201話「インドピース・大決戦篇⑫ 俺嫁ァ!」
砂漠の街、ジャイプールでのアンベール城!
クリーム色の頑強な城! インド象が周囲で闊歩!
ポッと出キャラのスピリアが対峙するは、黒髪オールバックのイケメン青年!
濁ったような黒い瞳! 耳にピアス!
オーラに包まれたアルバムを読んでいる!
『八武衆・黒狼師フシュール・チョウダン』
ド ンッ!
「貴様……!」
殺気立つスピリアはズズ……、とエーテルで全身を包む。
しかしフシュールは不敵な笑みを浮かべたままだ。
「……恨みを買った覚えはないのだが?」
「ああ、無い。無いが、脳内設定ではその姿は『私の一族を皆殺したキャラ』という事になっている」
「うん、うんうんうん。本当にはた迷惑な事で」
「恨みはないが私怨で貴様を殺す!」
静かに佇む青年は冷や汗を垂らす。
「ちょっと待って? 脳内設定で恨まれてもしょうがないんだが?」
「その姿で私の前に出てきたのが運の尽きだ。諦めろ」
フシュールはハァとため息を付いて、口元に快い笑みを浮かべた。
「いいよ。やろうか?」
「ああ!」
両者ともにズズ……、とエーテルを全身に纏う。HUNT○R×H○NTER風に!
頭が切れる(?)スピリアは察する。フシュールの持つ本はアルバム。分厚い表と裏と背表紙。中に挟むのは紙の束か、もしくは何か?
手に持つアルバムはどうしても武器にはならない。
恐らく複数の能力を発動できる『具象化系』か『特異系』能力者に該当する。
「コレが気になるかな?」
ゴゴゴゴゴ……! (臨場擬音)
本体となるフシュールは優男であるものの、多少の格闘ができるほどに筋肉はあるだろう。
するとアルバムから風呂敷を取り出してくる。柄はアニメキャラの顔。
それをバサバサはためかせてきた。
迂闊に踏み込めばやられる、スピリアはそう見た。
しかしそれがブラフだと深読みする。そう見せかけて実は時間稼ぎ。何か能力があると思わせて警戒させる事で時間を稼ぐ。
しかしマントのように後ろへバサリとかけて、首元で普通に結ぶ。
「よし! 身なりは整った!」
「……ん?」
首を傾げるスピリアに、フシュールも「ん?」と首を傾げた。
「なんか効果とか?」
「いや別に? 全然効果などないぞ? アニメキャラの風呂敷や。柄になっている女性キャラが気に入っているんでマント替わりとして使っているんだ」
ただのアニメ愛好家だった? いや、そう見せかけて能力を隠し持っているに違いない!
敢えてカードを切らせたかのように見せて、後で不意を突く為にブラフをかけている!
「そして、本当の能力は……」ズズ……!
スピリアは見開いていく。
なんとフシュールが筋肉を膨らましてムキムキになっていくぞ?
170センチぐらいだったのに3メートルを越える大男に!? しかもアルバムも巨大化している!?
ギリッとアルバムを握る力で軋む!
「俺を『特異系』能力者と思い込む人が多い。俺もそうありたかった。だけど何とか式で『増強系』能力者と判明しちまったんだァァァァ!!」
なぜか逆キレしてきたぞ!?
素っ頓狂になるスピリアは恐る恐るアルバムへ指さす。
「じ、じゃあ、それは具現化したのではないのか?」
「……いや苦手ながらも懸命に具現化したアルバムだ。メモリー使い切った」
「そ……そうか」
「うん」
しばし間の抜けた沈黙が続く……。
フシュールはガバッとアルバムを開いて、それをスピリアに見せた。
な、な、なんと! アニメキャラの女性キャラ画像がいっぱい貼り付けられているではないか!
「『推しの収集』! 推しキャラの画像を貼り付ける為のアルバム! そしてその真髄は俺の嫁を蓄える事で攻撃力を倍増できる事にある!」
興奮してきたフシュールは全身から莫大なエーテルを放ち、全てを揺るがしていく!
「万覇羅!!」ドン!
