269話「クリスマス! ~リョーコ編」
とある事務所のキッチンで、黒髪ロングでスラッと長身で尻と胸がデカい美人がケーキを作っていた。斧女子メンバーの一人である鶴岡トシエだぞ。
妙に虹色なクリームで染めて、セミの幼虫をイチゴのように並べていて、たくあんにメリークリスマスを刻んで、カオスなケーキだぞ。
「クリスマスってカンジー!!」
トシエはニカッと陽気な笑みを浮かべた。
リョーコたちと斧女子メンバーで、現役アイドルをやっている。その為、今日がクリスマスとの事で最高のケーキを振舞おうと張り切ってるのだ。
「できたカンジー!」
クリスマスケーキを持ってきてテーブルに置くが、妙に誰一人いない事にトシエは首を傾げる。
「えー? さっきまでリョーコ、エリ、ナツミ、テルがいたカンジ……?」
キッチンへ入っている間にいなくなってたらしい。
入る前はワイワイガヤガヤと談笑している四人がいたというのに、どうしたカンジ?
不思議なカンジだけど、たまたま出かけているだけで帰ってくるカンジ、と一人座ってケーキを一口。パクッ!
「ぶぼぼぼぼってカンジー!」
夜の都会の最中、リョーコ、エリ、ナツミ、テルは「バイバイ」と手を振り合う。
リョーコは散会していく彼女らを見送ると、踵を返して一人歩道を歩いていく。
「トシエに悪いけど究極メシマズだもんねー」
誰だってクリスマスなのにメシマズで死にかけたくない。
なので逃げるように事務所を脱出したぞ。
「それにしても余計カップル多いわねー」
通り過ぎる公園でもカップルがイチャイチャしていて、茂みではアンアン喘ぎが聴こえてくる。
同じ歩道でもイチャイチャ男女がしてるのを見かけるのでゲンナリだ。
「あーもー! こんな事ならナッセと付き合えばよかったー!」
高卒なのにチビなナッセは、聞けば妖精王の影響で成長が遅れているだけなので身長は今でも伸びているそう。
あと五年くらいすれば170センチくらいになるってったし。
ヤマミに取られたせいで負けヒロイン気分……。
「いっそナッセを……」
ハッとして、首をブンブン振った。
寝取ればヤマミから呪詛かけられそう。あいつ闇の妖精王だし絶対ヤバい。
天王寺駅から出て、バスに乗っていくと都会がだんだん寂れていく。
普段はマンションへ帰るのだが、今回は王子町の実家へ帰る事にしたのだ。
住宅地が並ぶ中の一軒へたどり着くと「ただいまー」とドアを開ける。
「ああ、おかえりなさい」
玄関で母さんが嬉しそうな顔を見せた。
リビングダイニングへ入ると父さんが待っていて「おかえり」と笑顔で迎えてくれた。
そして、テーブルにはホールケーキ、そして七面鳥など唐揚げが並べられていた。
リョーコは「わぁ。クリスマスだぁ」と喜ぶ。
三人で囲んで「いただきます!」とクリスマスパーティーを始めたぞ。
「ナッセと付き合ってたりしないか?」
「ないない。友達だし」
父さんが聞いてきて反射的に手を振って否定する。
なんかションボリして「そうか……」と一言。ごめん。
「ナッセねー、彼女いるから手を出せないんだからー」
「まぁ、モテそうだもんねー」
ママがそう返してきてグサッとくる。
もしカレシとして連れてきたら、きっとビックリして「凄いじゃないか!」って反応きそう。
すごい嬉しそうな顔で「リョーコをよろしくね」って想像しやすい。
そう思うと申し訳なさが立って、心が痛む……。くくぅ!
「リョーコだって美人だし、モテるんじゃないか?」
リョーコは引きつって「はは……」と乾いた笑い。
こんなガサツだからカレシいないってのが効く! クリスマスだから余計効く! 泣きたい!
「それよりドイツでダウートと戦ってたんでしょ?」
「母さん、インドだよ」
「あらあら」
信じられないような事が起きてたから信じてもらえないかもしれない、だけど華を咲かせる為にインドでの出来事を話した。
アクトとナッセと一緒にインドへ向かったら罠だったりとか。
なんせ、木星の星獣を召喚して『寿・限・無・印・度』って秘術で、地球人をインド人化してたからビックリ。
実は強豪校のメンバーも来ていて、一緒に闘っても四首領ダウートには敵わなかった。辛うじて逃げ出した後に六道輪廻の六界へ流れていって畜生道で危機に陥った。でもカレンと一緒に戦って脱出に成功。
再びナッセたちと集まって、ダウートへ最終決戦へ臨む。
しかしそれすら罠で、亜空間で八武衆との戦い。
覚えてなかったけど八武衆の一人を撃破した手応えはあった。
時を速めて進化した次の世界へ飛んで、置いてきぼり喰らいそうになったがナッセの完全な『六道石』で元の世界へ帰れた。
そこでダウートと戦うも敵わず敗北必至の所、アクトが最終変身して勝てた。
最後に、なんでも願いを叶えてもらう力により全て元に戻ったと話を締めた。
「すごい体験だったな……。四首領を相手に生きてくれて何よりだ」
「あんま活躍できなかったかも」
「でも自慢の娘だよ」
素直に信じて喜んでくれるのは両親だけ。
それがリョーコにとって誇れる大好きな家族。クリスマスはそれでも充分満足。
「でもカレシ欲しいわー!」
「ははは」
最後に鬱憤吐き出して、あとは料理やケーキを楽しんで夜の時間を過ごした。
リョーコは自分の部屋へ久々に入ると、ベッドに倒れ込んだ。
「ありがとう。母さん父さん……」
惜しみない感謝を胸に寝入った。
そのしばらく後で、娘への愛がつまったクリスマスプレゼントが静かに置かれたのだった……。
──その頃、トシエは一人ソファーの上でビクンビクン生死をさまよっていた。
「だ……誰か……、助けてってカンジ……」