25話「かつてのイジメっ子と出会う!?」
夏休みもあと数日……、オレは自分の部屋で快適に漫画を読んでいた。
宿題も終わってるし、ヤマミとの旅行も済んだし、やること終わってるから焦る要素など何一つもない。
これもヤマミのおかげだなー。特に宿題は助かった。
そんな折、ピンポーンとなる。またかよ……。
「今回の夏は客多いなぞ」
ポリポリ後頭部をかきながら玄関へ向かう。
ドアを開くと背の高い男がいた。ボサボサでピンクの髪。タレ目で鼻が高いイケメン。いつもジャンパーを着ている。
オレはゾワリと激情を昂ぶらせてしまう。
「お前はッ!!」
「明桜セシュウっす」
穏やかそうにニコッと笑って手を振ってくる。
「よくも、おめおめとそのツラを見せに来たもんだな……」
荒ぶる激情で表情を険しくしたままオレは目の前の男を睨みつける。
だってコイツにはいい思い出がないぞ。
ヤマミも母も出かけているからいいんだが、セシュウとの関係は誰にも知られたくない。
「小学生の頃いじめっ子で、闘札王の超レアカード『ユニホーン・ホワイトドラゴン』を盗みやがったヤローだ!!」
「はいこれ」
なんとセシュウは『ユニホーン・ホワイトドラゴン』を渡してきた。
思わず受け取ってポカンとしてしまう。
このレアカードはオレのだ。ゲームした際の傷も当時のもので覚えている。まるで時が止まったかのように変わらない。
まるで大切に保管していたかのようだ。
「それで許してもらえるとは思っていないけどケジメはつけたかったよ」
「セシュウ……」
「むしろイジメっ子だった頃、つい君に手を出して逆にやられたしさ。レアカード盗んで転校してザマァ思ってたけど、あの後も色々あってね……」
そう、コヤツの言う通り、小学生の頃は血気盛んなガキだった。
オラオラと他のガキを恐れさせていた。なんたって創作士としては天才だった。だからこそ支配者になれると粋がってたのだろう。
何人か腕自慢のガキも大ケガ負わされ、誰も手に負えない悪童と恐れられていった。
そんな天狗になっていたセシュウはオレにもちょっかいをかけてしまった。
毎日のように金棒でゴンゴン叩いてきて嘲られたら、もう黙っていられなかったぞ。
「星光の剣!!」
星屑散らす弧を描く軌跡が金棒を砕き、切り返しの二撃目でセシュウを強打して後方の壁にめり込ませた。トドメに駆け寄ってからの一振りでガン!
彼は全治数週のケガを負った。この件でイジメは止んだ。
でもただでは起きず、こっそりオレの机の中から闘札王のレアカードを盗んで転校していった。もうどこに行ったかも分からず怒りのやり場がなくて悶々としたっけな。
「まさか小学生の頃から強いとは思ってなかったんだよ」
「ああ。師匠がいたからな」
オレは玄関の上がり框に腰掛けた。
「転校した先でも僕はイジメが止められなかった。病気だったんだろうね」
「そうか」
「でも強いヤツってゴロゴロいるんだよね。創作士でもない人にも恐喝とか色々やってしまってな、その仲間の創作士にフクロにされたよ」
そうコイツは創作士でもない普通の人間にも脅しとか平気でやる最低な人だったな。
普通、創作士でもない人に力を振るってはいけないと言う暗黙のルールがあった。
ただし強盗やテロリストなど犯罪者はその限りではない。
「そんな折、頭にツノみたいなのが出てきてな……」
「カルマホーン!?」
「そういう名前だったんだ」
全く懲りない悪意満載の人間にのみ生えるツノで、伸びきった時が魔界オンラインへ堕ちる。
それは創作士だろうが普通の人だろうが関係なく生える。
「さすがの僕も焦って悩みに悩んでしまったよ」
「今は生えてねーみたいだが……」
「僕みたいな悪人は弱者にならないといけないんだよね。なまじ強い力を持っていると図に乗る」
「まさか…………」
そういやコイツ、威圧も何もない……。
「そう僕は創作士を辞めた! 可能性の扉を閉じてね」
「おまえ……」
創作士センターでなんとか石版があって、そこで誓う事で強い力を得たりできるが、その逆もできる。
とあるきっかけで可能性の扉を開く事で人は創作士になれる。
レベルの概念が生まれ、それに伴ってオーラや魔法など特殊な力を発現させる事ができるようになる。鍛えていけば熊よりも強くなれ、馬よりも速くなれ、魚よりも泳げるようになれ、様々な可能性が広がっていく。
だが石版に「創作士を辞めたい」と誓えば、可能性の扉が閉じて一切の能力が使えなくなってしまう。
レベルの概念が消えるので、これまで得た強さがゼロになってしまう。
石版の効力ゆえに二度と創作士になれないので、決断するには相当な覚悟が必要。
「ここまでしなければ、僕はモンスター化してたんだろう」
「魔界オンラインへ堕ちて、闘争のゲームを繰り返すのは嫌だったと?」
「意外かもしれないけど、僕は戦うのが好きじゃないんだ。王様になって自分が中心となって世界が動いて欲しかったんだろうね。いわゆる唯我独尊的な」
セシュウはいつの間にかカバンケースを持ってきてパカっと開けた。
なんと闘札王の超レアカードがいっぱいだぞ!!
