227話「インドピース・如来王篇① 新世界ァ!?」
薄い水色の空だが、海面の波紋のような模様が揺ら揺ら。
遥か上空の太陽っぽいのはインド人特有の濃い顔面、放射状の閃光は時計回りに回転していた。
「え……?」音が可視化して、文字そのものが口から飛んでいく。
オレとヤマミは呆気に取られていた。
周囲は青紫の草原で、うにょうにょ蠢いている。むしろ腸の“柔毛”っぽい。
あちこち点在する木々はピンクの珊瑚礁のようで、肝臓のような赤く艶かしい実をビクンビクン胎動させている。
金魚のように赤いドレススカートのような尾を揺らせて、イチゴの群れが空を優雅に駆け抜けていた。
クラゲみたいな触手を生やした半透明のトマトがあちこちでグループごとに上下運動して浮いている。
「一巡した先の新しい世界かぞ??」
「ここ、天道の大仏が話してた極楽浄土なんじゃないの?」
「え? ここがそうか? 不気味な所なのに?」
話すたびに文字が揺ら揺ら飛んでいく。
一言一句違わず、オレが意図した言葉が具現化されているのだ。
「言葉まで飛ぶとか、奇妙だなぞ……」
瞬きしてて違和感を抱いた。
目を瞑ると、なんと色を反転させたかのような闇の世界が広がっている?
目を開けると明るい奇妙な世界。目を閉じれば不気味な闇の世界。
「ナッセ! あれを!」
ヤマミが指差すと、木々だと思ったものは人間だった?
正確に言えばピンクの珊瑚化している感じで、足が根っこ、腕と頭から枝分かれして肝臓みたいなのを生やしている。
「ウゴゴォ……」
歪んだ顔面から漏れる声。
あちこち木々は全部人間だ。いや人間だったものか。
全部ダウート側や政府軍の人間だぞ。
「ヴヴヴ……」
「アアアアアアアア……」
「モゴモゴォ……」
あちこち呻きが聞こえ、文字が揺ら揺ら飛び出してくる。
足元でバタバタ羽ばたいている花。それは鳥だった。五弁の花となってて中心から鳥頭が突き出ている感じ。やはり呻いている。
「タヌキもネズミもッ……! いや全ての動物がッ……植物化!!?」
タヌキも群れていたせいか逆さまブドウみたいになっている。ネズミはツクシ。ゾウですら赤紫の巨大サボテンで真上に黄色いバラを咲かしている。
「オレたちは……なんともない?」
「他の人は??」
妖精王だからなのだろうか、なんの影響もないようだがアクトたちはどうなんだろう?
「あァ……無事かァ?」
なんとアクトが草原を走るニシキゴイに乗っていたァ!?
いやコイではない、丸い両目と口を備えたダイコンで白ではなく、紫白の奇妙な模様。しかも下部から赤ん坊の手が無数生えていて俊敏に駆けている。ギョッとさせられる。
ピョンと飛び降りてきて相変わらずのアクトだと分かる風貌だ。
「体はなんともないのか?」
「心配いらねェよ。ここァ……、万覇羅弐ができるヤツと、オメェらみたいな上位生命体なら、植物化しないだろァ」
「知ってたの?」
怪訝なヤマミの問いに、アクトは「感覚で、なんとなァくな」と不敵に笑む。
「ここは一体どこだ? 異世界か? それとも極楽浄土か?」
「少なくとも前の宇宙とは違ェのは分かる」
「……極楽浄土じゃないの?」
アクトは見渡す。
「ある意味間違ってねェかもな。弱肉強食の摂理はここでは見られねェ……」
「なんか植物が動物化してて、動物が植物化してて……、それでその摂理がないのかぞ?」
「正確には違うァ」
何を思ったのかアクトはニンジンネズミみてーなのを取り上げてバッキンと折る。
「うわっ!」
血液や内蔵が飛び出すかと思ったら、中身は普通にニンジン。
ポイ捨てすると二つのニンジンが磁石のようにくっついて走り去ってしまう。逃げた、と言うよりも意思なく走り回っているっぽい。
感情が窺えねェ気がする。
「コイツら生物学的に生物と言わねェ……、また植物でもねェ……」
「じゃあ、なんだぞ??」
「変な例え方だがゴーレムだァ。しっくりくるの他にねェよ!」
ヤマミは訝しげに「ゴーレム?」と反芻する。
ゴーレムは本来人工物。
岩などにかりそめの命を吹き込んで、自律行動できる魔法生物。術者の命令を聞いて動く。
一般的な認識はこんな感じだぞ。
「一体誰が……??」
「まさかダウートッ?」
アクトはインド人顔面の太陽を見上げた。
「コイツの意思の下で、自由奔放に動き回っている」
「た、太陽が……??」
「うそ……?」
オレもヤマミも見上げて、視界に入れた太陽に驚く。
インド顔面の太陽はこちら地上を見下ろしたままで動く様子はない。でも意思がある?
「あァ……。コイツは如来王が一人『太陽神』さまだァ……!」
ド ンッ!!
まさかの如来王!?
その言い方だと、他にも『如来王』がいるって事なのかァ────ッ!?
「この世界は『如来王』が思った通りの創造を組み込めれる! それが極楽浄土の摂理! そして前宇宙を超えた新世界ァ……!」
ド ンッ!!
「!!!!?」
スケール違いすぎる予感ァ!!