インド人特有の心髄を張り巡らせて、フシュールは鋭い視線を見せ、叫ぶ。
すると全身の血管が赤く浮かびドクンドクン脈動を鳴らせ、徐々に湯気が吹き出ていく。
「二つの力を同時に……? おまえは……一体!?」
「超の孫○空がブルー状態のままで界王拳やるのと同じ原理だよ!」
「アニメ見すぎだろ」
「クラ○カに寄せたお前に言われてもな」
スピリアは図星突かれて「ぐっ! 確かに!」と唸る。
「……さて、この俺の実力を見よ!」
フシュールの体から周囲へ煙幕の渦が吹き荒れる。威圧混じりにシュボボボボボと噴出音のように鳴り響いてきた。
そしてボサボサだったの黒髪がやや逆立ったぞ。
エーテルを纏いながら、同時に煙幕の渦を巻くエフェクトァ!!
「来いよ?」
「よかろう!」
スピリアはカッと真紅に目を輝かせて、五指からエーテル纏う鎖を放つ!
フシュールの全身を包んでビシィッと縛り上げたァ!!
「五手指・鎖縛天罰!! 貴様の能力はこれで──」
「効かァーぬ!!」
なんとムキムキのマッチョで縛ってくる鎖を破裂させて破るァ!
そう、エーテル由来の能力は封じても、筋力とインド特有のオーラである心髄だけは封じられない!
「そしてぇー!!」
フシュールはアルバムを横に振りかぶって、思いっきりスピリアに叩きつける!!
バゴアッ!!
「!!!!」
吹っ飛んだスピリアは城のあちこちをバゴバゴバゴン貫いていく!
それでも宙返りして着地して、天高く飛び上がって両手両足からの鎖をビュンビュン降らせた!
ただ振り回して打ち据えるだけでもかなりの攻撃力となる!
「萌ええええええええええッ!!」
推しキャラをエロいムードで脳内に再生させる事でフシュールは活気が漲り、超絶強化して鎖の打撃をものともしない!
中でも『ハレヒの陰鬱』のミルクちゃんと『ドラゴンテイル』のルシーィが推しだぁぁぁあ!!
巨乳好きでボインボイン揺れる妄想で脳内を満たし、激興奮!
「おっぱいは正義ァァァァァ!!」
振り下ろされてくるアルバムを、スピリアはギリで回避!
するとアルバムは眼下の城を砕き、バゴオオオォォンと衝撃波を広げて半壊させたァ! 煙幕が爆ぜ、破片が四方に飛び散る!
まさしくフシュールの言う通り『増強系』能力者だァ!
「ミルクちゃんとルシーィちゃんは俺の嫁────ッ!!!」
「キモいぞ! 貴様!」
滞空したままスピリアは両手両足からエーテルこもる鎖を振り回す!
ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!
「!!!」
鞭のように全身を完膚なきまで無数の鎖で連続殴打!!
しかぁーし、煩悩満載のフシュールにとって痛みも痒くも無ァい!!
「『とある心霊の超霊砲』の食峰繰祷サイコ────ッ!!!」
更に速度を上げてついに鎖の嵐を突き抜けて、フシュールのアルバムがスピリアにクリティカルヒットォォ──────ッ!!
推しキャラで敷き詰められたアルバムの重みがミシミシめり込む!
スピリアは「がっ!」と吐血し、物凄い勢いで城へ叩き落とされてバゴアアアアアアアン!
フシュールは“LOVE”を胸いっぱいにクルクル宙返りしながら急速落下!
「萌えキュンキュン俺嫁天国昇天卸し──────ッ!!」
ガガァァァアンッ!!!
「!!!」
うつ伏せのスピリアの背中にアルバムが炸裂────ッ!!
これは痛烈! たまらず「がはあッ!!」と吐血ァ!
バゴオォォォォン!!
その衝撃で城が崩壊して煙幕を噴火のように吹き上げて破片が飛び散った!
ついでに『宮殿境門』も砕いてしまいオウンゴールゥゥゥ!!
「あっ」
それを見届けていたダウートげきおこ!