キラキラしてて眩しいくらいだぞ!
「あげるよ」
「え?」
「全部」
オレは一瞬固まった。
何言ってるのか分からなかったが、セシュウは本気で言っているみたいだった。
「これだけ持っていても、友達がいないんじゃね……」
寂しげな顔で呟いた。
彼が言うには、昔さんざんやらかした悪評のせいで今でも友達はいなかった。
「受け取ってもらえれば、このカードも喜ぶだろう。彼女いるらしいし山分けして遊んでくれればいい。そしてこれでこの世に未練はない」
「お、おいおいおい!! おいおいおい!! まさか!!!」
「ああ。僕には生きている意義がない。だから身辺の物を処分してる途中さ。途中でレアカード見つかったんで返そうと思ってね。そしてついでにこのカードも……」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇえ!!!」
オレはセシュウの肩を掴んでユサユサ揺さぶる。
「なんで止めるんだい? 僕と接点もあんまりないじゃないか」
オレは居ても立ってもいられず「超ナッセだぁ!!」と叫び、足元から花畑を広げ、後ろ髪を伸ばし、背中から四枚の羽を展開。周囲に眩くて凄まじいフォースが吹き荒れていく。
そして手元に花吹雪を収束させて鈴を錬成!
純白に燦々輝く鈴────!
「トゥインクルサニ──ッ! 快晴の鈴ッ!!」
その鈴を手に振り回す。すると優しい音色を鳴り響かせ、暖かい光の波紋が広げていった。
キラキラ光飛礫を撒き散らし、純白の蝶々の群れがブワッと舞い、たちまち明るい世界に満ちた。
セシュウの背中から、抑え込んでいたであろう悪意がドス黒い血液としてドバっと吹き出て霧散していく。そして彼に暖かい音色による心の安らぎが訪れた。
もはや感激しかない。とめどもなく涙が流れてきた。そして口元に柔らかい笑みが走る。
「まいりました…………」
後日、セシュウは人が変わったみたいに目をキラキラする明るいキャラとなって、全国各地で魔☆法☆少☆女をやり始めて、数々の障害を魔法で解決して人気者となったと聞いた。
あの鈴を喰らうと、どんなイジメっ子も完全完璧完遂善人になっちゃうらしいのだ。
「これが魔法少女プリキューメン・セシュウだぁ────!!」キラッキラッ☆
オレは何も知らねぇ! そして関係ねぇ!!
実は『快晴の鈴』で石板の効力を綺麗さっぱり消せる。
こんな設定ぶち壊し壊れ効果はナッセ自身も気付いていない。
「オイイイイイイイイ!!? さらっと爆弾発言してないかァァァァ!?」
キャラ紹介。
『明桜セシュウ(一般人)』
ピンクのボサボサ髪のイケメン。背が高くて鼻が高い。控えめな性格で好青年。いかなる時でもジャンパー着ている。
小学生の頃イジメっ子だった為、創作士にボコられて懲りた。今でも尾を引いていてあまり友達がいない。
かつて創作士だった。
威力値:200