20話「心ゆくままにイチャイチャ回」
立山アルペンルートの締めに、黒部ダムという巨大なダムに着いたぞ。
頑強なコンクリートの壁が渓谷に聳え、反対側に広大な湖が広がっている。湖の水をダムが塞き止めて、放水量を調整しているらしいなぞ。
しかしダムの上は巨大な橋のように道路に整備されていて、観光客が多く行き交いしている。
そして近くには食堂やお土産店などがあって、観光するには充分だった。
「でかいね……」
「うん」
風になびく黒髪のヤマミは幅の広い道路、湖、渓谷の方を物珍しい表情でキョロキョロしていた。これも初めての事だろう。連れてきて良かった。
ちょうど日が傾いていて、やや橙になろうとしている。
……立山の方で色々あったからなぁ。随分遅れた。
「近くの宿へ泊まろうか?」
「ん、いいわね。それ」
ヤマミも笑顔で賛成だ。
オレもウキウキだ。こうして何の憂いもなくただの観光旅行しているのだから……。
お土産店を回ったり、喫茶店でパフェ食べたり、場所変えて景色を眺めたり、そして気が済んだらバスに乗って降りていった。
付近の宿へ行って、泊まれそうなので泊まる事になった。
大きなホテルで、浴場も広い景色が見渡せるものだった。
竹の柵で囲み、木の屋根があるが景色を見渡せる広い隙間があった。そして岩で囲んだ温泉。湯気が立ち上っていて周囲のランダム的岩のタイルは濡れていて鏡のようだ。
「露天風呂なのね……」
「ああ」
オレはドキドキしながら、バスタオルを巻いたヤマミの接近を待った。
彼女はゆっくりと湯に浸かり、オレの側まで来ると頬を赤く染めて微笑んでくれた。艶っぽい肌と美人顔を見ると心音が高鳴った。
……まるで初めてのようだ。一緒に入った事はなくもなかったけど、あん時は星獣だの魔王化だの色々あって余裕がなかったからに違いない。
こうして(何度も言うが)憂いもなく、混浴で共に浸かるのは新鮮な気がした。
チューブトップみたいに胴をバスタオルで巻いているものの、胸元の谷間が目に入りドキッとさせられる。思わず顔を背ける。
「どうしたの? 赤いわよ?」
「……もうごまかす事は言わない、すごく色っぽくて綺麗だなって…………」
「もう!」
オレの頭に軽くチョップが入った。ぺしん。優しい……。
そう、普段のように「なんでもない」とか、ひねくれて「全然可愛くない」とか、ごまかすような事はもう必要ない。誤解されるような事もなるべくしたくない。
ヤマミだからこそ正直にありたいと思ってる。
ヤマミ以外には言わないぞよ。
これがリョーコやエレナ辺りだったら「なんでもねぇ!」「おい近いぞ。離れてくれ」とか言って距離を取る。
あいつらも美人だしリョーコは胸大きいし、エレナちゃんは可愛いロリで積極的だし、魅力満載なんだけどね。だが浮気はせぬ! 許せ!
「……ありがとうね」
肩にそっとヤマミの艶かしい手が触れてきて、オレは振り向く。
頬を赤らめて優しい笑顔のヤマミ。
「ん、いや。ヤマミと一緒に楽しもうって思ってたからな」
「ふふ」
目を細めて笑ってくる。やばい可愛い。抱きしめたいくらい可愛い。
「長かったな。ここまで来るのにさ…………」
オレは薄暗くなっていく風景を見やって、遠い目をする。
数多の並行世界を渡っている時にヤマミと出会って、奇妙な事ながら妖精王に魅入られた者同士で一緒に並行世界を渡り続けてきた。覆しようがない残酷な運命にオレたちは翻弄されて、時には仲違いしたりすれ違ったりした。
それでもオレとヤマミはどこか繋がっていた。
「魔王化を言えなかったりして、誤解もあったな」
「うん。ごめんね」
「逆の立場だったら、そりゃ同じ事する。無理ないよ。魔王化して欲しくないんだもん」
「うん…………」
オレの肩にヤマミの頭がもたれかかる。
「ねぇ……今は大丈夫?」
「今は浄化力の強い妖精王も進化してるし、星獣もいるし、大丈夫。星獣も言ってたけど“解決する方法”があるって言ってた」
「魔王化自体は解決してないのね……」
オレは脳裏に、大魔王となったヤミザキを浄化した時の事を思い返していく。
「ヤミザキにしたように、オレの中の大魔王も浄化してやるから!」
「私も手伝う……」
ヤマミの手がオレの手の指の間に絡みつくように組み合っていく。
しばし裸に近しい姿でオレたちは寄り添った。温かいぬくもりで心が癒される。
すっかり夜になった頃、オレたちは晩飯を済ませて部屋に戻って、テレビを見て談笑したりした。
何故かヤマミが持ってきたゲーム機で寝る時間まで二人で熱中したりもした。
下らない事で笑ったり騒いだり駄弁ったり、それだけでオレたちは充実感を身に染みて感じ取れた。
布団を敷き、部屋の灯りを消すと共に二人並んで寝転がって、互い顔を見合わせる。
しばし惚ける気分のまま、眠気が押し寄せてくる。
「おやすみ」「おやすみ」
安堵したまま、意識は闇へ沈んでいった…………。
朝の眩しい光が差し込んできて、オレは目を覚ますとヤマミの顔が接近していてドキッとした。
体が密着していて柔らかい弾力がぷにっと感じられて更にドキッと!
「ん……」
オレは慌てそうな気持ちに関わらず動けなかったが、ヤマミは目を擦って「おはよう……」と身を起こしていく。
それに続くようにオレも身を起こす。
「お、おはよう……」
「ごめん。心細かったから…………」
「いや、いいよ」
なんだヤマミの方から密着してきてたのか。
前も似たような事はあったけど、今こうして見ると初めてにさえ思えてしまう。
「オレの家では並んでただけなのにね」
「親の手前、そういうワケにはいかないでしょ」
口を窄めたヤマミは立ち上がって手洗いへ向かっていった。オレは呆然とした。
うーん、下心持ってたらヤマミとあんな事やこんな事してたのかな……?
悶々とする妄想が浮かんできてナニカが硬くなっていくのを感じ、慌てて股の方を手で押さえてしまう。
でも密着してた時に胸の弾力が今でも忘れられない。柔らかかったなぁ。
温かくて柔らかくて……甘美的な…………おっぱい……。
「えーい! 静まれ静まれ! オレの荒ぶる力よ!」
「何言ってるの?」
戻ってきたヤマミはキョトンと首傾げ。
一緒に歯磨きして、食堂で朝飯のバイキングを済ませて、宿を出た。
スッキリ朝日で眩しい青空。
オレは「うーん」と腕を伸ばして背伸び。ヤマミは「ふふっ」と微笑みかけてくれる。
何を思ったかヤマミが近付いてきて腕を組んで「行きましょ!」と積極的に催促してくる。不覚にもドキッとさせられて顔が熱くなるのを感じた。
ぷにっと感触も忘れずで、オレのドキドキは相変わらずだ。
でも、これからずっと共に歩んでいける。
「ああ! 一緒に行こう!」
オレとヤマミは晴れ晴れとした気持ちで、宿を後にした……。




