッセ……お前がナンバーワンだ」と認められる。
闇落ちヤマミへ強い信念で何度もぶつかって、ようやく蟠りが解けた。
良いオカマサとドラゴリラは信頼できる仲間で、オレたちはこれから四首領ヤミザキと戦って、なんとか勝つ。
「ああ、そっか……」
各々違った過程であっても、オレは揺るがぬ信念の下で目的を叶えたんだな……。
「ちょっと! ナッセと結ばれてない世界があるの納得いかないんだけど?」
ヤマミは冷めた顔をしていた。
オレは思わず萎縮……。クッキーは汗を垂らし「まぁまぁ」と宥める。
や、やべー! リョーコとヤッた記憶は話さん方がいいなぞ!
絶対殺される……!
並行世界とはいえ、オレと一緒になるのが当然みたいに考えているんかな?
そう思えば、この世界線は奇跡かも知れないぞ……。
「ナッセ……!」
「は、はいい!?」
見透かされたかとビクッと竦む。睨んでるんだもん。
「あっちはあっち、こっちはこっち。そうでしょ?」
「あ、ああ……。覗いただけで、別にこの世界線に影響はないもんな」
「こここそが本物の世界よ……」
見透かしてんだかしてないんだか分からんよな。
いずれ心を読めるようになりそうで怖い。
オレたちの世界はその中の一つである、と締めてみる。キリッ!
完結に向けて、これから毎日投稿します。ヽ(*´∀`)ノ