21話「海水浴楽しむぞぉぉぉお!!」
燦々輝く太陽に澄み切った青空。地平線には白い綿毛みたいな入道雲が立ち込める。
富山県にも海水浴ができる砂浜は存在する。
無骨なコンクリートの堤防を超えると、熱いが柔らかい砂で足がサクサクする。小波が砂浜に押し寄せては引いてはの繰り返しだ。ザパーンザパーン。
オレは海パン。ヤマミのは美しい白い肌に黒いチューブトップが魅惑的。
並行世界でのハワイで泳いでた時と変わらない水着だ。
うん。さすがに並行世界から私物を持ち込めないので買い直した。
「夏休みなんだから、一度くらいは海水浴しとかんとなー!」
「ふふっ」
じゃぶじゃぶ海へ入っていくと、瑞々しい冷たさが気持ちいい。押し寄せる波が体を交互に揺すってくる。
するとバシャンと水飛沫が吹っかけられる。
気付けば、悪戯っぽく笑うヤマミ。挙げ気味の両手がイタズラを示唆していた。
「やったなー! 仕返しだー!!」ばしゃーん!
「きゃははは」
こちらも水飛沫をヤマミに吹っかけて、ヤマミは無邪気に笑う。
こうして二人でふざけあうのは楽しい。心が浮くようだ。それにヤマミはいつ見ても美しくてウットリさせられる。
何気に「えーい!」とクラゲを顔にぶつけられて、オレも二匹のクラゲを両手にヤマミへぶつける。
クラゲはゼリーのように柔らかくて春雨みたいな触手がツルツル滑ってて気持ちがいい。
よーし! クラゲ合戦だ!!
妙に数が多いので、雪合戦みたいにクラゲをぶつけ合っていくぞー。
「おい! そこは猛毒のクラゲが多いぞ!! 離れろ!!」
なんか遠くでオッサンが叫んでいる。
そーいや、この付近に人いないなぞ……。あ、向こうに人がいっぱいだ。
オレたちは全身にクラゲがまとわりついたままポカンとしていた。
「これ毒あるか分かる?」
「もう鑑定したよ。ほぼ無害。この毒は人間には通らないぞ」
「そういや『鑑定士』だったわね……」
創作士のクラスには『鑑定士』が存在している。
オレは『鍵祈手』なので、『鑑定士』本来が持つスキルを持っている。それで本物か偽物を見破ったり、品物の状態、モンスターの生態など幅広く鑑定できるらしい。
んで併用すれば敵の状態をある程度見破れる。
自分にとって危険な毒を持ってるかどうかも識別できるぞ。
「そんなバカな!!? 全身にかぶって平気なのか??」
オッサンは驚いたままザブザブ入っていって、クラゲにチョンと触れた。
「ギエ──────刺された──────!!!」
急に飛び上がって、痛む足を抱えながらピョンピョン砂浜を跳ねながらどっか行ってしまったぞ。
それを呆然と見たオレたちは互いに見合わせた。
肩に乗っているクラゲを掴むと、もう片方の手で触手を掴んで滑らすように引っ張るとすっぽ抜ける。
「ああそっか。オレたちの防御力が高すぎてクラゲのトゲが全く刺さらないんだ」
「本で読んだ事あるわ……。クラゲの触手は獲物を捕らえる為に刺胞から刺糸を射出して毒を注入するものなのね。このクラゲは猛毒持ってるらしいアンドンクラゲね」
「おー物知りだなぞ」
ブラーンとぶら下げると、驚くほど透明で触手が長──いクラゲだぞ。
ヤマミは体についたクラゲをペシンペシン払い落としていく。
クラゲは粉々になっていた。合戦したせいでそこらじゅう死屍累々だ。
「シャバババ──ッ!! バカな人間が二人、美味しそうだぜ──ッ!! いただきま──すッ!!」
「美味しそう? まぁ、オレたちはクラゲ食えないしなぁ。どうぞ」
「もがっ!?」
なんかドラゴンみたいな巨大なサメ君が猛スピードで来てくれたので、クラゲを全部残らず口に詰め込んであげた。
腹いっぱいなのか、プカーッと逆さまで浮いている。魚もそんな風に寝れるんだな。おやすみ。
【ドラゴンシャーク】(水族)
威力値:13000
竜を彷彿させる造形に巨大な体。海で出現する。単体で現れる事が多い。巨大だが動きは俊敏で手強い。大きな口には鋭い牙がビッシリ生えていて噛まれたらひとたまりもない。小舟くらいならカンタンに飲み込めるぞ。3人以下で挑んではいけない。中級下位種。
寝てたサメ君、なんか突然爆破四散した。うむ食べ過ぎいかんな。
「さて、水面歩く練習しましょ」
「え? ……できんの??」
「簡単よ。初歩の水魔法さえ使えれば誰でもできるもの」
ヤマミはなんと階段でも登っているかのように、スタスタと海中から上がっていって無事海面に立ったではないか。
「足裏から水魔法を使って、こちらへ反発させるだけ」
「ほいほい」
事前に習ったのは水魔法ミズッポ。よく水鉄砲のように水の塊を打ったりする事が多いが、自然の水を若干操れる事もできる。
それで自らへの浮力を強くするんだぞ。
チャプ、チャプ、チャプ、ついにオレの足裏が海面に着いたぞ!
「おおおおお!!! 忍者みてー!!」
たまらず感激して、その場でピョンピョン跳ねた。
運動会だーと言わんばかりに走り回ったり、思い切ってジャンプしたり、ホップステップジャンプしたりした。
ヤマミは「ふふ」と微笑む。
「まぁ、今まで海で何かやるとかなかったもんなぁ……」
「そうね」
砂浜が遠くなっていくように、オレたちはただっ広い海へ悠々快適に散歩していくぞ。
なんかミキサーみたいに牙が回転する口の大きなウツボっぽいのが襲ってきたけど、ワンパンで風船みたいに破裂しちゃった。ぱぁーん!
次は尖った魚がミサイルのように飛んできたけど、胸を張って受け止めると勝手にグチャーッと自ら潰れて砕け散った。
こんな手応えのないモンスターは初めてじゃ……!
【ミキサーフィッシュ】(水族)
威力値:7500
ウツボみたいに細長い怪魚。ミキサーのように無数の牙を回転させて獲物をジョリジョリ削り砕いて食う。下級上位種。
【セイバーカジキ】(水族)
威力値:5700
上顎から伸びるロングソード級のツノを持つ。某漫画の影響で別名『牙突魚』と呼ばれている。突進して突いたり、振り回して斬り刻んだりできる。下級上位種。
海だからエンカウントしたか分かりにくいなぞ……。
ズルッと水面が滑れる事に気付いて、アイススケートみたいに片足ずつ交互にシャーッと滑っていけば速い速い。
「こういう発想いいわね」
ヤマミも同じように滑りながら並走してきた。面白い。
ボートレース並に飛沫を上げながら高速で滑っていると、海面にポツリと立つ海丘が見えてきた。
ポッカリ黒い穴が見える…………。まさか『洞窟』か!?




